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ツルハHDは本当に非上場化に向かうのか?6000億円の資金の出どころとその先は?

ツルハホールディングス(以下、ツルハHD)が「非上場化を検討している」と各種メディアが報じています。ツルハHDが非上場化を検討しているとすれば、その狙いは何か、そして非上場化のための資金の出し手は誰で、仮に非上場化がなされた場合、その後ツルハHD株式は誰に譲渡されることになるのか、そしてドラッグストア業界への影響は?気になる変化の諸相を見ていきたいと思います。

ツルハHD、6000億円規模で非上場化?

 ツルハHDといえば今年8月の定時株主総会において取締役などの選任をめぐり会社提案と主要株主であるアクティビスト(OASIS INVESTMENTS II MASTER FUND LTD、以下オアシス)とで議決が争われたばかりです。この時は、主要株主であるイオンの後ろ盾を得て会社提案が採択されましたが、まだ火種が残っている様子です。

 ご存じの通り、20231115日付のブルームバーグ等は、ツルハHDがプライベートエクイティなどによる買収を受け入れ、非上場化を検討していると報じています。

 同日、すぐにツルハHD側から「当社は、企業価値向上に向けた様々な施策を従前より継続的に検討しておりますが、現時点では、様々な施策の一つとして一般的な検討を行っているに過ぎません」との表明があり、その後のニュースは出ていません。

 一方、同社の株価はこの報道を受けて急騰、発表前11000円程度だったのに対して足元では12000円台で推移しています。これにより現在の株式時価総額は約6000億円となり、非上場化の可能性を高く織り込んでいると言えます。

 非上場化の買上げ主体やスキームに関する情報が乏しい段階ではありますが、本件の動静に注目しているのはツルハHD株主ばかりではないと思いますので、推論中心になりますが、筆者が気になる点を述べてみたいと思います。

ツルハHD、非上場化の狙いは?

 直近の有価証券報告書によれば、同社の筆頭株主はイオンで13.59%を保有していますが、オアシスの12.84%を始め複数のファンドが一桁台の株式を保有している模様です。経済合理性を投資行動の基本におくことが多数派である外国人持株比率は40%を超えており、創業家に「モノを申す」株主が居並ぶ構成です。

 こうした株主は経営の非効率の改善を促す、いわば「良い外圧」としての役割が期待されますが、他方で今後も継続すべき良い企業文化なども破壊してしまう、いわば「悪い外圧」にもなりえます。さらに、創業家の経営ポジションもリスクに晒されていることは前回の株主総会で見た通りです。創業家から見れば、いったんこうした株主を排除して、企業文化を継承しながら腰を据えて中期的視点で経営を実践したいとの思いに駆られることは無理もない気がします。

 しかし、株主総会から半年も経たないうちに非公開化を本格検討するというのはいかがかと考えざるを得ません。外国人持株比率は東証全体で30%強であり、ツルハHDの40%は取り立てて高すぎるとは思いません。足元の業績も巡航速度で推移しています。このタイミングで非上場化をする大義は何か、わかりにくいといわざるを得ません。

6000億円の出どころは?

 取締役会長の鶴羽樹氏の持株比率は2.91%と低いため、創業家以外の株式を買い上げるだけでも6000億円近い現金が必要です。ここで買上げ主体の株主の資本効率を考えると、買上げ資金を補充するものとしてツルハHDの借入余力が活用されると考えるのが自然です。幸いツルハHDは実質無借金ですので、現在の借入余力は年間のEbitda(税前利払前減価償却前利益)である580億円程度の5年分に相当する2900億円程度あると推察されます。これに事業効率の改善効果で500億円程度の上乗せができると思いますので、3400億円程度は借入が使えると思います。6000億円という必要額が現実的に見えてきます。

 とはいえ、ドラッグストア大手で実質無借金なのはツルハHDだけではありません。マツキヨココカラ&カンパニー、コスモス薬品、サンドラッグ、スギホールディングスはいずれ実質無借金ですし、実質借金のあるウエルシアホールディングスやクスリのアオキホールディングスの残高も年間Ebitda2年を下回る限定的な金額です。

 こうした競合環境の中でツルハHD一社が突出して負債を抱えることが、ツルハHDの成長力を削ぐことになりかねないのか、慎重な検討が必要ではないでしょうか。

非公開後のツルハHDは業界再編のキャスティングボートを握るのか?

 買上げ主体の株主となるPEファンド(プライベート・エクイティ・ファンド)は当然ツルハHDを他のドラッグストアチェーンないし周辺の小売業者に高値で譲渡することを初めから狙うことでしょう。そのためには、同業他社比で改善余地のある労働生産性を引き上げ、収益力を高めた上で、次には事業統合の効果としてのスケールメリットを譲渡価格引き上げの原資にするような交渉を考えているはずです。

 しかし、筆者の見解を述べさせていただくと、ドラッグストアの再編はスケールメリットの追求を原動力に、最終的にはコンビニチェーンの集約の例にならって、多くても3~4社に集約されるのではないでしょうか。

 これに対してドラッグストア業界の現状は企業数の集約があまり進んでいない状況といえます。つまりツルハHDをすぐに傘下に収めなければ規模競争の後手にまわるという危機感を同業他社が考えるほど切羽詰まった状況にはないと言えます。残る買い手候補は、総合スーパー(GMS)、ディスカウントストア、コンビニなどになるでしょうが、統合によるスケールメリットが出にくいため好条件の譲渡価格はつきにくい気がします。

 このように考えると、この案件は、大義が曖昧、負債増加で相対的に財務力が低下するリスクがある、ツルハHDが再編のキャスティングボートを握っている段階にない、など筆者には説得力が不十分に映ります。ツルハHD創業家にとって、堂々と従来通りの経営を貫くもよいでしょうし、イオンに創業家関連の株を譲ることで経営から退くことも選択肢のはずです。彼らにとって真の狙いはどこにあるのでしょうか。

イオンの対応はどうなるか?

 最後にもう一点注目したいのは、筆頭株主でありながら、経営関与が大きくはないイオンの出方です。

 仮にイオンが保有するツルハ株を高い値段で譲渡できるのであれば、昨今の厳しいコーポレートガバナンスの規律の元、持ち株を譲渡しなければ株主から誹りを受けます。イオンの場合、ウエルシアホールディングスを連結している立場ですので、こちらの業績を伸ばすことが理に叶いますし、現在の業界集約の状況を見れば、ツルハHDを手放すデメリットが大きいとは思われません。仮にイオンがツルハHD株式を売ると決める場合、ベルクのようなツルハHDと同じ立場に置かれた会社がどう考えるのか、イオンはツルハ株式の代わり金をどのように活用するのか、など気になる点が数多く出てきます。

 一方、現在のところ、イオンがツルハHDへの関与を増やす、すなわち持分法適用会社化、ないし連結子会社化する可能性も否定できません。この方向が最も腑に落ちる展開であり、ツルハHDの経営陣はこの着地を図るがために非公開化を検討しているとも考えることができるでしょう。

 この事案の鍵ややはりイオンにあるのではないか、筆者にはこう思えてなりません。

 

プロフィール

椎名則夫(しいな・のりお)
都市銀行で証券運用・融資に従事したのち、米系資産運用会社の調査部で日本企業の投資調査を行う(担当業界は中小型株全般、ヘルスケア、保険、通信、インターネットなど)。
米系証券会社のリスク管理部門(株式・クレジット等)を経て、独立系投資調査会社に所属し小売セクターを中心にアナリスト業務に携わっていた。シカゴ大学MBA、CFA日本証券アナリスト協会検定会員。マサチューセッツ州立大学MBA講師