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決定!「第1回サステナブル・リテイリング表彰」 ローカルスーパーや生協の施策が受賞へ

ダイヤモンド・リテイルメディアが新たにスタートした表彰企画「第1回サステナブル・リテイリング表彰」の受賞企業が決定した。昨今、食品小売業界ではこれまで以上に社会のサステナビリティ(持続可能性)への貢献が求められるようになっているなか、優れた施策を実践している3つの企業・組織が選ばれた。その取り組みと、専門家から評価されたポイントをレポートする。

20組織から50以上の
サステナブルな施策集まる

 まず「サステナブル・リテイリング表彰」について紹介したい。本企画は、ダイヤモンド・リテイルメディアが、食品小売企業がサステナビリティの実現のために実践している施策を応募・推薦によって募集し、集まった施策の中から専門家の審査によって受賞施策を決定し表彰するものだ。

 本企画を立ち上げた背景には、食品小売企業におけるサステナビリティの重要性が増していることがある。消費者の価値観の変化により、サステナブルであることは、選ばれる店や商品になるための重要な判断軸の1つになりつつある。また、商品原価が高騰するなか廃棄ロスなどのムダ削減が喫緊で求められているなど、サステナビリティは、企業が今後生き残っていくためにも取り組むべき課題となっているのだ。

 そこで本企画では、食品小売業のなかでも優れた施策を表彰して、業界の好例を広く発信し、サステナブルな取り組みの活性化を図ることを目的としている。

 選考は次のように行った。「ダイヤモンド・チェーンストア オンライン」上で応募を呼びかけ、応募、推薦であがった施策を、サステナビリティ領域の専門家5人による選考委員が審査した(詳細は審査概要、選考委員一覧を参照)。今回集まったのは計20組織からの52施策。この中から、①応募・推薦を合わせた全施策、②応募施策、③推薦施策から1つずつ、計3つの賞を決定した。ここで伝えておきたいのは、本企画ではサステナビリティに関する「施策」を表彰している。発表に当たって企業名を挙げているが、前提としてその施策に焦点を当てている。

アクシアルが「総合賞」
複数施策を継続的に発展

 それでは、第1回の審査結果を発表しよう。今回は、①では「総合賞」としてリージョナル食品スーパーチェーンのアクシアル リテイリング(新潟県/原和彦社長)が、②では「グッドアクション賞」として生活協同組合のコープこうべ(兵庫県/岩山利久組合長理事)が、③では「地域コミュニティ活性化賞」として、徳島県で店舗展開するローカルスーパーのキョーエイ(徳島県/埴渕恒平社長)の施策が受賞した。

~受賞企業~

「総合賞」 アクシアル リテイリング

「地域コミュニティ活性化賞」 キョーエイ

「グッドアクション賞」 コープこうべ

(企業名のあいうえお順)

 順に各施策を紹介していきたい。「総合賞」を受賞したアクシアル リテイリングは、今回、複数の施策が推薦されたとともに11の施策を自社で応募。それらの施策が多様な切り口で、かつ全体として従業員、取引先、地域を巻き込んだサステナビリティの実践につながっているとして、その総合的な取り組みが評価され「総合賞」に輝いた。

 代表的な施策をいくつか紹介すると、同社は2000年、国内小売業に先駆けて環境マネジメントの国際認証規格「ISO14001」を取得している。同規格は取得して終わりではなく、毎年認証機関による審査があるなど、維持・継続に多くの手間を要するものだ。対して同社は、1980年代から「TQM(Total Quality Management:総合的品質管理)」活動を行っている企業として知られており、この継続的に改善活動を実行できる組織文化のもと、高い品質でのサステナビリティ活動の維持・継続を可能にしている。

1980年代から「TQM(Total Quality Management:総合的品質管理)」活動を行っている企業として知られており、この継続的に改善活動を実行できる組織文化のもと、高い品質でのサステナビリティ活動の維持・継続を可能にしている。

 それ以外にも、プライベートブランド商品の包装変更などによるプラスチック使用量の削減や、お客の健康促進のために、だしを効かせることで塩分使用料を減らした「だし香る」商品シリーズを開発し、複数カテゴリーへの波及、自前の物流ネットワークを活かし、温室効果ガス削減などを目的に、取引先工場の商品を配送帰りにピックアップする「引き取り物流」などを行っている。

「だし香る」商品シリーズでは、だしを効かせることで塩分使用料を減らし健康増進への貢献をめざす

 選考委員の間では共通して同社の組織的な取り組みを評価する意見があがり、たとえば加藤孝治氏は「同時進行で、多方面かつ高水準の施策が実行できている。応募の際の提出資料からも、従業員、組織がサステナビリティを実行する意義を自覚し、積極的に取り組んでいる姿勢が伝わってくる」とコメントしている。

コープこうべは
「てまえどり運動」で
「グッドアクション賞」に

 「グッドアクション賞」のコープこうべは、応募した17年から始めた施策「てまえどり運動」が評価され受賞に至った。「てまえどり」は昨今、大手コンビニエンスストアでも取り組みが進んでいるもので、手前に陳列されている、値引き商品や販売可能期限が迫った商品から購入することを促し、食品ロス削減を減らそうという運動だ。

 コープこうべでは、早期の15年、店舗を利用する組合員が食品ロス問題を知り「自分たちでも何かできないか」とプロジェクトをスタート。専門家を招いた講演会の開催などを通じて問題に対する理解を深め、誰でも気軽に、無理なく継続できる取り組みとして「てまえどり運動」を考案し、組合員を巻き込んで推進してきた。

てまえどりを呼びかけるPOP

 18年には、環境チャレンジ目標「エコチャレ2030」を策定し、30年までに事業活動から出る食品廃棄物を50%削減(15年度比)する目標を設定した。その後、神戸市とも連携してキャンペーンを実施したほか、19年からはコープこうべ全店舗へ取り組みを波及。生鮮食品や日配食品の売場でPOPやシールなどを活用して告知活動を行っている。さらには組合員向けの学習会を各地で実施している。結果、21年度、コープこうべの店舗では、食品廃棄物を対15年度比で86.9%、金額換算では対前年度比で6000万円の削減に成功している。

積極的な情報発信も寄与し、21年度には対15年度比で86.9%の食品廃棄物の削減に成功している。

 選考委員の小林富雄氏はコープこうべの受賞理由について「サステナビリティの取り組みがここまで大きくなる以前から内発的に運動を考案し、取り組みの輪を大きくしていった行動を高く評価したい。また、チャレンジングな数値目標を掲げ、実際にクリアしている」と述べている。

 また、この「てまえどり」については、消費者庁を中心に国も後押ししているもので、21年には大手コンビニチェーン4社が協業による運動をスタートしている。「このように競合の垣根を越えて切磋琢磨しながら取り組む業界の流れに今後も期待したい」という意見が選考委員全体から挙がった。

キョーエイは
地域に根づいた施策で
「地域コミュニティ活性化賞」

 キョーエイは今回、推薦施策の中でも優れた施策に選ばれ、「地域コミュニティ活性化賞」を受賞した。1958年創業のキョーエイは、近江商人の心得である、売り手、買い手、世間のそれぞれにとっての利益を考える「三方良し」の精神を重視しており、サステナビリティにおいてもそれを実践している。今回注目されたのが、「すきとく市」「はっぴぃエコプラザ」「キョーエイフードバンク」の3つの取り組みだ。

すきとく市では、単に売場を提供するだけでなく、契約農家の販路拡大などもサポートする

 1つずつ簡単に紹介すると、すきとく市では、徳島県内の契約農家による地場野菜を店頭で販売するほか、販路拡大もサポートし、地産地消や農業振興を推進している。

 はっぴぃエコプラザでは、週に1~2回、店舗の敷地や設備を無償で貸し出し、そこでNPO・福祉団体が地域住民の資源ごみを回収することで収益を得られる仕組みを提供している。同施策では、資源を持ち込んだ人にはキョーエイ店舗で使えるクーポン券も配布して、利用促進も行っている。

 キョーエイフードバンクでは、キョーエイの契約農家や、食品メーカー・卸等の取引先などの規格外品や余剰在庫などを集めて、特定非営利法人フードバンクとくしまや、はっぴぃエコプラザで活動するNPO・福祉団体に寄贈している。

 このように、すきとく市やはっぴぃエコプラザで構築してきた生産者やNPO・福祉団体との関係を活かしてフードバンクの施策につなげ、サステナビリティの取り組みを大きくしている点が評価された。

店舗で週に1~2回開催しているはっぴぃエコプラザの様子

 選考委員の加賀田和弘氏は「自社の店舗へ来店を促せる仕組みも組み込んでいる点も巧みである。また、自治体が担うような公的な役割を進んで担い、地域の中核となってコミュニティ形成に寄与している点が素晴らしい。一朝一夕でできることではなく長年ローカルスーパーとして地域との関係構築を図ってきたからこそ可能なのサステナビリティ活動である」と述べている。

来年度も開催方針
独自性の光る施策求む!

 ここまで、受賞施策の具体的な取り組みや評価のポイントを紹介してきた。これらがヒントととなり、業界全体でサステナブルな施策が活性化する一助となれば幸いだ。

 最後に、今回の審査を通じて、選考委員からは食品小売業のサステナビリティ活動について次のような意見も挙がったのでいくつか紹介したい。「Z世代を中心にサステナビリティに対する意識は高まっている。今後は現在の施策を消費者に知ってもらうための工夫がより必要である」(渡辺林治氏)。「食品小売業は多くの従業員によって支えられている。全体的に海外に比べて従業員向けの施策は発展途上であると感じたため、今後に期待したい」(篠原欣貴氏)。「社会的活動で数値的な結果を出すのは、ビジネスのそれよりも難易度が高い部分がある。だからこそ外資系企業では人材育成の観点から従業員にサステナビリティに挑戦させているくらいだ。こうした観点からもサステナビリティは本業の力となって返ってくるはずであり是非、企業として積極的に取り組んでもらいたい」(小林氏)。

 今回、応募施策の中には、最近スタートしたばかりのユニークな施策も多く見られた。しかし今回の審査では、未だ結果が審査しきれない施策は、受賞から外したという経緯がある。本企画は来年度も継続する方針であり是非再び応募していただき、独自性の光るさまざまな施策が多く寄せられることに期待したい。

【審査概要】
22年9月15日~10月14日、「ダイヤモンド・チェーンストア オンライン」上の応募フォームにて、応募・推薦による施策を募集。集まった施策を選考委員による全2回の審査によって決定した。審査では専門家が設定した7つの評価項目を5段階で定量評価したのち、ディスカッションによって受賞施策を選定した。なお、本表彰企画における「サステナビリティ」の定義は、「(食品小売企業が)長期で維持発展するため、すべてのステークホルダーとの関係を、責任をもって維持強化させる取り組み」(書籍『小売業の実践SDGs経営』より)としている

【選考委員一覧】(あいうえお順)
加賀田 和弘(小樽商科大学商学部准教授)
加藤 孝治 (日本大学大学院総合社会情報研究科教授)
小林 富雄(日本女子大学家政経済学科教授)
篠原 欣貴(立命館アジア太平洋大学国際経営学部准教授)
渡辺 林治(東京大学大学院医学系研究科特任講師)