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スーパー経営ノウハウを台湾、ベトナムで活用! 住友商事、拡大する海外リテール戦略の全貌

総合商社の流通事業の中で住友商事に特徴的なことといえば、国内で食品スーパーのサミット(東京都)やドラッグストアのトモズ(東京都)の経営にかかわってきたことだ。加えて、国内小売事業で培った知見やノウハウを生かし、台湾、ベトナムと海外でも食品小売事業の展開に乗り出している。どのように市場を攻略するのか。

住友商事は2018年から台湾企業の三商家購股份有限公司に出資している。写真は三商家購股份有限公司が展開する「シンプルマート」

店舗数台湾第2位の食品小売チェーンに出資

 住友商事は2018年、台湾において、三商投資控股股份有限公司の子会社であり、グロサリーストア「シンプルマート」を展開する三商家購股份有限公司に20%強を出資した。

 シンプルマートの店舗数は台湾2位の800店舗超。主に台湾北部で展開しており、誰もがよく知る小売ブランドだ。店舗はコンビニエンスストアと同規模の30坪で、住宅密集地や市場付近などに多い。

 歴史的に伝統市場が根強い台湾で、シンプルマートは加工食品や飲料などを中心に品揃えを拡大し、半径約250mの小商圏に居住する生活社に支持されて発展してきた。現在は、飲料・加工食品・日用品といった生活必需品に加えて、品揃えは限定されているものの、青果や精肉など生鮮食品も扱う。現地では、いわゆる「グロサリーストア」として広く認知され、日常の内食需要に応えているという

 ちなみに、三商投控は、靴販売店や家具販売店、ファストフード店などの小売・サービス事業のほか、酒類・飲料の輸出入卸、メディア、IT、生命保険、製薬など多岐にわたる事業を展開し、2012年からは住友商事と組んで「トモズ」も共同で運営している。シンプルマート経営においては、三商投控のバックオフィス機能も活用している。

 台湾の人口は2400万人で、食品小売市場規模は3.7兆円。なかでも急成長しているのが食品スーパー業態で、2016年の市場規模は2011年と比べて1.5倍に拡大しているほどだ。

 シンプルマートもこれまで急成長を遂げてきたが、今後の成長余地については1200店舗程度が限界と見る。シンプルマートの成長が巡航速度に移り、顧客分析や販売手法のノウハウ提供という点で住友商事の役割は増しつつある。住友商事としては、注入可能なノウハウを用いて事業構造の変革による成長をサポートしつつ、台湾における店舗網、顧客データの活用などについても検討したい考えだ。

中間層の成長著しいベトナムでも事業を展開中

 一方、ベトナムにおいて、住友商事は不動産、金融、ゴルフ場、小売などの事業を手がける複合企業BRGグループと合弁で、フジマート・ベトナムリテールを2018年9月に設立し、食品スーパー「フジマート」の展開を開始した。

住友商事は2018年にベトナムのBRGグループと合弁会社フジマート・ベトナムリテールを設立、食品スーパー「フジマート」を展開している

 人口1億人に迫り、経済成長が続くベトナムでは中間層の成長が著しい。小売市場の成長が見込まれているものの、まだまだ個人経営の小規模店舗を中心とした伝統小売が多くを占める。ただ、ハノイ、ホーチミン、ダナンといった大都市圏ではSMやコンビニなど近代小売が拡大している。

 加えて、コロナ禍による営業規制もあり、消費者が伝統小売から食品スーパーにシフトしており、食品スーパーにとっては追い風が吹く。さらに、中間層の増大による生活水準の向上や食の安心・安全に対する意識の高まりから、近代小売が拡大していくと予測されている。

 フジマートは1号店をハノイ市内に出店後、複数店舗を出店して市場特性や事業性を見極めた結果、2022年3月、BRGグループとフジマートの本格展開に関する株主間契約を結んだ。今後は出店を加速させる方向で、2022年度以降、年間5~10店舗以上の新規出店を計画する。

 現状の展開地域はハノイだが、ホーチミンに進出するなどして、2028年までにベトナム全土で50店舗超の出店をめざすという。さらに、出店だけでなくM&A(合併・買収)も活用しながら店舗網を拡大する考えだ。

住友商事の食品スーパー経営ノウハウを提供

 フジマートは、住友商事の食品スーパー経営のノウハウをベースに現地の需要に合わせた商品構成や売場づくり、鮮度管理に取り組む。住友商事執行役員ライフスタイル事業本部長でサミット会長を兼務する竹野浩樹氏は、「日本水準の食の安心・安全を担保したうえで、現地消費者の生活の質を向上する品揃え、消費者目線の売場づくりに徹している。すでに店舗段階では黒字化しており、手応えを感じている」と話す。

住友商事執行役員ライフスタイル事業本部長の竹野浩樹氏

 たとえば、現地で一般的なメーカーへの棚貸しを減らして、顧客本位の買いやすい売場にするほか、メーカー販促ではなくフジマートが組み立てた販促を多く実施している。さらに、現地では珍しいスクラッチ方式のインストアベーカリーを導入するなどベトナム消費者にとって魅力ある提案も行っている。
 
 これら海外事業の経営幹部として派遣されているのは、住友商事からサミットなどの小売事業会社への出向経験がある人材だ。これまで投資先に出向者を継続的に派遣し、ハンズオンで経営や事業運営に関与してきた強みを生かす。

 住友商事の海外戦略は、国内小売事業で培ってきた商品政策、店舗運営、店舗レイアウト・デザインなどのノウハウを最大限生かすのが基本的な考え方だ。現在、さまざまな国から進出のオファーもあるが、まずはベトナムでの事業を軌道に乗せることを優先する。海外でのSM経営ノウハウも住友商事の新たな強みとなりそうだ。