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続・規模拡大と地域対応 総合スーパーの失敗と食品スーパーが進む道

6月の本州は梅雨の季節である。梅雨のない北海道で生まれ育った筆者にとって、未だに慣れない季節である。関東甲信越地方では6月7日頃に梅雨入り後、大雨となった。本稿執筆時点(6月26日)で、西日本でも遅れていた梅雨入りと大雨が予報されている。今年も小売企業は天候要因に苦慮しそうな予感をしつつ、今日も食品スーパーに思いを馳せるのであった。

 

大手総合スーパーが陥った“中央集権の罠”

 前回は地域対応の重要性を述べた。自明のようであるが、平成の30年間だけを見ても、店舗網が広域化したチェーンはことごとく、“中央集権の罠”にはまる形で地域対応力と営業力を低下させてしまったと見られる事例がいくつもある。代表的な事例として、総合スーパー3社を振り返りたい(いずれも当時の筆者の取材ノートと会社側の開示資料に基づく)。

 一つめはダイエーである。19943月、ダイエーは関東の忠実屋・九州のユニードダイエー、沖縄のダイナハとの4社合併を果たし、営業収益25,415億円(1995.2期実績)に達した。ダイエーの1995.2期は、阪神大震災(19951)被災を主な要因とする特別損失計上によって、当期損失256億円となる。一方で、統合後から既存店売上高が基調としてマイナス圏での推移ともなっていた。異なるオペレーションの4社を統合するために中央集権化を推し進めた副作用が現れたようであった。会社側では1996年よりカンパニー制を導入、本部からカンパニーへの権限移譲を進めた。商品の仕入数量も、従来は本部が店舗の数量を決定していたが、カンパニーが決めるようにした。その後も各種の営業力強化策を講じたものの、ついに業績回復に至ることはなかった。

 二つ目は、マイカルである。マイカルも1996年の社名変更(ニチイ⇒マイカル)以降、中央集権化を強めていくとともに、既存店増収率の弱さが目に付くようになる。対照的だったのが、マイカル北海道(現イオン北海道)であった。既存店売上が順調推移しており、199711月の北海道拓殖銀行破たん以降の1年間は苦戦したものの、早々に落ち着きを取り戻す(図表1)。当時、会社側の方に「なぜ、マイカル本体と違って、売上が順調なのか?」と尋ねた際、「(自分たちの)商品部を死守したからだ」とその方は即答された。マイカル本体の仕入力を活用していながらも、地域密着の商品政策を徹底することが重要なのだとの内容だった。その後、マイカル本体の方は業績回復を果たさずに終わった。

注:グラフは3ヵ月移動平均(3MA)
出所:会社資料より筆者作成

 三つ目はイオンである。イオンは、地方法人の統合(1999)や社名変更(2001年:ジャスコ⇒イオン)以降、情報システム(自動発注システム、在庫管理システムなど)や基幹物流網の整備を急ピッチで進めていた。情報・物流インフラに裏付けられたSCM(サプライ・チェーン・マネジメント)による全体最適の実現に向かっていた時期でもある。反面、中央集権化に伴う副作用の予感も否めず、筆者も決算説明会にて「過去の事例を参考にすると、地域対応力の低下による営業力低下のリスクがあるのではないか?」と質問したことがある。岡田元也社長の回答は「そう思うなら、そう思えばいい」であった。そして、結果的に、既存店売上の苦戦は現実のものとなる(図表2)

注:グラフは3ヵ月移動平均(3MA)
出所:会社資料より筆者作成

 こうした状況に対し、イオンは2004年下期、地域対応強化の方針の下、商品部の人員(食品中心に約500/1200人中)を地域カンパニーに異動させ、各種の権限をカンパニーの支店長に移譲した。続く2005年度は機動的な対応を講じることを目的として、カンパニーの権限をさらに強化した。こうした対応が奏功する形で、2005年度は既存店売上が回復に向かう。

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大手総合スーパーが規模拡大と地域対応を両立した時、どう対応すべきか?

大手小売が規模拡大と地域対応を
両立した時の対応策とは!?

 こうした歴史を見る限り、大手総合スーパーは店舗網の広域化の過程で、ほとんどデジャブ(既視感)とも言うべき同様の問題に直面している。それは中央コントロール強化の副作用としての地域対応の低下および営業力の弱体化である。1980年代の人気アニメ「北斗の拳」でのナレーション「悲劇はくり返される」が思い出される。または「歴史は繰り返す、一度目は悲劇、二度目は喜劇として」(カール・マルクス)であろうか。

 ところで、上記総合スーパー企業の名誉のためにも、大手全国チェーンの強さについて触れておきたい。20164月の熊本地震(14日・16日に震度7を観測)にて、マックスバリュ九州の店舗も被害を受けた。414日の前震の当日、当該エリア全店舗の休業となったが、翌15日には開店した。16日の本震の際は、4日間の休業を余儀なくされたものの、同業他社よりも早期の営業再開を果たしていた。背景にはイオンからの商品供給のサポートがあり、マックスバリュ九州サイドでは店舗再開に専念できたことが大きかったようだ。14日の前震のすぐ後、イオン側は物資を手配し、その夜のうちに羽田空港等から鹿児島空港に空輸、マックスバリュ九州の配送センターへ送り届けたという(筆者の取材ノートより)。実はイオンと日本航空(JAL)は(東日本大震災の際に連携した経験を踏まえて)20163月に「緊急物資の輸送に関する覚書」を締結しており、連絡経路の確認や旅客機用貨物コンテナへの物資の積み込み方など、緊急時に即応できる体制作りを進めていたとのことである。全国的な店舗網と配送ネットワークを構築し、航空会社とも連携できる大手流通企業の底力を示した事例の1つと思われる。

 やはり規模と広域ネットワークは圧倒的な強みになりうるのである。今後、大手小売企業がきめ細かに地域対応できる体制を整え、その上で規模の力を見せつけてきた場合、各地の食品スーパー企業はどのように対抗するのであろう。個々の食品スーパーが分立したままでは、分断され、個別撃破されていくリスクが大きくないだろうか。

 本稿では「続・地域対応」として地域対応の重要性を述べてきたが、前回と同様の文章で締めたい。すわなち、他業態との競争激化も含めた食品スーパーの収益環境が一段と厳しくなる状況下、規模拡大によるスケールメリット享受と競争力強化は避けられない。しかし、方向性は明確である。店舗展開エリアの広域化(=規模拡大)と地域対応を両立するために、地域ごと・季節ごとの食材・食生活を熟知した地元チェーンの買収や大同団結が非常に有力な選択肢となる。連合結成によって規模の競争力を発揮すべきという時代に直面しているのではなかろうか。

 東京の蒸し暑い夏はいまだに苦手ながらも、梅雨明けと夏の訪れを待ちわびつつ、そんなことを思う今日この頃である。