日本最大級のドラッグストアチェーンであるコスモス薬品が、いま、サプライチェーンの次なる進化に向けた取り組みを始めている。
コスモス薬品は、「エブリデイ・ロー・プライス(EDLP)」戦略を掲げ、「小商圏型メガドラッグストア」のビジネスモデルにより日用品、医薬品、食料品を全国1,600超の店舗で展開しており、多種多様な商品と高い価格競争力により、幅広い顧客の支持を集めている。
これまでも、高度な運用ノウハウと綿密な計画調整により、低い欠品率と高い在庫回転率を実現する質の高い発注計画を維持してきたが、店舗網のさらなる拡大や顧客ニーズの変化を見据え、こうした商品供給体制を今後も再現性のある形で維持・進化できるかという課題が浮上していた。
コスモス薬品が取り組むサプライチェーンの最適化
こうした背景のもと、コスモス薬品はフィンランド発の統合サプライチェーンおよび小売計画プラットフォーム「RELEXソリューションズ」の導入を決定。一部地域の店舗から導入を開始し、全国の店舗及び物流センターへの展開を計画している。
小売業界ではこれまで、現場の判断に基づく柔軟な運用が重視されてきた。
発注のタイミングや補充量も各店舗や担当者の裁量に委ねられ、「欠品を避けるための過剰在庫」もある程度は許容されてきた。
しかし、人手不足、原価高騰、消費行動の多様化、物流制約といった複数の課題に同時並行で直面する中で、もはや感覚や経験だけでは商品の安定供給を維持するのが難しい時代に入っている。
今求められているのは、サプライチェーン全体を俯瞰し、可視化された情報に基づいて即座に判断・実行できる「仕組み」を構築することだ。
たとえば、今この瞬間に「どの店舗で・どの商品が欠品し」「どこに過剰在庫があるか」「明日もしくは1週間後に在庫が切れる可能性はあるか」こうした問いに即答できる企業は、まだ一部に限られるのではないだろうか。
需要予測・補充・最適化を統合的に支えるRELEX
RELEXは、こうした不確実な供給環境に対し、「需要予測」「補充計画」「可視化と改善」の3つの領域からアプローチする統合プラットフォームを提供している。
① 需要予測:カテゴリ横断・全拠点の精緻な未来予測
多くの企業が需要予測に取り組んでいるものの、特定カテゴリに限定されていたり、商品群ごとに異なるシステムで構築されていたりと、全体最適には至っていないのが現状だ。
RELEXは、POS・販促・天候・曜日・地域イベントなど、需要に影響を与えるあらゆる要素を加味し、全SKU・全拠点の需要と在庫を単一のプラットフォーム上で予測可能にする。
生鮮・総菜・冷凍・チルドなどカテゴリごとの特性を踏まえた高精度な予測モデルを共通基盤上で提供することで、全体整合性の取れた、持続可能な予測運用を実現する。
さらに特筆すべきは、店舗起点で在庫型物流センター(DC)の需要を「逆算する」アプローチである。
店舗とDCの予測・在庫データを連携させることで、店舗・DC・本部が同じ予測を前提に一貫した計画を立てられるようになる。これにより、部門間の認識齟齬や二重管理といった運用リスクを排除できる。
その結果、サプライチェーン全体の流れがスムーズになり、欠品や過剰在庫といった両方のリスクを大幅に抑えられる。
日本が誇るきめ細かな物流基盤とマニュアル作業の積み重ねを、川上から川下まで統合したサプライチェーンに昇華させることで、さらに高次元の体制を実現できるはずだ。
②補充計画:制約条件を踏まえた最適な発注設計
そして、予測はあくまでも、供給計画における「起点」に過ぎない。
本来あるべき補充計画とは、需要予測をベースにしながらも、安全在庫や棚容量、作業キャパシティなどを加味し、現場の負荷を抑えつつ、いかにムダなく補充するかを設計することにある。
従来の定量発注やMin-Max方式のような「品薄になったら発注する」方式では、補充が後手に回り、物量や作業が一時的に集中することがある。トラックや人員が逼迫し、店舗・センター双方での突発対応が常態化しやすいという構造的課題を抱えている。
RELEXでは、トラックの積載条件、リードタイム、発注ロット、発注頻度などの制約条件をすべて加味し、経済合理性の高い補充タイミングと発注数量を自動算出する。
例えば、生鮮食品など優先度の高い商品の入荷が特定の日に集中すると、物流リソースが逼迫するリスクがある。そこで、腐敗の心配がない日用品などを前倒しで入荷することで、リソースを分散させる調整が容易になる。
つまり、一週間の中で日ごとに発生する波をならし、特定の日に偏りがちな発注量を他の日に分散させることで、短期的な配送負荷の偏りを抑えることができる。
結果として、「品薄だからとりあえず発注」といった場当たり的な運用から脱却し、物流波動を抑えた安定供給と、現場への負担軽減を両立できる補充体制が構築可能となる。
③ 可視化と最適化:欠品や過剰在庫を回避
さらに、精度の高い予測と補充を実行するだけでは十分ではない。
本当に計画通りに「適切な量の商品が、適切な場所に届いているか」をモニタリングし、必要な対策を取ることが不可欠だ。
RELEXでは、単なる在庫数量の記録にとどまらず、欠品率や過剰在庫といったビジネス上重要な指標を、事前に定義したルールに基づいてサプライチェーン全体で可視化できる。
その上で、需要予測に基づいたシミュレーションと連動し、SKUごとの欠品・過剰リスクをアラートで検知、迅速な対応を可能にする。
このダッシュボードを基盤にすれば、商品ごとのきめ細かいコントロールが可能になる。
例えば、重点商品は安全在庫を高めに設定して優先的に補充する一方、重要度の低い商品は発注頻度や数量を調整して過剰在庫を防ぐ。こうしたメリハリのある在庫戦略を、現場の属人的な判断に依存せず、システム主導で運用できる。
この可視化機能を土台とすることで、きめ細かなPDCAサイクルを回し、改善までを一気通貫で支援できる。これこそが、これからの日本の小売業に求められる“次の標準”である。
仕組みで“強み”を未来に引き継ぐ
RELEXの強みは、単なる業務効率化ツールではない。
それは、企業がこれまで築いてきた現場力を、仕組みとして再現可能なかたちに翻訳し、次世代へと引き継ぐための基盤でもある。
すでに高精度な供給オペレーションを実現している企業にとっても、それを“継続的に、誰でも再現できる状態”にすることは、新たな成長のための重要なテーマだ。
コスモス薬品がRELEXを導入したのは、「いまのやり方が限界だから」ではない。いまの強みを、将来まで強みとして持ち続けるための意思決定である。
小売業のサプライチェーンは、これから「人の力」から「仕組みの力」へと進化していく。
コスモス薬品のこの選択は、その象徴的な一歩となるかもしれない。
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