食品表示法が制定するまでの流れ
日本における食品に関する法律は、昭和22年制定の食品衛生法、昭和25年制定のJAS法、昭和27年制定の栄養改善法(平成14年に健康増進法へ改正)が基礎となっています。昭和20年代は戦後間もないこともあり食品が足らず、量目や原材料などの表記はあるものの、食品表示に関する詳細な規定はありませんでした。
転換点となったのが昭和35年の「ニセ牛缶事件」と呼ばれる事件です。ことの発端は、牛肉の大和煮の缶詰にハエが混入していたという事故でした。購入者が保健所に届け出たところ、製造会社が倒産していたことで事態は収束するように見えましたが、ここでもっと大きな問題が発覚します。
当時は牛肉が珍しく、別の肉を使ってもわからないと踏んだ事業者が、牛肉ではなく鯨の肉を使用していたことが判明したのです。そこで、保健所が牛肉の缶詰を販売していた20のメーカーを調査したところ、牛肉を使っていたのはわずか2社のみでした。残りの18社は鯨や馬の肉を使用していたのです。この不正発覚から、主婦を中心とした消費者運動が勃発。当時の活動が現在の消費者団体運動につながっているのです。
この事件をきっかけに消費者保護の観点から、昭和37年に景品表示法、昭和43年に消費者保護基本法(平成16年に消費者基本法に変更)が制定。また昭和45年のJAS法改正では、食品品質の基準だけでなく、食品品質に関する表示の基準まで必要であることが定められました。
平成に入り、食品表示は新たな規定が増えました。平成6年、製造年月日の記載から消費・賞味期限といった期限表示に変更(平成15年に食品衛生法に基づく品質保持期限を賞味期限に統一)。平成11年には全ての飲食料品に品質表示基準を、平成13年は遺伝子組換え食品に係る表示とアレルギー物質の表示を義務づけ、栄養機能食品の表示基準が制定されました。また平成17年には20食品群の原料原産地表示の義務づけ、平成20年には業務用食品への表示の義務化が定められました。
食品衛生法、JAS法、健康増進法の3法を軸としてきた食品表示ですが、厚生労働省管轄の食品衛生法と農林水産省管轄のJAS法では、齟齬が生じる部分が多々ありました。たとえば食品衛生法ではドライフルーツは生鮮食品、JAS法では加工食品と分類されるなど同じ食品でも定義が異なっていたのです。
この2法の一本化は難しいとされていましたが、平成21年に消費者庁がスタートし、同庁が食品表示を管轄することになりました。そこから食品衛生法、JAS法、健康増進法の3法の食品表示に関する法の一元化が進み、平成25年に食品表示法が制定されたのです(図表参照)。
【図表】食品表示に関する法律一元化のイメージ
食品表示法制定以降も、平成27年に機能性表示食品制度の創設、平成29年には全ての加工食品に原料原産地表示が義務化され、今後はカロリーや三大栄養素の表示が義務化されるなど、新たなルールが次々と追加されています。
食品表示法の第1条では、表示の機能と役割について、食品を摂取する際の安全性の確保及び自主的かつ合理的な食品の選択の機会の確保に関し、重要な役割を持つとしています。食品表示法に基づく食品表示基準は749ページに及び、専門家でなければとても覚えきれません。そのため、国では消費者にとって食品表示がよりわかりやすいものとなるよう、食品表示基準とともに関係する内容のQ&Aとガイドラインを示すことで各方面からの問い合わせに対応しているのです。
「一般社団法人 食品表示検定協会」とは
食品表示に関る人材の教育、食品表示の向上に関する情報収集・分析等、将来の消費者となる子供たちへの学習機会の提供を行うために設立された一般社団法人
池戸重信
一般社団法人 食品表示検定協会 理事長
農林水産省食品流通局消費生活課長、独立行政法人農林水産消費技術センター理事長、公立大学法人宮城大学食産業学部教授、同大学副学長・食産業学部長等を経て、現在同大学名誉教授、日本農林規格(JAS)協会会長、クリエイティブ食品開発技術者協会理事長等。この間、消費者庁「食品表示一元化検討会」座長、内閣府消費者委員会食品表示部会委員等を務める。
文章構成:石山 真紀(ライター)