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商品ページは「聞く時代」に! アマゾンが進めるAI戦略の最前線

米アマゾン(Amazon.com)は、AIによって商品情報やレビューを音声で要約する新機能「ヒアー・ザ・ハイライト(Hear the highlights)」のテストを米国で開始した。これは、同社が掲げる「すべての顧客体験をAIによって再発明する」という戦略の一環であり、巨額の資金を投じて推進されているAI施策の最新事例だ。アンディ・ジャシーCEOが「競争力維持に不可欠」と語るAIは、小売業における顧客接点の構造を根本から変えつつある。今回の新機能の概要とともに、アマゾンの包括的なAI戦略が業界にもたらす影響、そしてその裏側に潜む課題を考察する。
※1ドル=150.76円で換算

米アマゾンは音声要約の新機能「ヒアー・ザ・ハイライト(Hear the highlights)」のテストを米国で開始した
米アマゾンは音声要約の新機能「ヒアー・ザ・ハイライト(Hear the highlights)」のテストを米国で開始した

AIが商品の「聞きどころ」を瞬時に解説!

 アマゾンが掲げる「AIによる顧客体験の再発明」は、具体的な機能開発として着実に実装され始めている。なかでも注目されるのが、音声で商品情報を伝える新機能「ヒアー・ザ・ハイライト(Hear the highlights)」だ。

 これにより、消費者は通勤中や家事の最中でも、画面を見ることなく効率的に商品情報を収集できる。とくに、高価格帯の商品や性能比較が重要な家電製品など、購入検討に時間がかかるカテゴリーにおいて、導入効果が期待されている。

 「まるで知識豊富な友人が商品を解説してくれるような体験」をめざすというこの機能は、購買意思決定プロセスの短縮とコンバージョン率(CVR)の向上に貢献すると見られている。

15兆円規模の投資で加速するAI戦略

 今回の新機能は、アマゾンが進める大規模なAI戦略の一端である。ジャシーCEOは2025年4月上旬の株主向け書簡の中で、約1000億ドル(約15兆1000億円)規模と報じられるAI分野への投資について「あらゆる顧客体験がAIによって再発明されると信じるならば、深く、そして広範にAIへ投資することは必然だ」と述べ、AIが同社のミッションの中核に位置づけられていることを強調した。

 その言葉どおり、アマゾンはAI向け半導体の確保やデータセンターの増強といったインフラ投資を積極的に進めている。好調なクラウド事業であるアマゾン・ウェブ・サービス(AWS)を収益基盤とし、AI分野への大規模投資を継続できる資金力があることも、同社の強みだ。

ショッピングのあらゆる側面に活用されるAI

 アマゾンはすでに、AI技術をショッピング体験のさまざまな場面に組み込んでいる。代表的な取り組みとして、以下のような機能がある。

ルーファス(Rufus):生成AIによる対話型ショッピングアシスタント。商品に関する質問に会話形式で対応

ショッピングガイド:100種類以上の製品タイプを対象に、動的な推奨や比較情報を提供するリサーチ機能

レビューハイライト:多数のレビューから共通する傾向やテーマをAIが抽出し、要点を可視化

 これらはすべて、顧客一人ひとりのニーズや文脈に即した高度なパーソナライゼーションを可能にするものであり、「探す」から「見つかる」への購買体験の転換を促進している。

 さらに、AIスタートアップの米Anthropic(アンソロピック)への出資や、同社のAI基盤モデル「Claude(クロード)」を活用した新型音声アシスタント「Alexa+(アレクサプラス)」の開発も進行中であり、アマゾンのAI戦略は今後さらに広がりを見せることが予想される。

AIの「光と影」が小売業に突きつける問い

 アマゾンが掲げる「AIによる顧客体験の再発明」は、消費者に新たな利便性をもたらす「光」の側面がある一方で、小売業全体に構造的な変化を迫る「影」の側面も併せ持つ。

 とりわけ、AIによる推奨機能の高度化が進むことで、消費者の購買行動に対する影響力は今後ますます強まると見られる。その結果、「どの商品が、どのようなロジックで推奨されているのか」という点が、従来以上に問われることになるだろう。アルゴリズムの透明性や説明責任、バイアスの排除、そして消費者データの取り扱いといった倫理的課題にどう向き合うかは、AI活用を推進する企業にとって避けられない論点となる。

 加えて、企業のESG(環境・社会・企業統治)への関心が高まる中で、AI活用と環境・社会との調和をいかに実現するかも問われている。アマゾンのAI戦略は、その成否にかかわらず、他の小売事業者にとって先行モデルとなるだろう。

 アマゾンによるAIへの巨額投資は、他の小売業者とのあいだにさらなる「データ格差」「技術格差」を生む可能性がある。この潮流に、他の事業者はどう対抗すべきか。単なる追随ではなく、自社の顧客基盤や店舗網といった強みを生かし、独自のAI活用や人間的で温かみのある顧客体験をどう創出していくか。AIと共存する未来を見据えた、各社の戦略的な思考と実践が今、問われている。

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