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真逆の戦略で高成長維持するダイソーとセリア!100円ショップ進化のゆくえ

伸び続ける需要と厳しさ増す経営環境

 レギュラーシーズンで前人未踏の「50-50」を達成し、連日メディアを賑わせているロサンゼルス・ドジャースの大谷翔平選手。彼の打席に見入っているうち、日本ではおなじみの「DAISO」のロゴが背後にあることに気づいた人も多いことだろう。

 大創産業(広島県/矢野靖二社長)は今年、ドジャースと複数年にわたるスポンサーシップ契約を締結しており、本拠地のドジャーススタジアムやキャンプ地のスタジアムなどに広告を掲出している。これは、「DAISO」のブランド力がグローバル規模で高まっていることを意味するのと同時に、莫大な金額と推察されるスポンサー料を支払えるだけの売上と資本余力を同社が有していることを示唆するものと言えるだろう。

 実際、大創産業をはじめ、100円ショップ業態はコストプッシュ型インフレが世界的に長引くなか、消費者の需要をさらに大きく取り込み成長を続けている。

 帝国データバンクによると、国内の100円ショップの市場規模は2023年度に前年度から約5%伸長し、1兆円の大台を突破した模様。10年前の13年度と比較して1.5倍の規模に達している。企業ごとに見ても、最大手の大創産業の24年2月期の売上高は対前期比6.0%増の6249億円、2番手セリア(岐阜県/河合映治社長)も24年3月期の売上高が同5.1%増の2232億円といずれも増収を遂げている。

 店舗網の拡大も顕著で、大手4社の国内店舗数は24年3月末時点で計8900店舗前後となる見込みだ。前年度から200店舗以上、過去10年では市場規模と同様に1.5倍の伸長率を示している。

 ただし、各社を取り巻く経営環境は決して恵まれたものではない。目下、深刻な経営課題となっているのが円安による原材料コストの高騰だ。

 100円ショップはこれまで、ほとんどの商品を製造費の安い海外から輸入して販売してきた。しかし、昨今の記録的な円安で製造や輸入にかかるコストが急増し、従前の商品規格で同じ売価を維持することが難しくなっている。大創産業の矢野社長は本誌のインタビューにおいて、「(経営環境は)一言で言えば厳しい。為替変動の影響をダイレクトに受けている」と、苦しい胸の内を明かす。

「脱100円」と「海外」に活路見出す王者ダイソー

 そうした厳しい環境下で持続的な成長を図るべく、各社はすでに打開策を講じている。ここで興味深いのが、“2強”である大創産業とセリアが真逆ともいえる方向性を示している点だ。

 まず大創産業は、価格帯の幅を広げる方針を打ち出し、100円のみならず、200円や500円、最高で1000円の商品も取り入れている。それと合わせて、高付加価値型の生活雑貨に特化した「Standard Products」(21年開発)や、300円ショップ「THREEPPY(スリーピー)」(18年開発)という、主力の「DAISO」とは一線を画したコンセプトを持つブランドを展開。価格帯をただ広げるだけでなく、付加価値も追求した商品づくりに注力することで、顧客層の拡大にもつなげている。

 また、これらのブランドを「DAISO」と合わせて、2ブランドあるいは3ブランドからなる複合店の出店も進めている。この複合店の集客力はすさまじく、商業施設などからの出店要請も相次いでいる。

 大創産業がもう1つの成長の軸に据えるのが海外事業だ。同社はすでに、海外26の国と地域に約1000店舗を展開するが、今後はアメリカを最重要エリアとして、同国内だけで30年までに1000店舗体制を構築したい考え。それを実現すべく、「HENSHIN(変身) PLAN」という名の社内プロジェクトを推進しており、大都市を中心としたドミナント出店と、それを支える物流インフラの強化を図っている。

 大創産業は中長期の経営目標として、売上高1兆円・1万店舗の達成をめざす。そのために、これまでの100円ショップのビジネスモデルを根底から見直し、高付加価値化と海外市場開拓という大きく2つの取り組みによって、厳しい経営環境のなかでさらなる成長を図ろうとしている。

単機能化と効率化でセリアは「100円死守」

 対してセリアは、「100円ショップらしさ」を貫く。大創産業をはじめ、競合他社が「脱100円」の動きを強めるなかで、100円という売価を死守する姿勢を見せている。

大創産業とセリアは真逆の方向で成長を図ろうとしている

 セリアの河合社長はこう言う。「競合他社が価格帯の幅を広げるなか、セリアではこれまでどおりすべての商品が100円で買える。それがお客さまに優先的にセリアを選んでいただくことにつながっている」。

 とはいえ、原材料が高騰するなかで“100円据え置き”で利益を出すためには、抜本的なコストコントロールが欠かせない。

 そこでセリアの武器となっているのが、長年力を入れてきたデジタル活用・データ分析による効率化の取り組みだ。たとえばPOSデータの収集と分析は20年以上前から行っており、勘と経験に頼らない精度の高い商品開発が行われている。さらに発注支援システムによって店頭での発注作業はほぼ自動化されているほか、店ごとの状況に応じた適切な人員配置やスケジュール管理についても自動で算出する仕組みを導入している。

 一方でMD(商品政策)の面でも、安易な高付加価値化とは真逆の“単機能化”を追求し、商品の機能を絞り込んでシンプルに設計している。もちろん原材料コストの抑制というねらいもあるが、「100円ショップへのお客さまのニーズに対して、オーバースペックになる可能性がある」(河合社長)との考えが背景にある。

 いわば100円ショップ本来の役割を、長引くインフレのなかでも提供し続けるために、デジタルを活用した業務効率化などの「仕組み」を強固にする。これがセリアの差別化策であり、競合に対する優位性と言える。

キャンドゥ、イオン入りの深謀

 ところで、100円ショップ市場の大きな特徴として、上位企業で著しく寡占化が進んでいることが挙げられる。

 ダイヤモンド・チェーンストア誌24年10月1日号特集「市場占有率2024」によると()、各社のマーケットシェアは大創産業が約62%で頭一つ抜けており、それに次いでセリアが約22%、キャンドゥ(東京都/城戸一弥社長)が約8%、ワッツ(大阪府/平岡史生社長)が約6%と、上位4社だけで約98%を占める。大創産業とセリアだけでも約85%のシェアを有しており、実質的にはこの2社が圧倒的な存在感を誇る“超寡占化市場”と表現してもよいだろう。

 そうしたなかで22年、業界3位のキャンドゥが、イオン(千葉県/吉田昭夫社長)による複数回のTOB(株式公開買い付け)によって同社の連結子会社となった。

 キャンドゥはイオングループ各社が運営する店舗や商業施設などへの出店を加速することで、26年11月期に店舗数を2000店舗(21年11月期時点では約1200店舗)まで増やすことを発表。それと並行して、イオングループ各社への商品供給も行うとした。この動きからは、上位2社が出店攻勢を強めるなかで、自力で出店余地を見出すことが難しくなったという事情も推察できる。イオングループの傘下に入ることで、グループのアセットをフル活用しながら超寡占化された市場を生き残っていく。これも1つの成長・生存戦略と言えるだろう。

 世界的に物価高騰が続くなか、100円ショップに対する消費者からの支持はこれまで以上に厚いものとなっている。「価値ある商品を手頃な価格で提供する」という小売業の使命を究極的に追求する業態である100円ショップ市場は、今後どのような展開を見せていくのだろうか。次ページ以降、大創産業とセリアの2大勢力の最新動向を中心に、市場の今後を考察してみたい。

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