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「魚離れ」は本当か? 日本の水産流通が直面する課題とは

少し前になるが、TVドラマ「ファーストペンギン」が話題となった。女優の奈緒さんふんするシングルマザーが、さびれた漁港を復活させるというストーリーだ。このドラマは「実話」に基づいているそうで、千葉県大原漁港をロケ地として、個性豊かな俳優たちが本物さながらの荒くれ漁師を演じている。さらに漁港の漁協や卸・仲卸といった流通構造を浮き彫りにするなど、リアリティがあふれる演出がみられた。
では、現実はどうだろうか。漁獲量や消費量の減少、漁業の担い手不足、旧弊に縛られた流通システムなど、伝え聞く話はいずれもネガティブな話題が多い。本稿では、主要な水産卸の動向を紹介すると同時に、漁業・漁港が抱える問題を取り上げ、未来の鮮魚市場のあるべき姿について考えてみたい。

NetaDegany/iStock

水産卸の役割とは

 水産物は鮮度が落ちやすいという特性上、迅速な流通が必須となるため、産地と消費地それぞれで卸売市場がある。豊洲をはじめとした消費地の卸売市場で産地から水産物を集荷するのが卸、買付免許を持たない飲食店や小売業者向けに商品を小分けして売るのが仲卸だ。

 消費地の卸は、水産流通の根幹として重要な役割を担う。セリを行うだけでなく、産地の天候、交通状況、さらには産地独自の事情(祭礼に伴う漁休止)などさまざまな情報にアンテナを張り、仕入れの動向をつかむ。集荷と販売のバランスを取るのも卸の大切な役目の一つだ。

 ここからは国内の代表的な水産卸を見ていこう。まず注目したいのは、中央魚類(東京都)だ。「マルナカ」の愛称で親しまれる同社の設立は1947年。東京都水産物集荷機関「中央魚類荷受組合」としてスタートした。世界的にも有名な旧築地市場所属の「大卸7社」の筆頭として、一大消費地である東京の水産物流通を支えてきた。2018年に築地市場が豊洲市場に移転してからは、水産卸売場棟5階に拠点を構える。
 
 近年は豊洲での市場取引のみならず、グループ企業(柏魚市場・千葉中央魚類・中央フーズ・せんにち・水産流通・マルナカロジスティクス)を通じた市場外取引の充実、冷蔵・冷凍保存および量販店への配送、東京エリア外の流通、水産物加工品の製造・販売、プロセスセンターでのリテールサポート(店別仕分け・受発注・加工作業等の代行)など、周辺ビジネスを幅広く手掛けている。

OUGホールディングス、マルイチ産商の動向は?

 次に注目したいのは、OUGホールディングス(大阪府)だ。大阪市中央卸売市場の水産物卸売業者「大魚組」として1946年にスタートした同社。2006年に現社名に商号変更し、同社を純粋持ち株会社とするグループ経営体制を整えた。

 同社は傘下にうおいち(大阪・和歌山・大津・大阪市・東部など関西エリアの卸売)、ショクリュー(市場外水産物流通)、兵殖(大分県でハマチ・ブリ・マグロなどの養殖)、関空トレーディング(空港対岸でOUG加工センター運営)、ダイワサミット(炊飯やおにぎりなどの米飯加工)、トウニチ水産(組織小売業むけ水産加工品の製造・販売)、舞洲流通センター(水産物の集荷・保管・配送)などを擁する。

 水産卸を核にマルチなビジネスを展開するのがマルイチ産商(長野県)だ。同社の創業は1927年、長野市の魚屋「やましょう若松屋」としてスタート。1951年に長野中央市場で卸売業を始める。長野県での高いシェアを誇るほか、中部・関東エリアで幅広くビジネスを展開する。

 同社の大きな強みは、筆頭株主である三菱商事の存在だ。2002年に三菱商事グループの一員に加わり、総合商社の組織力や情報ネットワークを背景に、サプライチェーンの生産から販売まで一気通貫した養殖事業、飼料メーカーとの連携や資金供給などを通じた畜産業者支援といった独自性の高い事業を展開する。

課題山積の水産流通

 水産庁の調査結果によると、日本における水産物の流通量は一貫してダウントレンドにある。魚の流通量は1889年に874万トンだったのが2020年には584万トンにまで激減した。市場経由率もかつては4分の3以上あったが現在は2分の1を割り、市場機能は著しく低下している。

 一般的に「消費者が魚を敬遠するようになったので魚の消費量が落ちた」とされているが、この説は事実とは異なる。

 考えられるのは水産物の価格の問題だ。当然、魚価は魚の種類によって異なり、国内の需給動向や海外からの流入量によっても変動しやすい。ただ、平均的な魚価は上昇傾向にあり、10年前とくらべると生鮮魚介のCPI(消費者物価)は5割近く上昇している。

 問題なのは、日本だけが水産物の流通が衰退しているという点だ。世界的な漁獲量は、水産資源管理技術の向上もあって持続的に増加しており、さらに魚食文化の普及に伴い需要も伸びてきている。

 国内における漁獲資源の枯渇、世界市場における日本の“買い負け”、漁業の後継者問題、人口減少による国内市場の縮小……と水産流通が直面する課題は多い。さまざまな課題をブレークスルーし、質が高く価格も手ごろな魚を食卓に届け続けることができるのか。水産流通業界の底力が、今問われている。