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九州で進む「共創」 ゴミ処理コストを激減させ資源にする「有価物ルート回収」の成果とは

人口減、コスト上昇、2024年問題……小売業のビジネスのサステナビリティを揺るがす諸問題が立て続けに顕在化している。そうしたなか、普段はライバルとしてしのぎを削る小売業同士が「非競争領域」を設定し、物流を中心に手を携えながら課題を乗り越えていこうという動きが、活発化している。九州では、物流のみならず、各社の総務部門が連携して環境、防災、防犯の3テーマで抜本的な共創に取り組んでいる。今回はその動きの一例として、「環境」の切り口で、資源循環の仕組みをつくるための実験として行われた、有価物ルート回収の取り組みの背景とその成果、今後の展開についてレポートする。

九州で進む連帯 
九州総務連合会とは

 イオン九州とトライアルホールディングスが音頭を取り「九州物流研究会」が2022年8月に発足したことは、「イオン、セブン&アイも動く!小売業に必要な非競争領域の設定と協創!『チームK』の挑戦」でも既報のとおりなので、知っている人も多いだろう。いまや業態も異なる13社が参加して、小売共同物流モデルの実現に取り組んでいる。

 しかし、この「九州物流研究会」とは全く別の文脈で、九州の小売企業同士が連帯していることをご存じだろうか。

 それが、今回紹介する「九州総務連合会」だ。

 「各社縦割りの無駄をなくし地域で健全な競争を促進!私たちが九州ばもっとよか街に!」をビジョンに、トライアルホールディングス、イオン九州、西鉄ストアなどが加盟し、共創により総務全般の業務における課題の最適化と効率化をめざす会だ。

 実は九州総務連合会は九州物流研究会よりも前、2022年4月に発足した。現在では毎月対面で会合を設けるほか、毎週各社のリーダーがオンライン上で進捗を確認し合う、極めて密な連携が行われている。

 課題解決に向け、各社が役割分担をしており、トライアルが「防犯」、イオン九州が「環境」、西鉄ストアが「災害」を担当する。

 「環境」では、共同回収による効率化、店頭回収資源の再生と製品化などを掲げ、全体で進捗を確認しながら、実行を進めている。資源循環の仕組み構築を目指すなか、産業廃棄物の共同回収も順次進めていく考えで、今回取材した有価物のルート回収は、取り組みやすさもあって、そのための実験という意味合いが強い。

知られざる有価物ルート回収の意義と、これまでの課題とは

 まず、有価物回収とは何か、これまでどんな課題を抱えていたのかについて説明したい。

 店舗ではさまざまなゴミが出るが、事業者から出るゴミは「一般廃棄物」と「産業廃棄物」に分けられる。

 多くに知られていないこととして、「産業廃棄物」に含まれる鉄や非鉄金属などの金属類は、丁寧に分別することで、「有価物」として業者から有料で買い取ってもらうことができる。店舗で出る有価物としては、壊れた什器や駐輪場に放置された自転車や鉄くずなど多岐にわたる。

 こうした金属ゴミは、今回回収作業を行ったエコモーションによると、食品スーパー1店舗で年間およそ400~500kgほどにのぼるという。各社はこれまで、ゴミがバックルームなどにたまると、各店ごとに半年に1~2回ほどのペースで業者に依頼し、有価物ではなく産業廃棄物として廃棄物処分をしていた。その処理には費用が掛かる上、回収車両のチャーター料金もかかる。

 一般的に、1回依頼するごとに、車両チャーター料金として1台あたり1日2~3万円、処理代は6~8万円程度かかるという。たとえば100店舗展開するチェーンストアで、各店が年間2回業者に依頼していたとすると、それだけで年間コストは1800~2000万円にのぼる計算になる。1店舗あたり約20万円。その予算を店舗の改修や備品購入に充てられるとすれば、店としてはかなりのことができる。それぐらい産廃処理費用のインパクトは大きいのだ。

 くわえて、頻繁に回収できないことから、使わない什器などの金属ゴミがたまり、それがバックルームなどの店舗空間を圧迫することも大きな問題だ。バックルームの混雑につながる上、ゴミの保管に賃料を払っていることになるからだ。

 かといって、有価物として回収してもらうためには、店舗側で事前に分別するなど手間がかかるうえ、回収できるもの、できないものは何か、どんな形態であれば回収できるのか(たとえばガラスと金属が一体化しているものは回収できないなど)という廃棄物に関する知識が必要になる。さらには、1社ごとでは回収できる金属ゴミのロットが小さい(それゆえこれまでは1店あたり年に1~2回しか回収車をチャーターできなかった)ため、頻繁に回収車を依頼することは難しいという問題もある。

 こうした課題は、九州総務連合会の加盟企業が、等しく抱えるものであった。そこで各社が連携し、廃棄物および廃棄物の分別に関する正しい知識を身につけ、共同で有価物回収を行うことを決めた。それにより①廃材置き場の衛生化、②有価物買い取りによる回収コストの削減、③廃棄物総量削減に伴う、環境負荷の低減、を実現し、さらなる分別意欲の向上という正のスパイラルを回していくことを狙いとしている。

有価物回収の実際
自転車や原付、遺物のような古い什器…

スーパーセンタートライアル福岡空港店では、駐車場に長い間放置された原付バイクや数十台におよぶ自転車が並ぶ

 「有価物ルート回収チャレンジ」と題した初めての試みは4月12日、福岡市周辺の5店舗を参加店舗に実験が行われた。回収有価物はカーゴ数にして24台、2トン車1台では載り切らず、途中一度回収有価物を下ろして再度回収車が残る店舗に向かうかたちとなった。

 「スーパーセンタートライアル福岡空港店」では、駐車場に長い間放置された原付バイクや数十台におよぶ自転車が有価物として目を引いた。

 実は、自転車や原付バイクの回収は簡単ではない。明らかに放置されているということがわかっても、勝手に処分することができないからだ。自転車を例にすると、まずは警察に連絡、照会して、盗難や犯罪に関係していないことを確認する必要があり、その後、「◎日までに撤去されない場合は処分する」旨の警告文を貼り付けて周知を図ったうえで、ようやく処分することができる。店舗側にとっては迷惑なだけでなく、手間がかかるうえ、適切な手続きが必要なのだ。

 回収当日、改装作業の真っ最中だった「トライアル須恵店」の場合は、店内設備入れ替えに伴う什器が回収物として多く出た。トライアルは什器備品を集中管理する「什器センター」を持っており基本はそこにまとめられるのだが、他店でリユースできない古い什器の場合は、都度車両をチャーターするコストも高いため、これまでは産業廃棄物としてお金を払って処分していた。有価物のロットがまとまれば車両チャーター費用を相殺することも可能なため、コスト面でも環境面でもメリットは大きい。

 旧ダイエーグルメシティ店舗として長い歴史を持つ「マックスバリュ雑餉隈店」では、過去の遺物とでもいうべきおびただしい数の古い什器や備品、機材が回収された。2階の売場の一部を囲った廃材置き場は古い備品や鉄くずなどでパンパンになっていたが、回収後はきれいに整頓されたスペースへと生まれ変わった。

高額なゴミ処理コストを激減、
今後の課題はオペレーション、さらなる展望も

ゴミの山となった鉄くずは適切に分別することで有価物としてお金に変わる

 トライアルグループの総務、経理業務などを一手に担うトライアル・シェアードサービスのファシリティサポートグループ 岩見和幸グループリーダーは「自転車や鉄くずなどはこれまでお金を払って処分していたが、有価物として買い取っていただくという選択肢があることを知り、コスト面で大きなメリットがあることがわかった。ゴミも減り、バックルームを効果的に使える」と語る一方で、「店舗の作業負担を最小にするために、効率的に運営できる仕組みを整えていきたい」と今後の課題を口にした。

 西鉄ストア総務人事部総務課の堤香織課長も「これまでは産業廃棄物としての処分が、有価になるものもあるという認識がなかった。今回の回収は環境面でもコスト面でもメリットがあるためとても有意義な取り組みだ。当社は佐賀県にも店舗があるため、佐賀ルートも構築できるのであればぜひ取り組みたい」と語る。

 イオン九州ではすでに有価物回収を始めてはいたものの、一部にすぎず、金属などの多くは「混合廃棄物」として産廃処理をしていたという。

 「今後、よりいっそうサステナブルな取り組みがもとめられるなか、分別が課題となる。店舗側に負担がかからないオペレーションの構築に取り組みたい。たとえば、改装時は多くの廃材が出るが、什器などを解体時に分別しておけば、回収時に大きな労力を費やさずスムーズに進められるので、知見を集めながら効果的な手法を探していきたい」とイオン九州総務部の松本勇紀氏は展望を語る。

 ただ、今後有価物回収を全社ベースで取り組むために何よりも大事なことは、「社内に賛同者を増やすことだ」と九州総務連合会のメンバーは口を揃える。

 「『分別している暇なんてない』などと言われないように、社内の賛同者を集めるとともに、『店の経費が浮き、その分修理や新しい備品の購入に充てられる』といった店側が協力するメリットも伝え、この取り組みを定着させたい」(トライアルカンパニー防犯DX推進部部長の荒木翼氏)

 今回は有価物回収だったが、総務部門が「共創」できることは多岐にわたりそうだ。

 「環境の取り組みの中で、店舗での資源回収など企業の枠を超え取り組むことで、お客さまの満足度向上により、集客効果につながれば」と先述の西鉄ストア堤氏はアイディアを口にする。

 総務連合会でトライアル側の代表を務める荒木氏は「定期的に話し合うことで、各社の悩みも共通の課題もわかってきた。自社の強みを他社に提供する一方、自社が知らなかったことを他社から学べる点はとても大きい。今回のコスト削減や環境の取り組みという重要課題にも直結する。ぜひ、多くの企業に参加していただきたい」と語った。

 

 なお、今回の有価物回収実績は40カーゴ分で計3260㎏。チャーター代、回収代などを除いて5店舗が得た金額は総額で約1万6000円。5店舗それぞれで回収をしていたら32万円かかっていたので、都合33万6000円のコストメリットとなった。走行距離も個別に回収車を走らせていたら186km掛かっていたところ、わずか63㎞に短縮された。

 コスト面でも環境面でも、メリットがはっきりと見えた今回の取り組み。今後、九州総務連合会では今回の知見をもとに分別のルールを整備し分別も完了、今上期中に有価物に限らず、産業廃棄物の四半期ごとの定期便回収を本格稼働させていく考えだ。