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フードデリバリー最大手が参戦!? 大混戦の予感漂う米EC市場

コロナ禍収束の兆しが未だ見えないなか、米国ではEC需要が急拡大している。急激な需要拡大に追いつけず、配送遅延などが見られており、ECやネットスーパー事業を展開する各プレイヤーは対応を迫られている。各事業者から消費者の自宅までの「ラストマイル(Last mile)」をどう埋めるかが共通課題となるなか、EC専業ともリアル小売とも異なる新たなプレイヤーが参戦し、その動向に注目が集まっている。
取材協力:高島勝秀(三井物産戦略研究所)

「ダッシャー(Dasher)」と呼ばれるドアダッシュの配達員(出所:ドアダッシュ)

急激な需要拡大で浮上する「ラストマイル問題」

 コロナ危機下、多くの国でECの需要が急拡大するなか、米国では宅配の「ラストマイル機能」の重要性が改めて浮き彫りになっている。

 主要プレイヤーの動きを見ていくと、宅配のキャパシティが急激な受注増に追いつけず、アマゾン(Amazon.com)では商品配送の遅延が発生している。その一方、ウォルマート(Walmart)をはじめとする実店舗リテーラーのEC事業は、受注した商品の受け渡しを店舗で行う「クリック&コレクト」で消費者の支持を得て業績を伸ばしている。だが、事業をさらに伸ばしていくうえではラストマイルの拡充が不可欠であり、同社は目下、人員確保などを推進中だ。

 食品スーパ最大手のクローガー(Kroger)は、ネットスーパーのシステムを開発・運営する英オカド(Ocado)と提携し、同社のシステムを活用した物流網を構築して宅配を行う計画を進めている。これらに代表されるように、ラストマイル機能の獲得は、ネット通販事業における最重要課題として、主要リテーラーの間で共通認識されている。

米フードデリバリー最大手がEC事業に参入

 そうしたなか、ラストマイル機能を有する企業がEC事業に参入するという新たな動きが見られている。それが、ドアダッシュ(DoorDash)による「ネットコンビニ事業」への参入である。

 ドアダッシュは、外食チェーンや中小零細のレストランを対象に、顧客が注文した調理品を「ギグワーカー」と呼ばれる単発(あるいは短期)の仕事を請け負う労働者に運ばせる、フードデリバリーサービスを展開している。日本国内でも急拡大中の「ウーバーイーツ(Uber Eats)」をイメージするとわかりやすいだろう。

 ドアダッシュは米国フードデリバリー市場の46%のシェアを握っており、23%の第2位ウーバーテクノロジーズ(Uber Technologies)を大きく引き離す、フードデリバリーの最大手企業である。外食産業におけるラストマイル機能の担い手という位置づけのフードデリバリー企業だが、ドアダッシュはコロナ危機下の4月に、コンビニのセブン-イレブン(7-Eleven)やワワ(Wawa)、ドラッグストアのCVSやウォルグリーン(Walgreen)などを新たにユーザーに加えている。これにより、ドアダッシュは外食業態が提供するメニューに加えて、食品・日用品ECのラストマイルも担うこととなったのである。

ドアダッシュのネットコンビニ「ダッシュマート」とは

米フードデリバリー最大手のドアダッシュは8月5日、ネットコンビニサービス「ダッシュマート」をスタートした

 さらに同社は8月5日、シカゴやダラスなど8都市で独自の配送センターを新たに立ち上げ、ネットコンビニサービス「ダッシュマート」をスタートした。

 通常の外食宅配は、スマホアプリ経由で受注した商品を、配達員が提携先の飲食店で受け取って利用者へ届ける。だが、ダッシュマートは自社で仕入れた商品を在庫として配送センターで保管、受注後にそのセンターから消費者に最短30分で配達する。

 つまり、ラストマイル機能を武器としてきた企業が、ネット通販事業そのものの主体となったのである。

 ダッシュマートの取扱品目は、食品や日用品などの約2000品目で、地元の飲食店が扱う調味料やベーカリー、スイーツなども含まれている。同社は、全米に事業エリアを拡大していくことを発表しており、今後の展開が注視される。

フードデリバリー参戦で混戦の予感?

 こうしたドアダッシュの動きについて、三井物産戦略研究所の高島勝秀氏は「EC事業を展開していくうえでは、商品の仕入れや在庫管理など、リテーラーとしての機能も不可欠であり、ラストマイルに強みを持つだけのドアダッシュが事業を軌道に乗せるのは容易でないだろう」と指摘する。

 ただ、このドアダッシュの挑戦は、これまでウォルマートやクローガーなどの実店舗リテーラーと、アマゾンなどのネット技術をベースとした企業が競い合ってきたEC市場に、「ラストマイルの担い手」という新たなプレーヤーが登場したことを意味している。「同社のネットコンビニ事業の帰趨に加え、それに続く企業が現れるのかは、EC市場の今後の展開を左右するファクターと言える」(高島氏)。

 コロナ禍による急激な需要拡大への対応を迫られるEC業界。国内でも8月18日に「出前館(大阪府)がウーバーイーツの買収を検討」との報道が流れるなど、(翌19日に出前館は報道を「事実無根」と否定)、慌ただしい動きが見られている。米国の食品小売を担うプレーヤーは今後、フードデリバリー企業の動向もチェックしていく必要がありそうだ。