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【特別対談】
紙から脱出せよ
コンビニ業界から紐解く!電子化とデジタル戦略で変わる流通・小売りの未来

 

ますます熾烈さを極めるシェア争い、一方で慢性化する人手不足や商品の均一化など、課題の多いコンビニ各社。世界的に見ても高度に精緻化されたビジネスモデルのように見える同業界だが、「いっそうの業務効率化がカギを握る」と語るのは大手コンビニでの経験から、日本の小売業界を良く知る流通アナリストの渡辺広明氏だ。帳票の電子化で日本をリードするウイングアーク1stの取締役副社長 COO田中潤氏と渡辺氏が、小売業界、流通業界の未来を拓くデジタル変革について語り合った。


イートインは救世主? コンビニに山積する課題

田中 潤 氏
ウイングアーク1st株式会社
取締役副社長 COO
シニアエバンジェリスト
システム開発エンジニアとして、主に企業の業務システムやWebアプリケーション、ECサービスの開発に携わった後、2004年にウイングアークに入社。2017年、全社の事業を統括するCOOに就任。国内外のお客様との交流を通して、データに価値を与え、企業のイノベーションを提言する活動を実施している。

田中 渡辺さんはローソンでの経験が長く、コンビニエンスストア(以下コンビニ)業界に精通していらっしゃいます。そこで伺いたいのですが、日本のコンビニは非常にシステマチックでサービスも品ぞろえも行き届いていて、世界でも抜きん出たビジネスモデルを構築していると感じます。ただ一方で、セブン‐イレブン、ローソン、ファミリーマートなど競合が居並び、各社とも規模の拡大などによって覇権を争っています。ただ、成長を急ぐあまり、非効率的な部分や解決しなければいけない課題がなおざりにされているのではないかと感じています。渡辺さんはどう見ていらっしゃいますか。

 

渡辺 確かにコンビニ業界は完成されたビジネスモデルのように見えますが、まだ効率化の余地があると見ています。日本のコンビニは商品の均一化が進み、差別化を図るためのアイディアを店舗ごとに生み出していかないと収益力は頭打ちです。そのためにも業務の効率化でムダを少しでも排除することが欠かせません。そんなコンビニ業界ですが、最近のトピックスはなんといってもイートインでしょう。コンビニ大手3社合計の約28%の店舗にイートインが併設されていて、現在1万4000店くらいあります。これが2018年までに約33%の1万7000店くらいになるといわれ、新しい戦略として業界の期待を集めています。イートインの長所は、顧客が好きなものをその場ですぐに食べることができ、ゴミも処分できること。変化する顧客のニーズをよく捉えていると思います。ただ、結局これも各社横並びで、決定的な差別化にはつながっていません。肝心の商品の均一化に対する方策では、店舗ごとに顧客の分析を行って受発注や陳列を店ごとにカスタマイズするなど、よりきめ細かい対策で顧客満足度向上につながるアイディアが必要です。ところが圧倒的に人手が不足しており、それもままなりません。結果として工夫のない発注を行うことになり、店舗ごとの特徴を出しにくい状況が続いています。押し寄せる定型業務に忙殺され、有効な戦略の立案や実行に割く時間がまったくない。外国人労働者の雇用を進めていますが追いつきません。これを打開するには、業務の電子化をさらに進めて定型業務をなるべく自動化し、店長やマネージャーは戦略立案や実行といったクリエイティブな業務に集中すべきなんです。

 

“アナログプロセス”の呪縛が働き方改革を阻む?

渡辺 広明 氏
流通アナリスト
ローソンの店長・バイヤーを22年間経験した後、さまざまなメーカーでマーケティングや商品開発を担当。開発に携わった商品は600を超える。また、フジテレビ系列「ホンマでっか!?TV」をはじめ、バラエティ番組やNHK・民放のニュース番組コメンテーター、流通専門誌、新聞など各種メディアに活動の幅を広げている。

田中 コンビニ成長の鍵を握る差別化戦略も、結局根底にあるのは働き方の問題なんですね。政府主導でなにかと話題の「働き方改革」ですが、私は、単に今ある業務を切り詰めていくだけでは、「働き方改革」にはつながらないと見ています。日本の企業の業務には、「印刷する」「書類を届ける」「ハンコをもらう」「ファイリングする・探す」といった数多くの“アナログプロセス”が存在し、その一つひとつが業務効率を妨げ、働き方改革を難しくしています。

 

渡辺 確かに日本の企業でどこでも見られる光景ですね。そのあたりを根本的に見直さないと改革は進まないかもしれませんね。私は仕事柄多くの人や情報に接しますので、いかに情報を電子化して蓄積し、必要な時にすぐに引き出して活用できるかを考えています。ただ、蓄積はできても、それを後で探すのに時間がかかってしまったり、まだまだ思うような情報の管理ができていません。企業だけでなく、私にとっても情報の電子化による業務の効率アップは大きな課題ですね。なにか良い方法はあるのでしょうか。

 

田中 ここまでお話しした内容ですと、私は「アナログプロセスの象徴である紙は業務から一切排除するべき」と言っているように聞こえるかもしれませんが、当社は「受発注業務」の際に必ず発生する“帳票”を出力するソフトウェアを開発しており、帳票分野ではトップクラスを自負している会社です。帳票の世界を見つめ続けてきたからこそ、紙の帳票がビジネス上重要な役割を果たしていることもよく分かっています。ただ、紙を電子データに置き換えることで効率化できる業務はたくさんあります。なにより、日本の多くのビジネスパーソンが、「紙による業務管理」に追われているのは「もったいない」と感じています。そこで、デジタル化の流れを捉えて“紙”と“電子化”を適切に取り入れた、いいとこどりのハイブリットな提案をしています。今当社では、紙のドキュメントを電子化し、極力、業務の自動化をITに任せる「SPA」という製品を開発し、企業の業務効率化の原動力にできないかと考えています。渡辺さんは膨大な電子ファイルを収集したり関連付けたりするのに苦労していらっしゃるようですが、このシステムを使えば、簡単に電子ファイル内の必要なページを関連づけて取り出すなど、整理・活用がしやすくなると思いますよ。

 

渡辺 いいですね、私もぜひ使いたいです。いくら紙を電子化しても、それを効率的に活用できる仕組みがないと業務の負荷軽減にはつながりませんから。

◆小売・流通業界でのSPA活用イメージ 拡大画像表示

電子化&AIで変わる小売りや流通の未来

田中 どこの企業にもアナログなプロセスが残っているので、効率化できる余地があると思います。電子化すれば社内でなくても作業が出来るようになりますから、育児や介護で会社に来られないという社員のワークスタイルにもフィットすると思います。ビジネスにとって重要ながら、代表的な「アナログプロセス」である契約も、電子化すればハンコがいらなくなり大幅に処理を短縮できます。

 

渡辺 小売りの現場に取り入れるとしたら、その一例は小売専用倉庫からメーカーへの受発注業務でしょう。コンビニは欠品が許されない業態で、負荷の高い業務となります。しかし大手のコンビニも含めて、ほとんどがベンダー卸売業者に受発注を丸投げしているのが実態です。アウトソーシングして効率化を図っていると言えないこともないですが、競争力強化という点では、その店舗に最適な受発注ができているか疑問が残ります。外資系や製造小売業は、デジタル化とともにメーカー直販体制でコストを削減して成長しています。メーカ直販体制になると、さらにコンビニ店舗で扱う紙の業務負荷が増し、その点を効率化し、デジタル化できるかどうかもポイントといえます。

 

田中 私は毎日の仕事の中で、社会の大きな変化を肌で感じています。ここまで伺ったように、小売りや流通業界も社会情勢の変化に対応していく必要があります。デジタル変革が差別化や競争力向上の源泉となり、この先きっと大きな成長を遂げると考えています。電子帳票を一元管理し情報やプロセスを共有した上で店舗オペレーションを行うなど、業務が劇的に効率化していくイメージです。さらにそこにAIによるデータ分析が加わって、電子化とデジタル戦略は企業が勝ち残っていくための必須項目になっていくと考えています。今後、流通・小売業界でどのようなデジタル変革が起きるのか注目したいと思います。本日はありがとうございました。

 

●<SPAについて> 電子化×自動化「紙ゼロ宣言」
  http://www.wingarc.com/product/spa/denshi/