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1位はダントツ2兆円増!2020年に企業価値を上げた小売業、下げた小売業ランキング

2020年は新型コロナウイルス(コロナ)の影響が実に大きい一年でした。雇用・所得・消費・インバウンドなど各所に大きなうねりを生み、文字通り振り回された1年と言えそうです。その最大のハイライトになったのは、アパレルの老舗であるレナウンの破産になると思います。この年末のタイミングで、2020年に企業価値を上げた小売業、下げた小売業のランキングを掲載、解説します。意外な企業、明暗を分けたライバル企業が出てきますが、その差が一体何だったのでしょうか?

コロナに振り回された2020年

  20年はコロナに振り回された1年と言っても良いでしょう。しかし、暗いニュースばかりではありませんでした。セブン&アイ・ホールディングスが米国のコンビニエンスストア(コンビニ)事業の外部成長を求めて2兆円を超える大型買収を決めたこと、ファミリーマートが伊藤忠商事によって完全子会社化され非上場になったこと、島忠のTOBDCMホールディングスとニトリホールディングスのコンテストになり業際があいまいになったことなど、次の展開を期待させる話題も豊富でした。少し周辺の領域になりますが、Uber Eatsの日本での定着も大いに気になる動きでした。

  年末年始の良いタイミングでもありますので、株式市場の視点から2020年を振り返ってみたいと思います。上場している小売企業の2019年12月25日から2020年12月25日の一年間の株価騰落率をもとに株式時価総額の金額の増減を推計し、ランキングにしました。

過去一年、時価総額を増やした小売企業は?

  はじめに、過去一年時価総額を増やした小売企業を実額ベースでランキングします。

 

時価総額

時価総額増加額

ファーストリテイリング

9兆1562億円

2兆644億円増

イオン

2兆8424億円

8693億円増

MonotaRO

1兆3358億円

6055億円増

ニトリホールディングス

2兆4977億円

5710億円増

パン・パシフィック・インターナショナルホールディングス

1兆4729億円

3157億円増

コスモス薬品

6680億円

2125億円増

スシローグローバルホールディングス

4328億円

1659億円増

ZOZO

7844億円

1399億円増

島忠

2343億円

1063億円増

ウエルシアホールディングス

8154億円

1006億円増

 ステイホームを追い風にできた企業、節約志向に応えた企業、デジタル活用のうまい企業が総じて上位に並んだと言えるでしょう。個人的には、着実に東進するコスモス薬品、既存店売上高がいち早く回復したスシロー、Zホールディングス傘下入り後成果を出しているZOZOが目に止まります。また、TOBの対象となった島忠の時価総額が上がったことは当然として、買い手であるニトリも増加した点も注目です。

 

 

過去一年、時価総額を減らした小売企業は?

  次に、過去一年時価総額を減らした小売企業を、実額ベースでランキングします。

 

時価総額

時価総額増加額

セブン&アイ・ホールディングス

3兆2443億円

2979億円減

丸井グループ

3916億円

1965億円減

J.フロント リテイリング

2207億円

1666億円減

エービーシー・マート

4630億円

1543億円減

三越伊勢丹ホールディングス

2374億円

1434億円減

ローソン

4794億円

1414億円減

良品計画

5736億円

1367億円減

ワークマン

6965億円

1358億円減

すかいらーくホールディングス

3211億円

1164億円減

髙島屋

1509億円

650億円減

   非生活必需品を百貨店形態で販売するビジネスは厳しかったようです。また、店舗飽和、周辺業態との競合、そしてフランチャイズの在り方が問われたコンビニも厳しい一年でした。少し意外なのは業績面で成長が続くワークマン。株式市場は気が早いため、2019年に株価が将来の業績を先取りしてしまい、現在は業績の進捗が株価に追いついてくるのを待っている段階だと思います。またセブン&アイは国内コンビニ事業モデルの持続成長性や海外大型買収に対する懸念が高まったことに加えて百貨店・金融・専門店の不振が影を落としていると考えます。

 

2021年、注目すべき事象とは

  いかがでしたか。

 さて、21年はおそらくポスト・コロナ禍になると思います。しかし、以前にそのまま戻ることはないと思います。特に、リモートワークを試行することで出社ベースの業務の非効率な部分が炙り出されたため、今後リモートワークは定着すると思います。

  また、消費回復のペースも鈍そうです。家計の所得回復には時間がかかると思われますし、金融資産を保有し株高の恩恵があるはずのシルバー層が安心して外出し消費を増やすにはまだ時間がかかりそうです。数年来小売業を底上げしてきたインバウンドもオリンピックの一時的効果を別にすると過大な期待は難しいと思います。

 一方、Eコマース(EC)はまだまだ伸びるはずです。通信とECプラットフォーマーが融合し互いに競争する局面に入り、ECプラットフォームには多くの消費者向けインセンティブが投下されていきそうです。

  したがって多くの小売企業にとってはEC対応(本質的にはサプライチェーンマネジメント全体の適応力)の巧拙が問われることは間違いないと思います。また、規模の利益を十分顕在化できていない業界では、TOBがさらに活発になり、業界の集約が加速すると思います。ここに気候変動対応の努力も問われることになり、従来に比べて企業が追いかけるべきKPIが増えてきそうです。

  このように21年はいままでよりも難しい年になりそうですが、楽しみもそれだけ多いと思います。

  20年のみなさまのご厚情に御礼申し上げるとともに、21年が素晴らしい年になることを心よりお祈り申し上げます。

 

プロフィール

椎名則夫(しいな・のりお)
都市銀行で証券運用・融資に従事したのち、米系資産運用会社の調査部で日本企業の投資調査を行う(担当業界は中小型株全般、ヘルスケア、保険、通信、インターネットなど)。
米系証券会社のリスク管理部門(株式・クレジット等)を経て、独立系投資調査会社に所属し小売セクターを中心にアナリスト業務に携わっていた。シカゴ大学MBA、CFA日本証券アナリスト協会検定会員。マサチューセッツ州立大学MBA講師