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勢力図塗り替わる米宅配市場、アマゾンがフェデックスを抜き「業界3位に」が意味することとは

 大手専業3社による寡占状態が続いていた米国の宅配市場に、ある変化が見られている。その動きの中心にあるのは、2019年にフェデックス(FedEx)と提携を解消し、自社配送に舵を切ったアマゾンだ。拡大するアマゾン宅配は業界にどのような影響を及ぼすのだろうか。
取材協力=高島勝秀(三井物産戦略研究所)

写真は2018年8月、フランスのボーブで撮影(2021年 ロイター/Pascal Rossignol)

取り扱い個数42億個! アマゾンのシェアは21%に!

 コロナ禍でEC需要が拡大した2020年、米国では企業別の宅配取扱個数でアマゾンがフェデックス(FedEx)を抜いて業界第3位となった。米宅配市場は18年までは米郵政公社(USPS)、ユナイテッド・パーセル・サービス(UPS)、フェデックスの大手専業3社の寡占市場で、3社の合計シェアは95%に達していた。それが19年、アマゾンがフェデックスとの提携を解消して自社配送へと軸足を移したことで、状況が変わり始めた。

 アマゾンは、拠点や車両などの増強に加えて、ロボティクスをはじめとしたテクノロジー導入で効率化を図り、宅配に要するキャパシティを拡充させ、宅配ニーズの増大に対応する態勢を整えた。自社の直販ECの宅配に加えて、マーケットプレイスに出店するセラーの物流を請け負うフルフィルメントサービスも手掛けている。

 これはLaaSlogistics as a service)とも呼ばれる事業モデルで、アマゾンのセラーの約7割が利用している。20年には、専業3社のシェアが78%に低下する一方、アマゾンの取扱個数は18年の約6倍となる42億個に達し、市場の21%を占めるまでになっている(図表参照)

 海外流通に詳しい三井物産戦略研究所の高島勝秀氏は、「アマゾンの物流は、小売企業の副次機能という位置づけを超え、物流大手企業に匹敵する規模の事業となっている」と話す。アマゾンは22年からLaaSのサービスを、同社のECサイトに出店していないリテーラーにも提供していくと発表しており、宅配取扱のさらなる増加が予想される。

ウォルマートも宅配事業に参入!

 アマゾンには及ばないものの、小売最大手のウォルマート(Walmart)も、EC事業の拡充と並行して、宅配市場への参入を果たしている。同社のEC売上高はアマゾンの6分の1程度ではあるものの、20年には対前年比76%増と急拡大しており、それに伴い宅配機能も強化中だ。218月には、アマゾンと同様のLaaS事業「Go Local」を開始。21107日には、米ホームセンター最大手のホームデポ(Home Depot)が、同サービスを利用する第1号として名乗りを上げている。

 宅配市場におけるリテーラーの存在感がより大きくなりつつあるなか、大手3社の1つであるUSPが対抗する動きを見せている。219月、インターネット上のプラットフォームサービスを介して単発の仕事を請け負う「ギグワーカー」を活用して短時間宅配を行う米スタートアップ企業、ローディー(Roadie)を買収し、ラストマイル物流の補強を図った。

 このローディーは約20万人のドライバーと、米世帯の約9割をカバーする配送網を有しており、米家電量販店ベストバイ(Best Buy)などのEC宅配を担っている。「アセットライトで宅配のキャパシティを拡大し、今後も拡大が見込める宅配需要を取り込む施策に注目だ」(高島氏)

 高島氏は「リテーラーと専業の競合が激化するなかで、拡大を続ける宅配需要に対応すべく、両者による新たな技術や事業モデルの導入がさらに加速するだろう」と話している。