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生活習慣の変化に商機あり! コロナ禍で広がる「リモートフィットネス」

新型コロナウイルスの感染拡大が未だ猛威を振るう中、スポーツジムではなく、自宅や屋外で運動を行う「リモートフィットネス」が注目を集めている。これに伴い、米国・カナダでは、フィットネス関連事業を手掛ける企業の業績が大きく伸長。異業種がフィットネス業界に参入する動きもみられている。新たな生活習慣はビジネスモデルの変化を加速させるか――。
取材協力=高島勝秀(三井物産戦略研究所)

フィットネス機材の製造・販売のほか、エクササイズ番組などの動画配信事業も手掛ける米ペロトン

コロナ禍を追い風に急成長!

 コロナ禍によって施設の営業が制限され、消費者の感染リスク回避が求められる中、「リモートフィットネス」がトレンドとなっている。

 「NIKE(ナイキ)」や「adidas(アディダス)」といった大手スポーツ用品メーカーのほか、国内ではスタートアップ企業のライブラン(東京都)などが、アプリを通じて、違う場所にいる人々と、ランニングやピラティスをリアルタイムで一緒に楽しむことができる動画や音声番組を提供しており、新たな参加型のフィットネスとして注目を集めている。

 企業業績への影響を見ると、フィットネスクラブやスポーツジムが深刻な打撃を受ける一方で、コロナ禍を追い風に業績を伸ばしている企業も存在する。その典型が、米ペロトン(Peloton Interactive)である。

 同社は、家庭用のバイク、トレッドミル(屋内でランニングやウォーキングを行うための健康器具)といったフィットネス機材の製造・販売のほか、スマートフォンアプリで視聴可能なエクササイズ番組などの動画配信事業も手掛けている。登録会員は、人気インストラクターの生中継のレッスンに参加したり、既にアップされている動画を観ながら運動することができる。

 巣篭りによる運動不足の解消、ストレス発散などのニーズの高まりにより、ペロトンの会員が急増しており、2020年7-9月期の売上高は対前年同期比3.3倍の7億5800万ドル、営業利益は同4-6月期に初の黒字化を果たし、7-9月期には6900万ドルを稼いだ。急速に拡大した需要に供給が追いつかない状況だったが、20年12月には、業務用運動機器メーカー大手の米プリコー(Precor)を4億2000万ドルで買収することを発表。生産能力を拡充するとしている。

異業種がフィットネスに参入する動きも

 こうしたトレンドを受けて、足元では異業種がフィットネス業界に参入するケースもみられる。そのなかでもとくに注目を集めたのが、カナダのルルレモン(lululemon athletica)である。スポーツ衣料の機能とテイストを日常のカジュアルファッションに導入した「アスレジャー衣料」の製造小売として成長を続けている同社は2020年6月、IoT新興企業の米ミラー(MIRROR)を5億ドルで買収した。

 ミラーが提供しているのは、等身大の鏡型のデバイスで、ライブやオンデマンドでのフィットネス講座を配信するサービス。利用者はデバイスに映し出されるトレーナーと共に自宅でエクササイズを楽しむことができる。

 加えて、そのデバイスを通じて、ルルレモンのECサイトから衣料品などを購入できるようにしている。買収のみが直接的な要因ではないものの、ルルレモンの業績は、20年8-10月期は対前年同期比21.9%増。5-7月期の同2.3%増だったことを踏まえると大きく伸長しているのがわかる。

 流通産業に詳しい三井物産戦略研究所の高島勝秀氏は、ペロトンとルルレモンの2社について、「消費者のニーズを満たすうえで、デジタル技術を活用して商品と情報コンテンツの提供を融合させたビジネスモデルという点で共通している」と指摘する。 「同様の試みは以前から見られたものの、コロナ禍を機に拍車がかかった格好だ。新たな生活環境に沿ったサービスとして注目に値する」(高島氏)。