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ワンクリック決済にトラックテック……ショップトーク2022注目スタートアップを解説!

世界最大級の小売業界向けイベントである「ShopTalk(ショップトーク)」が2022年3月27日~30日にかけて、2年ぶりにラスベガスで開催された。「Retail ‘s Big Reunion(小売業界の大同窓会)」と銘打った本イベントは参加者1万人以上、650社のスポンサーが名を連ね、過去最大規模の開催となった。本稿では、同イベントにおいて、とくに注目度の高かったスタートアップ2社について、現地でイベントに参加された日商エレクトロニクスUSAの榎本瑞樹氏が解説する。
構成=崔順踊(リテールライター)

ボルトCEOのマジュ・キュルヴィラ氏(提供:日商エレクトロニクスUSA)

決済スタートアップ「Bolt」

 まず紹介したいのは、決済スタートアップのボルト(Bolt)だ。同社は、ECにおける新しいスタンダードを創り出すというビジョンのもと2014年初頭に設立され、ワンクリック決済をプラグインで提供しているスタートアップ企業だ。2021年の時点で4800億円の評価額がついており、上場も噂されている。

 現在600万人のユーザーを抱える同社は、ショップトーク後の今年4月に暗号資産(仮想通貨)の決済企業であるWyre(ワイヤー)を15億ドルで買収したことでも話題になっている。

 ショップトークの講演には、CEOのMaju Kuruvilla(マジュ・キュルヴィラ)氏が登壇し、製品の紹介を行った。小売業が自社ECサイトを運営する際にShopifyなどを使い、ボルトなどの決済機能を自社Eコマースサイトに組み込んでサービスを提供するパターンが多くなっている。

 ECサイトで決済ボタンを押そうとしたときに、広告やSNSといった余計なページに飛ばされたという経験が誰もが一度はあると思うが、その際に最大で85%の人が購入をあきらめてしまうという同社の調査結果がある。「オンライン決済時の余計なページ遷移によって、コンバージョン率が大幅に低下する」という問題を解決できる点がボルトの強みである。

 逆に、ワンクリック決済でスムーズな購入体験をした消費者は、再度同じサイトに戻り買物を行う確率が60%であるという。この60%という数字は決して無視することができない結果である。

 ボルトは単に決済機能を提供する企業というだけではなく、小売業者とデータを共有し、小売業者と顧客とが直接つながっていくための情報ソースの提供も行っている。セキュリティについても、同社は機械学習やAIを使うことによって不正情報を積極的に収集し、それらの情報によって詐称の検知や防止を行っている。

ワンクリック決済が登場した背景とBoltのビジネスモデル

 米国では2020年頃から「BNPL(Buy Now Pay Later、後払い決済)」と呼ばれる決済サービスが注目され始め、21年にアマゾンがBNPL大手のアファーム(Affirm)と提携したことをきっかけに、ターゲット(Target)など各小売業がアファームやクラーナ(Klarna)、アフターペイ(Afterpay)などのBNPLを利用しはじめた。ワンクリック決済を強みとするボルトもこの流れから台頭してきた。

 ワンクリック決済自体はアマゾンで馴染みがあると思うが、ECサイトで、①商品を選び、 ②カートに入れて、③決済する、というプロセスの中で、②の「カートに入れる」という部分を無くし、商品選択から決済にいけるというサービスである。

 そのためコンバージョン率も向上するとともに、初回は個人情報の入力が必要ではあるが、以降は不要となるため、消費者が購入のたびにログインすることなく、異なるオンラインの加盟店サイトを横断しても、そのまま購入できる。このような仕組みによって「カゴ落ち」が防止できるのである。実際にこうしたサービスはブルックスブラザーズ(Brookes Brothers)やフォーエヴァートゥエンティワン(FOREVER21)のECサイトですでに利用されている。 

 ボルトのビジネスモデルは「Stripe(ストライプ、銀行や金融機関などと連携している決済サービス)」と同様のフィンテックであり、加盟店側から2%の手数料を取得するが、加盟店側は2%を支払ってでもカゴ落ちせず購入率が上がることにメリットを見出している。

 さらに同社は加盟店側の視点で決済の体験を向上させるサービスを提供している。具体的にはAIを活用しABテストや不正検知を行い、購買データの分析機能もワンストップで提供するビジネスモデルである。

ミドルマイルの配送を自動運転で行うGatik

 サプライチェーン分野において注目度の高いスタートアップとしては、17年に設立され、ミドルマイルの自動配送運転サービスを開発してゲーティック(Gatik)が挙げられる。ミドルマイルとは、たとえば配送センターから店舗間の決まったルートの配送で、約10キロ程度の距離をイメージしてほしい。

 ショップトークの講演には共同設立者およびCEOであるGautam Narang(ゴータム・ナラン)氏が登壇した。講演の中で、同氏は深刻な人手不足、ドライバー不足を抱えている今、最終消費者がサービスを享受するためには同社の技術が必要不可欠であると述べていた。現在ウォルマート(Walmart)と提携し、実際の配送を行っているという点もアピールしていた。

ゲーティック社CEOのゴータム・ナラン氏(提供:日商エレクトロニクスUSA)

 米国では輸送量に対するドライバーの不足が深刻である。現状ではシニア層のドライバーが多く、引退が間近に迫っている方々も多い。一方でドライバー業に従事する若者が少ないことから、2021年時点で6万8000人のドライバーが業界で不足しているが、2028年にはドライバーの不足が16万人を超える可能性があるとの予測もある。

 ウェイモ(Waymo)やテスラ(Tesla)などの大企業も自動運転トラックに注力している。トラックテック企業の中でもトップを走っているのが、トゥーシンプル(TuSimple)という企業である。その他トヨタ・デンソーと連携しているオーロラ(Aurora)も注目されている。

 ラストマイルについては競合がひしめき合っている。ウォルマートのみを見てもGMの子会社であるクルーズ(Cruise)やニューロ(Nuro)などと提携している。

完全無人の自動運転に成功!?

 Gatikはミドルマイルに注力しているため、アーカンソー州において、すでに完全無人の自動運転に成功したとされている。具体的には物流センターからウォルマート店舗までの7マイルの間を2台のトラックが1日あたり12時間、週7日で稼働している。これまで実証実験を行っていたところを、実際に運用しているという点が注目に値する。セーフティードライバーをつけての自動運転を2年間行っていたが、2021年秋ごろから無人化した。

 トラックテックを活用したサプライチェーンの構築については、ウォルマートが他社に先行しており、今後も規模は拡大していくだろう。