ダイヤモンド・リテイルメディアは、東南アジアの小売市場の現状分析と戦略立案をサポートする「ダイヤモンド・リテイルレビュー」(PDFファイル形式)を刊行しています。2020年12月、各国の消費者情報を深掘りするとともに、小売マーケットの最新情報をお伝えする「ショッパー&リテイル」として刷新し、タイ、マレーシア、シンガポールの最新版を発刊いたします。
この連載では「ダイヤモンド・リテイルレビュー」のチーフ・エディター内山宗生が、新型コロナウイルスの影響を大きく受けた2020年上期の動向など、多様性に満ちた東南アジアの最新の消費者動向と小売市場の“いま”を読み解きます。
今回はシンガポールの消費者動向と小売市場にフォーカスします。
シンガポール
ショッパーの消費の変化と小売市場
ASEAN6の中では最も小さな面積(東京23区よりも15%大きい約720平方キロメートル)を持つシンガポールの2019年の総人口は570万3569人で、前年から1.2%増加した。総人口の約70%に相当する居住者人口は402万6209人で、前年比0.8%の増加である。
居住者人口をベースとしたシンガポールの世帯数は137万2400世帯となり、前年比3.6%の増加である。世帯内人数は3.16人、世帯内就業人数は1.65人と前年から変化はほとんどない。月額平均世帯所得は9763SGDで前年から0.9%の増加となった。
2019年のシンガポールのGDPは5075億6800万SGDで前年から0.8%増加した。しかしながら国民1人当たりのGDPは0.3%減少し、8万8991SGDとなった。シンガポールの国民1人当たりのGDPは、ASEAN6の中では最も高い。2番目に大きなマレーシアの約5.7倍、日本の約1.6倍に相当する。
2019年にシンガポールを訪れた外国人旅行者数は、シンガポール総人口の3.3倍に相当する1910万人に達した。国別では、トップが中国で、インドネシア、インドと続く。
シンガポールの家計支出
2013年から2018年の間のシンガポールの世帯支出は3.8%の増加にとどまった。GDPの伸び率、世帯収入の伸び率を下回った。「食料品」「アルコール飲料」「衣料/履物」「交通」「レクリエーション活動」への支出が減少する中で、「宿泊」「医療関連」支出が大きく増加した。また「外食」は世帯支出の17%と大きな比率を占めている。
シンガポールの経済成長と小売市場
2019年のGDP成長率は前年比0.8%増にとどまった。2018年のGDP成長率6.6%からの急激な落ち込みとなり、金融危機以来の低さとなっている。シンガポールの小売市場は、ここ数年大きくGDPの成長を下回る状態が続いており、2018年の成長率は1.7%であった。
シンガポールのチャネル動向
2014年から2018年の間で、一般小売チャネルの中では、「スーパーマーケット」が唯一、市場を拡大させた。年平均4.0%の伸長率で、他の2つの一般小売チャネル「ミニマーケット/コンビニエンスストア/雑貨店」「百貨店/ハイパーマーケット」はともに市場規模を年平均1.5%縮小させている。専門店チャネルの中では、「薬局/ドラッグストア」が年平均5.3%伸長し、最も高い成長率となった。
2020年上半期の小売市場
COVID-19による職場閉鎖「サーキットブレーカー」が4月7日に発令され、5月の小売売上は前年同月比45.1%減と一気に縮小したが、売上減少分の多くは専門店チャネルと百貨店であった。「スーパーマーケット/ハイパーマーケット」は売上を増加させた。商品供給と人手不足といった課題があったものの、「ミニマーケット/コンビニエンスストア」も売上を増加している。世帯支出比率の高い外食の大幅な減少が、近接している中型スーパーマーケットの売上増につながったと思われる。
COVID-19とEコマース化率
2020年1月のシンガポールのEコマース化率は5.8%であったが、4月に17.7%、5月に24.5%と大きく伸びた。5月の「コンピュータ/通信機器」のEコマース化率は94.3%に達し、専門店チャネルで購買されていた商品のほとんどがオンラインで購入されたことがわかる。一方、「スーパーマーケット/ハイパーマーケット」の5月のEコマース化率は9.6%にとどまっている。
次回はタイの具体的なショッパーと小売市場について要点をご紹介していきたい。
本連載と「ダイヤモンド・リテイルレビュー」について
ダイヤモンド・リテイルレビューASEANはASEANの中核をなす6カ国(タイ、マレーシア、シンガポール、インドネシア、ベトナム、フィリピン)のショッパーと小売市場の実態を読み解く有料報告書。ファクトを基盤としたASEAN各国の小売市場の全体像や主要チャネルの現状、ショッパーの支出傾向などを把握することができる
2018年から刊行を開始しており、2020年12月にマレーシア、シンガポール、タイの3カ国の更新版「ショッパー&リテイル2020/21」を刊行。更新版は、2020年上半期の小売市場の状況を特集として扱い、3カ国の小売環境の大きな流れとCOVID禍にある市場の最新情報を提供
- ダイヤモンド・リテイルレビューASEANの詳細については、下記URLを参照していただきたい。また、インドネシア、ベトナム、フィリピンに関しては、海外往来制限が自由になった後に発刊を行う予定。
- DCSオンラインでは、更新された3カ国の報告書の要点を4回のシリーズにてご紹介する。また、登録をいただいた方には、オンデマンドでプレゼンテーション動画を配信しており、そちらもあわせてご利用いただきたい。