国内外で17フォーマット、計683店※の外食チェーンを運営する物語コーポレーション(愛知県/加藤央之社長)。コロナ禍が始まった2020年、同社が運営する「焼肉きんぐ」が焼き肉業界で売上トップになった。ほかにも同社は23年、「果実屋珈琲」などの新フォーマットを続々とオープンしており、出店攻勢をゆるめない。物語コーポレーションが事業展開の軸に置いている3つの戦略について、加藤社長に詳細を聞いた。※2023年11月末時点
売上で業界1位に、認知度の向上を重視
──23年6月期の決算は、売上高が対前期比25.9%増、営業利益も同150.6%増と非常に好調でした。
加藤 コロナ禍が始まった20年、当社は焼肉業界で売上高1位になりました。しかし、売上高でトップになることと、認知度でトップになることは必ずしも一致しません。強いブランドを築くには、認知度が不可欠です。お客さまは最初に頭に思い浮かべる店に来店する確率が高く、外食機会が減少したコロナ禍ではとくにその傾向が顕著でした。そこで、運営する各フォーマットの売上と認知度をトップにすることをめざす「ナンバーワン戦略」を成長戦略の1つに掲げました。認知度を上げるには本来、人流の多い立地に店舗を複数出店しやすい小型店が有利です。しかし、当社の店舗の95%は郊外立地で、しかも大型店を中心に出店しています。そこで、焼肉業界で売上高トップになった機を逃さず、店舗改装や広告出稿を増やすなど認知度向上の施策を行いました。それらが奏功し、今日の業績につながっています。
──原材料価格の高騰に伴い値上げをしたにもかかわらず、お客の支持を増やせた理由は何でしょうか。
加藤 23年3月29日から、主力の「焼肉きんぐ」を含め、すべての業態で一部商品の値上げを実施しましたが、客足は影響を受けませんでした。値上げ幅を極力抑えたことと、同業他社と比較してコストパフォーマンスのよい価格に設定したことが成功につながったと考えています。
加えて、お客さまに寄り添った新商品開発や新たなサービスを開始したことが、プラス要素だったと考えています。たとえば「焼肉きんぐ」では、単に価格を上げるのではなく、代表的な商品である「4大名物」を「5大名物」に変更。さらに、菓子メーカーの井村屋(三重県/岩本康社長)さんと提携し、魅力的なデザートをラインアップに追加しました。お客さまに付加価値を加えたことをわかりやすく伝える点に投資したことが奏功しました。
成長戦略に沿った新フォーマットを続々開発
──中期経営計画では「業態開発型リーディングカンパニー」を標榜しています。23年6月には新フォーマットの「濃厚中華そば餃子丸福」(以下、丸福)と「果実屋珈琲」を同日オープンし、計17フォーマットになりました。
加藤 当社は成長戦略の1つに「成長を加速させる新業態開発」を掲げています。フォーマット開発の行程は「複雑な迷路」のようなものです。メニュー構成や味、店舗デザインなどあらゆる項目の判断を間違えなかったときに初めて、そのフォーマットはヒットします。外食産業では、1つのヒット・フォーマットが誕生、拡大していくことで企業が成長するのが通例で、複数ブランドを自社開発して規模の拡大を実現した企業は少ないのが実態です。しかし、当社は自ら複数のフォーマットを創造する開発力を持った企業になるため、フォーマット開発に力を入れています。
──参入する市場の選び方を教えてください。
加藤 当社はニッチな市場をねらうのではなく、「常に安定的で大きな市場」で差別化できるアイデアを追求します。そこで、商品のライフサイクルを「導入」「成長」「成熟」「衰退」の4つのフェーズに分類。当社では第4フェーズ「衰退」に入った商品は、第1フェーズ「導入」に戻る余地があると考えています。たとえば「丸福」は、昔から多くの人に愛されてきた「中華そば」が第4フェーズにあると認識していたため、開発に至ったフォーマットです。具体的には中華そばに「濃厚さ」を出すことで新たな「導入」フェーズの商品に転換しようと考え、鶏や豚の脂、米粉でとろみをつける商品を開発、店舗として立ち上げました。
フォーマットをつくりあげて終わりではなく、商品を含めフォーマットを磨きあげていくことが重要です。そうしなければ時代の変化に置いていかれ、廃れてしまうからです。
当社の業態で最も売上が多いのが「焼肉きんぐ」、次いで「丸源ラーメン」です。ともに業績は好調ですが、今もフォーマットを磨き続けています。たとえば「丸源ラーメン」では23年6月期に店舗デザインの変更、オープンキッチン化、直営全店で注文用のタッチパネル導入などを実施しました。
独自のノウハウを生かし海外事業の拡大へ
──海外進出にも積極的です。
加藤 当社では3つめの成長戦略に「海外事業の拡大」を掲げています。当社は12年に中国・上海に海外初出店を果たしました。上海ではなかなか1つめのヒット・フォーマットが生まれず苦労しましたが、カニ料理を中心とする高客単価の日本料理専門店「北海道蟹の岡田屋総本店」(以下、岡田屋)がヒットしました。
一時期は岡田屋を模倣した他社の店舗がいくつも出現しましたが、オペレーションが難しく初期投資がかかるフォーマットであるため、いつの間にか淘汰され今では岡田屋だけが残っています。
中国では現在、岡田屋6店舗のほか、「焼肉専門店肉源焼肉王」11店舗、22年11月に出店したハンバーグ専門店「肉肉大米」3店舗を展開しています。とくに「肉肉大米」は好調で、今後出店を加速していく方針です。
──中国以外の国ではいかがでしょうか。
加藤 23年7月には、インドネシアのジャカルタに進出しました。リソースには限りがあるので、どの市場を選択するかは重要です。インドネシアは平均年齢が約29歳と若く、約2億7000万人の人口は現在も増加傾向にあります。50年先を見据えると大きな可能性を持った国であるため、進出先に選びました。ヒットの可能性はさまざまな方向にあると見ていますが、まずはカルビ丼が看板メニューの「焼きたてのかるび」(現地ブランド名:Yakitate KALBI)を出店しました。インドネシアではカルビ丼が普及していないので、当社がその先駆者になろうと考えています。
海外出店は、ほかにも大きな市場である北米での出店も視野に入れていますが、具体的な計画はまだ立てていません。
議論を盛んに行える社内環境づくりに注力
──最後に、25年以降の目標やめざす方向性を教えてください。
加藤 25年6月期のグループ店舗売上高目標である1500億円は通過点ととらえています。そこから5年先の数値目標はまだ具体化していませんが、成長し続ける企業でありたいと強く思っています。
成長し続けることで、社員が今から5年後に「新しいことに挑戦できる自分」「今よりも昇給している自分」「より多くの仲間に囲まれている自分」を想像できるような、社員に「右肩上がりの価値」を提供できる企業をめざしています。
企業の成長戦略を支えるのは人です。これまでも社員同士が深くつながり、一人ひとりが心理的安全性を感じられる環境を実現するためにさまざまな取り組みを行ってきました。心理的安全性とは、組織の誰に対しても安心して発言できる状態を指します。こうした心理的安全性が高い組織にいると、自分の意見を言うことで周りから反応がもらえ、視点が増えたり自分の感覚のズレに気づくことができます。それにより対人感受性やマーケティング感覚、ひいては成長角度が高まるのです。
また当社では、議論文化は会社を健全に成長させる礎だととらえ、社員同士の議論を重んじています。議論には説明責任が伴うため、思考が深まります。深く考えることで初めてイノベーションは生まれますし、リーダーの成長にもつながるからです。つまり、自分の考えを忌憚なく発言する人たちが議論をすると、意思決定が正しい方向に向きやすくなり、イノベーションを生み出す確率が高まるというわけです。
このような企業の理念や文化を社員に伝えるとともに、給与や労働条件、福利厚生も整備しました。現在、社員がプロフェッショナルになるための教育や従業員定着の仕組みもつくろうとしています。このように組織づくりを多面的に実行しないと、成長戦略の下支えはできないと考えています。
会社概要
創業 | 1949年12月 |
所在地 | 愛知県豊橋市西岩田5-7-11 |
資本金 | 28億円(23年6月時点) |
代表者 | 加藤央之 代表取締役社長 |
店舗数 | 国内644店、海外21店(同) |
売上高 | 922億円 ※グループ店舗売上高1350億円(同) |