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驚異のローコスト経営も、売上下がればフツーの店 販管費“率”が見せる幻影とは

――「販管費率16%」の店が自店の近くにオープンする。
そんな話を聞いたら、「とても価格では敵わない!」と戦々恐々とするだろう。だが、販管費率にはマジックがある。今回はそんな話をしたいと思う。

Jitalia17/istock

絶頂期、1坪あたり870万円を売り上げていた繁盛店

 「ダイナミック!ダイクマ」

 首都圏にお住まいで30代以上の人は、印象的なテレビCMのフレーズを覚えている人も多いだろう。

 “ディスカウントストア”として一世を風靡したダイクマは、売上高販売管理費率(以下、販管費率)16%、粗利益率19%という驚異のローコスト経営を誇っていた。

 ダイクマは、神奈川県秦野市で呉服店として創業。1968年「大工の熊五郎」としてDIY事業へ業態転換。1978年、イトーヨーカ堂と資本提携し、子会社となったことを契機に商号を「ダイクマ」に変更し、総合ディスカウントストア事業へ業態転換した。

 ダイクマの標準売場面積は約5000㎡。首都圏という豊穣な商圏に支えられ、1店舗当たり売上高は50億円。1坪当たりの損益分岐点売上高380万円に対して、バブル絶頂期は870万円を売り上げていた。

 一般的に、首都圏内で販管費率16%と聞けば、競合企業は「もう価格競争では勝ち目がない」と諦めてしまう。

 仮に仕入価格が同じであるならば、販管費率が16%の企業と25%の企業では9ポイントの差が出る。16%の企業の価格競争力は歴然であり、すべての商品を他社よりも9ポイント安く売っても、営業利益は同じになるからだ。

 しかし、実際には、それは幻想にすぎない。

 「販管費“率”」にはマジックがあるからだ。

 

「販管費“率”」のマジックとは?

 

 販管費率の分母は売上高だ。ということは、価格で徹底抗戦する企業が出現し、売上高を半減させてしまえば、販管費率は2倍に跳ね上がってしまうわけだ(単純に流動コストはないものと想定します)。

 実際、ダイクマは、同じようなディスカウンターが続々と出店するようになった1990年代後半から業績を悪化させた。神奈川県内ではアイワールド、埼玉県内ではロヂャース、またその他、ホームセンター、ドラッグストアとの激しい競合にさらされた。

  また、多店舗展開を繰り返すうちに、自社競合(=カニバリ)を起こし、1店舗当たりの商圏人口がどんどん縮んでいった。繁盛店の茅ケ崎店は、最盛期には100万人規模の商圏人口を抱えていたが、多店化の中で20万人くらいまでに萎んでしまう。

  誰もかなわないと思われた鉄壁のローコスト経営は、実は、案外もろく、売上激減で販管費率は上がっていくという顛末を迎えた。

 ダイクマは、ディスカウントストアではなかったのである。

  もっとも、その当時にイトーヨーカ堂の社長であった鈴木敏文氏は「ダイクマはローコスト経営ではない。売上高が極端に大きいので結果として販管費率16%になってしまうだけだ」と看破していた。

 結局、ダイクマは経営不振に陥り、20025月にアイワイグループ再編の一環として総合家電量販店チェーンのヤマダ電機に売却された。

 「打率10割の凄いバッター」と聞くと、一見、抑えられなそうに思えるが、その内容が「1打数1安打」だとするならば、打率のことはまったく気にする必要がないのと似たようなものだ。

 当たり前のことかもしれないが、率を見る場合は、常に分母がなんであるのかに注意する必要がある。