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値上げ時代、スーパーマーケットが取るべき価格戦略とそのための仕組みづくりとは何か?

価格戦略大

相次ぐ値上げとコロナ特需の終焉

 値上げが止まらない──。原材料の高騰をはじめ、エネルギー価格の上昇による物流費や光熱費の負担増、ウクライナ紛争など世界情勢の変化……。さまざまな要因が重なり、あらゆるモノの値段が上がっている。直近では、一時的に1ドル=150円を超えるなど、急速な円安の進行により、原料の調達や製造を海外に依存している商品は大きな影響を受けている。

 このような厳しい外部環境では、メーカーや卸が従来の価格を維持することは困難だ。今年に入ってから数多くの商品が値上げされており、2022年10月でも約6500品目の価格が上昇。さらに11月1日からは牛乳などの乳製品や菓子などを中心に765品目の値上げが発表されている。

 こうした状況下では、食品スーパー(SM)をはじめ、食品小売各社も販売価格を上げざるを得ない。ここ1~2年はコロナ禍による特需で追い風が吹いていたが、外食や旅行のニーズが回復する一方で反動減に苦戦する食品小売各社。ここに値上げ問題が加わり、再び厳しい向かい風にさらされるかたちとなった。

 さらに、コロナ禍の不景気も相まって消費者の節約志向はますます高まっている。給与水準が上がらないなか、消費者が店を選ぶ基準として価格を重視するようになるのは自然な流れだ。

価格は消費者が店を選ぶうえでますます重要になっている

ローコスト運営の仕組み化が急務

 値上げが避けられないなかで顧客の価格に対する見方がシビアになっていくという困難な状況下で、食品小売各社はどのように低価格を実現していけばよいのか。小手先の値下げでは継続が難しく、いたずらに利益を圧迫してしまうだけである。重要なのは、低価格を持続可能にするローコスト運営の仕組みをつくったうえで、浮いた原資を価格に還元する「ディスウンティング」の技術を確立することだ。

 具体的には、価格政策をEDLP(エブリデー・ロープライス)に切り替え、売上と作業量を平準化し、オペレーションコストの低減分をさらに売価に反映させる考え方が基本となる。それ以外にも、やるべきことは多岐にわたる。

 たとえば、店舗運営面では、すでに多くの企業がセルフレジやセミセルフレジを導入している。また、従業員が複数の部門を兼ねる人材の多能工化に取り組む企業も増えてきたほか、生鮮や総菜の店内作業をプロセスセンターに移行する動きも活発化している。そのほか、以前からローコスト運営に強みを持つディスカウントストア(DS)がよく活用しているジャンブル什器をはじめとする各種省力什器の導入も参考になるだろう。こうした取り組みは、人件費の抑制や作業効率化のうえで有効な施策の一部だ。

 中長期的な経費削減の観点では、店内照明を節電効果のあるLEDに変更することも効果を発揮するだろう。また、平和堂(滋賀県/平松正嗣社長)は総菜部門で値上げの影響が大きい油を再利用するフィルターを導入し、コスト低減に努めている。

 商品政策面では、自社開発により価格をコントロールしやすく、粗利益を確保しやすいプライベートブランド(PB)を強化するのも一手だ。大黒天物産(岡山県/大賀昭司社長)は、自社PB「D-PRICE」を価格訴求の軸に据え、売場で大きな存在感を与えている。メーカーに製造を委託するだけでなく、自社でも製造・輸入機能を持つことによって、利益面で大きな優位性を確保しているのが同社のPBの特徴だ。

同業他社との連携も進む

 最近では、作業の効率化や生産性向上を図るため、グループ内外の企業と協業する動きもみられるようになった。

 まず挙げられるのが、商品の仕入れにおける協業である。一括で大量に仕入れることができれば、それだけ原価を低減することが可能だ。以前からディスカウントストア(DS)などは品揃えを絞り込み、単品を大量に売り込む戦略を採っているが、最近ではSMでもグループ内外との連携を強め、仕入れ数量を増やしている。

 中部地方を中心にSMを展開するバロー(岐阜県/森克幸社長)は、中部薬品(同/高巢基彦社長)やホームセンターバロー(同/和賀登盛作社長)といったグループ内の他業態と連携するほか、アークス(北海道/横山清社長)やリテールパートナーズ(山口県/田中康男社長)と結成した「新日本スーパーマーケット同盟」での取り組みの一環として共同で商品を仕入れ、売場で大量展開し徹底的に売り込んでいる。グループ内連携では、月間の単品販売数量が日本一となる商品も出ており、同盟での取り組みでは、3カ年で約12億円の原価低減に成功している。

バローはグループ内外の企業と協業し、商品を大量に仕入れて売場で大きく展開している

 他社との連携による取り組みは、物流の領域にも及び始めている。イオン九州(福岡県/柴田祐司社長)は22年8月、トライアルホールディングス(同/亀田晃一社長:以下、トライアル)をはじめ、九州を地盤とする小売企業13社とともに、企業横断型で「物流の2024年問題」や脱炭素といった課題に対処し、持続可能な物流の実現をめざす「九州物流研究会」を発足した。すでにイオン九州とトライアルの福岡県内の店舗で共同配送の実験が始まっている。

価格を安く見せる工夫も

 このように、さまざまな取り組みで安さを実現する仕組みをつくることができて初めて、EDLPをはじめとする売場での価格訴求や販促に取り組むことが可能となる。お客の価格に対する感度が高まるなか、売場で効果的に安さを表現することの重要性はますます高まっている。

 値上げが続くなか、首都圏を中心に小型DSを展開するビッグ・エー(東京都/三浦弘社長)は、一律に値上げするのではなく、価格感度の高さやブランドスイッチの起こりやすさなどを踏まえ、カテゴリーごとに役割を明確にしたうえで細かな価格設定を行っている。価格優位性に応じて商品を5つに分類し、バスケットプライスでSMより2割安くすることをめざしている(詳しくは44~45ページ参照)。その一方でDSの「安かろう悪かろう」というイメージを払拭するため、洗練された店舗開発にも取り組んでいる。

 埼玉県を本拠とするSM企業マミーマート(岩崎裕文社長)の生鮮強化型ローコスト業態「生鮮市場TOP」では、生鮮食品の価格を100g当たりの2ケタ売価で大きく表示しているほか、日配品ではバンドル販売でお得感を演出するなど、商品を安く見せる工夫を行っている。

 そのほか、イトーヨーカ堂(東京都/山本哲也社長)は、コモディティ商品だけでなく、認知度は高くないものの高品質の商品や銘店の商品を軸とした販促を展開。商品の価値を伝えたうえで、品質の高さに対する値ごろ感を打ち出すことで効果を上げている。

 もちろん、価格だけがSMの価値ではない。商品の味や品質、サービスレベルの向上など、ほかにもSMが追求すべき価値はたくさんある。しかし、値上げが続く一方で収入も上がらない状況では、そもそも価格が安くなければ消費者に選ばれにくくなってしまうのも現実だ。

 さらに、ロピア(神奈川県/高木勇輔代表)やオーケー(同/二宮涼太郎社長)のように、SMながら価格訴求力の強い業態が大きな支持を獲得している一方、生鮮強化に力を入れるトライアルのようなDSもあるなど、価格とそれ以外の価値を両立しようとする動きもみられる。こうした状況下では、品質の追求だけで生き残っていくことは難しくなっていくだろう。

 本特集では、低価格を実現するための仕組みづくりに取り組む企業8社を取材・調査した。自社の価格戦略を構築するうえで、ぜひ本特集を参考にしてほしい。

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