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環境や消費者に合わせ、変化への対応を加速=ウォルマート社長兼CEO ダグ・マクミロン

2014年2月1日、ウォルマート・ストアーズの新CEO(最高経営責任者)にダグ・マクミロンが就任した。就任時の年齢は47歳。創業者のサム・ウォルトンを除けば、ウォルマート歴代最年少のCEOの誕生だ。就任時からマクミロンCEOが言い続けていることがある。それは「変化すること、しかも、これまで以上の速さで変化すること」。小売業を取り巻く環境が変化するなかで、ウォルマートはどこへ向かうのか。14年6月にアーカンソー州ベントンビルで開催された、株主総会でのマクミロンCEOの発言をまとめた。

ウォルマート社長兼CEO●ダグ・マクミロン

経営陣全員が、これから起こる変化に大いに期待している。
変化への対応に投資していく

 私はこれまでウォルマートで長年にわたり働いてきた。会員制ホールセールクラブの「サムズ・クラブ(Sam’s Club)」やウォルマートUSなどを経て、最近5年間は国際部門を担当していた。それぞれの役割に応じた考え方をしてきたが、2月1日にウォルマートのCEOに就いたことは、当社の将来について深く考える機会を与えてくれた。直近に起こった出来事よりも、今後、何が可能かを考えるようになった。

 ウォルマートは継続的に変化を取り入れてきた企業だ。そして、当社の事業を発展させるために今後もいくつかの変化を起こすつもりだ。

 お客さまの購買行動は、かつてないほどの速さで変化している。当社はこれらの変化を上回るスピードで、そしてより柔軟に変わらねばならない。変化のスピードは速くなければいけないが、一晩で変化できるわけではない。大きな変革を引き起こすためには、それなりの時間がかかる。

 私だけでなく経営陣全員が、これから起こるだろう変化に大いに期待している。当社は変化への対応に投資していくつもりだ。

 まず、整理しておきたいのは、投資するに値するウォルマートの強みは何かということだ。サム・ウォルトンの基本方針のひとつに「世界中のウォルマートのお客さまに、自分の主人として仕えねばならない」というものがある。私はこの考え方が大好きだ。お客さまの声を聴き、彼らの期待を超えることにこそ、当社がこれまで成功を勝ち得てきたカギがある。

 当社はお客さまが望んでいることに対して他社が提供できない価値を提供してきた。ウォルマートの強みであるこの顧客対応力をさらに強化し、お客さまによりよく奉仕していくつもりだ。

最優先課題は、既存店の売上向上。スーパーセンターは
今後、何年も当社の経営にとって重要な役割を果たす

 顧客対応力をさらに強化し、お客さまによりよく奉仕するために、3つの方針を立てた。顧客中心主義の組織をつくること、アソシエーツ(従業員)に投資すること、技術とイノベーションで他社に先行することだ。

 私はCEOに就任したとき、顧客中心主義の考え方でウォルマートを率いていくことを決意した。まず、顧客中心主義に基づく組織の構築について話したい。

 今、お客さまがウォルマートに期待することは何か? 売場に楽しさがあること、欲しい商品をすぐに買えること、そして、いつでもどこでもどんな方法でも購入できる自由さだ。そのどれを実現するためにも、店舗と新たなデジタル・コマースを融合させることが求められる。これを実現し、お客さまがお金と時間を節約できるように、そして欲しい商品を容易に入手できるようにしたい。

 ここ数年はとくに、お客さまの買物体験の向上と、注文を受けてから届けるまでのプロセスの効率化に投資してきた。今後も引き続き投資するつもりだ。

 現在、当社には約1万1000店舗があり、その数は増え続けている。いずれもすばらしい従業員が運営する、すばらしい店舗だ。しかし、これまでにも増して便利な店舗になる必要がある。お客さまが欲しい商品を、欲しいときに入手できる便利さを提供したい。そのための新たなサービスや、お客さまが注文した商品の受け取り拠点としての機能を店舗に付加していく。同時に、要望がある地域では食品の宅配事業にも力を入れていく。

 お客さまは便利さを求めるだけでなく、賢く、合理的な買物を求めている。低価格、革新的な商品、気持ちのよい接客に敏感に反応する。だから、出店しているどの国でも、今まで以上のレベルで店舗を運営しなければならない。プライス・リーダーシップ(価格指導制)、すぐれた在庫管理、フレンドリーな接客、思わず買いたくなる品揃えを実現し、お客さまが買物したくなるような店舗をめざしたい。

 ウォルマートがお客さまからの信頼を勝ち得てきた大きな要因のひとつが、EDLP(エブリデイ・ロー・プライス)だ。当社の強みであるEDLPにさらに磨きをかける。それに加えて、お客さまに驚きや楽しさを与えられるような商品を積極的に販売するなど、マーチャンダイジング面での新機軸を増やすことで、来店客数を増やしたい。

 今、当社にとっての最優先課題は、既存店の売上を向上させることだ。低価格の実現のために投資し、接客を強化すれば、この目標は必ず達成できると考えている。

 私は、当社の核となる事業について自信を持っている。スーパーセンターは今も世界中で受け入れられているフォーマットで、今後、何年も当社の経営にとって重要な役割を果たしてくれるだろう。

 同時に、ウォルマートは世界各地で小型のフォーマットを展開している。米国で出店を強化している「ネイバーフッド・マーケット(Neighborhood Market)」はその一例。そのほかのフォーマットも実験中だ。

 1人のお客さまが1週間のうちにいろいろなフォーマットで買物をする。そのような買物環境を提供したい。

時間給からキャリアをスタートした私は、ビジネスや、
よい商人になるために必要なことをウォルマートで学んだ

 顧客中心主義の組織の構築を実現するには、ウォルマートで働くわれわれ全員が強い商人にならねばならない。そこで、従業員への投資を推進する。これが先ほど述べた方針の2つめだ。

 ウォルマートが従業員に成功する機会を提供し、彼らの成功を支援していることを私は誇りに感じているし、私自身がその体現者でもある。

 かつて、当社の時間給の従業員として働き始めた私は、ビジネスや、よい商人になるために必要なことをウォルマートで学び、すばらしいチャンスを与えてもらった。従業員にも、より多くの機会を提供するために複数のプログラムを用意している。

 国際部門を担当していた頃、アフリカ、ラテンアメリカ、中国など世界中の国々へ行き、世界各地のウォルマートで働く従業員に会った。現在もさまざまな店舗を訪問している。どの国の従業員も、チャンスを求めている。ウォルマートは実力主義なので、あらゆる従業員にチャンスがある。

 ウォルマートは従業員の処遇面で批判を受けることがある。だが同業他社に負けない給与を支払っている。そうしなければ、有能な人材を集めることはできないからだ。

 米国内の従業員130万人に絞って話すと、130万人のうちの1万人未満が、合衆国もしくは州が定めた最低賃金受給者だ。残りの従業員にはそれ以上の給与が支払われている。

 また、従業員が経営幹部に直接連絡をとれる「オープン・ドア・ポリシー」もある。従業員からの電子メールや電話、店舗訪問時の直接のコミュニケーションを通じて、われわれは実情を把握することができ、問題があれば対応している。

膨大な量のデータを世界中で店舗運営に生かしてきた。
この先は買物体験向上のため情報活用を進める

 3つめの方針は、技術とイノベーションで他社に先行することだ。技術の進化とそれに伴う小売業での変化が、われわれにとって何を意味し、企業が成長し続けるために何をすべきかを理解することが重要だ。

 技術、データ、情報によって、お客さまに奉仕する新たな方法が多数、誕生している。小売企業を新たな世界へと導く扉は、すでに開かれている。

 モバイルの普及によって、すべてが大きく変化した。消費者はすでにテレビを見る時間よりもデジタル・デバイスを使用している時間のほうが長いといわれる。当社のEコマース事業でも、PCからよりもモバイルからの注文件数のほうが多くなっている。

 当社はロンドンの地下鉄の駅に注文品の受け取り拠点を設けた。ウェブサイトから注文した商品を、駅前に駐車したトラックから受け取れるサービスだ。このトラックは何の変哲もないトラックだが、2万6000アイテムの商品をお客さまに手渡す機能を持っている。今後、扱いアイテム数がどれぐらいまで増えるか、想像もつかない。

 当社は、約30ペタバイトの購買情報を保有している。当社は何年間も、世界中の店舗の運営にこの膨大なデータを活用してきた。しかし今は、それぞれのお客さまの行動や趣向に合った買物体験を提供するために、データを利用している。

 当社は、28ヵ国に合計1万1000店の店舗を展開している。14年1月期の売上高は4762億ドル。世界最大の小売企業であることは、当社にとっての強み。この強みは、当社が持つオンラインやモバイルに対応した技術力とともに、実店舗とデジタルを融合させるうえでも、競争優位に働いてくれるはずだ。

 以上、変化について話してきたが、変えてはならないものがある。それは、当社の企業文化と価値だ。誠実さ、敬意、卓越──これらはわれわれがよりどころとする信条。この企業文化こそが、当社の強みだ。