[上海 26日 ロイター] – 中国の商業の中心地、上海。「アリペイ」や「ウィーチャットペイ」に代わる決済手段を消費者に提供するという政治的使命を負った大手国有銀行6行が5月5日のショッピングフェスティバルを前に、静かにデジタル人民元を推進している。
国有6行は、企業や小売店の顧客にデジタルウォレットをダウンロードするよう呼び掛け。このデジタルウォレットで、取引はアリババ・グループ傘下のアント・グループやテンセントの決済プラットフォームを経由せずに、デジタル人民元で直接決済できる。
中国人民銀行(中央銀行)の指導のもと、デジタル人民元の試験運用に携わった銀行関係者は「デジタル人民元による決済が非常に便利で、アリペイやウィーチャット・ペイに頼る必要がなくなったと人々は気付くだろう」と語った。
中国のソブリンデジタル通貨の開発は、他の主要国に比べてはるかに進んでおり、アリペイやウィーチャット・ペイの優位が揺らぎかねない状況となっている。
背景には、中国当局がインターネット分野での非競争的行為取り締まりを強化していることがある。
昨年11月、規制当局は、アントの370億ドル規模の超大型IPO(新規株式公開)を阻止。今年4月には独占禁止法違反でアリババに28億ドルという巨額の罰金を科し、アントには金融持ち株会社への再編を指示した。
人民銀行はデジタル人民元について、アリペイやウィーチャット・ペイと競合せず、補完的役割を担うと説明しているが、国有銀行はデジタル人民元でアリペイやウィーチャット・ペイの支配力を削ぐことを当局が企図していると明言する。
試験運用に携わった別の銀行関係者は「ビッグデータは富であり、データを所有する者が繁栄する。ウィーチャット・ペイやアリペイは大量のデータを持っている」と述べ、デジタル人民元の展開は政府の独禁の取り組み促進やビッグデータ管理につながると指摘した。
人民銀行とテンセントはコメントを差し控えた。
アントは、アリペイとデジタル人民元の関係についてコメントを差し控えた。求められたが回答を拒否した。
巨大なデータ掌握へ
デジタル人民元は、人民銀行が銀行に対して発行し、銀行が個人や企業との間で流通させる二段階の供給方式を取る。
上海での試験運用に参加している国有銀行6行には、中国工商銀行、中国農業銀行、中国銀行、中国建設銀行が含まれている。
HSBCは最近のリポートで「デジタル人民元は、使い勝手でアリペイやウィーチャット・ペイと肩を並べるとともに、セキュリティー機能の面では勝り、ビットコイン並みに洗練されているとみられる」と指摘し、デジタル人民元が中国国内に浸透すると予想した。デジタル人民元の推進は、アリペイやウィーチャット・ペイに代わって決済チャンネルや消費データの掌握するという人民銀行の意向が働いているとの見方を示した。
露骨な除外
試験運用のデジタルウォレットは、美団、JDドットコム(京東)、滴滴出行、ビリビリなど10余りの人気アプリとリンク可能だが、ウィーチャット・ペイとアリペイはできない。
ある銀行関係者は、「情報分離」の必要性を挙げて「人民銀行は、資金がサードパーティーの決済システムを経由するのを望んでいない」と述べた。
PwCチャイナのグローバルTMTリーダー、ウィルソン・チョウ氏は、デジタル人民元は、消費の「ラストワンマイル」をデジタル化して銀行や企業がデータを取得し、消費パターンを把握できるようにすると指摘した。そのデータは今、94%をアリペイとウィーチャット・ペイの2社が握る。
チョウ氏は、デジタル人民元が今後数年で電子決済市場のおよそ10%を占め、アリペイとウィーチャット・ペイと共存すると予想する。
人民銀行の李波副総裁は先週の会合で「人民元のデジタル化は現在、国内利用の推進が優先事項だ」と述べ、人民元の国際地位向上に寄与するとみられているクロスボーダー決済より国内利用が先行する見込みを示した。