1711年(正徳元年)創醸の大関は、「ワンカップ大関」をはじめとして、時代に合わせた革新的な商品開発とチャレンジ精神で戦後の日本酒業界をリードしてきた。時を経た令和時代の今、同社の長部訓子社長に日本酒業界を取り巻く環境と同社の成長戦略を聞いた。
コロナ禍で市場構成は激変 海外輸出は中国・米国が好調
──直近の日本酒業界を取り巻く環境をどのように分析していますか?
長部 2020年の新型コロナウイルス感染拡大の影響から、日本酒に限らず外食でのアルコール消費は非常に大きな打撃を受けています。家庭用の日本酒については外飲みからの移行による家飲み需要の拡大からパック酒が動いていますが、コロナ禍により節約志向に拍車がかかり、価格を重視する消費者の動向が見て取れます。
近年、国内の日本酒業界は若年層のアルコール離れに加えて、一部日本酒に対するネガティブで偏った情報が巷に流れていることや、コロナ禍の影響もあり、ダウントレンドに拍車がかかっているという印象です。一方、日本酒の海外輸出についてはワクチン接種が進んだことから回復傾向にあり、中国やアメリカを中心に伸長しています。
──価格志向のパック酒が動いているとのことですが、家飲み需要の拡大によって上質なものを手に取る動きも増えているのではないでしょうか?
長部 そうですね。当社は創醸310周年を機に最高品質の日本酒ブランドとして「創家大坂屋(おおざかや)」を立ち上げ、第一弾商品として兵庫県産山田錦を100%使用し蔵人が厳密な温度管理のもと手作業で仕込んだ逸品の純米大吟醸酒「創家大坂屋/純米大吟醸」を発売しました。手仕込みということで製造量も少ないですが、すでにたくさんのご注文をいただいております。
──販売チャネルによって日本酒の販売動向に変化はありますか?
長部 当社の基幹ブランドである「ワンカップ大関」はコンビニエンスストアのシェアが高い商品ですが、コロナ禍以降コンビニエンスストアからスーパーマーケット(SM)にお客さまが流れている影響を強く受けています。
SM業態の好調を受け、経済酒のパック酒は全体的に好調に推移していますが当社においては、近年数量を落としているカテゴリーのため、今秋、主力ブランドである「のものも」の大型リニューアルを行いました。味わいをさらにすっきり辛口に仕上げることでより食事に合わせやすくなり、パッケージも「国産米100%使用」や「大関」のロゴを大きく配置することで原材料への安心感やメーカーの安全安心を訴求するデザインに変更。あらためて手に取っていただきやすく、より飲み続けていただける商品に改良しました。
社長に就任し4年となりますが、各販売チャネルにおいて単に商品を置くだけでなく、流通の皆さまとともに、最終のお客さまに手に取っていただける売場づくりを行うことが重要だと、肌で感じているところです。
新たな魅力を発揮している「ワンカップ」
──2020年のマーケティングを振り返ってみていかがでしょうか。
長部 一昨年コロナ前からカレーや唐揚げ、チーズと手軽にマリアージュを楽しめる日本酒をコンセプトとした「食マッチ」シリーズの展開をしていましたが、20年はコロナ禍での巣ごもり消費に対する需要喚起ということで、炭酸で割るだけで居酒屋風のしぼりたて本格レモンサワーが簡単に楽しめる「わが家のレモンサワーの素」シリーズの拡充を行いました。
とくに「わが家のレモンサワーの素」は好調で引き合いも強く、糖類・プリン体・人工甘味料ゼロタイプやグレープフルーツや梅干しといったフレーバー展開、大容量タイプも投入しています。
──基幹ブランド「ワンカップ大関」ではさまざまなコラボレーションやにごり酒の展開で新しい客層を取り込んでいますね。
長部 ありがとうございます。人気アニメ「キングダム」や志村けんさんとのコラボレーションは、「ワンカップ大関」を幅広い年代のお客さまに手に取っていただくきっかけになりました。またラベルデザインにLGBTQのシンボルである6色レインボーをあしらった「ワンカップレインボー」は海外先行発売し、世界8ヵ国で好評をいただいており、日本国内でもダイバーシティ推進月間に合わせ数量限定で販売しました。
「純米にごり酒 夢見るひつじ」は若年層や女性をターゲットとしたにごり酒のシリーズですが、米の形を羊に見立てたイラストのラベルと上品でやさしい味わいが好評で、TwitterやInstagramといったSNSでも話題にしていただくことが増えました。
これまでのコミュニケーションはテレビCMがメーンでしたが、当社もコロナ禍を機にブランドの紹介動画を製作したり、SNSの公式アカウントを活用したキャンペーンを実施するなど、オンラインによる訴求にも力を入れるようになりました。
「楽しい暮らし」に役立つ、日本酒本来のおいしさを伝える
──21年のマーケティング戦略についてお聞かせください。
長部 基本的に前年までの施策を踏襲するかたちですが、「大関」という企業ブランディングにいっそう、注力したいと考えています。
緊急事態宣言は解除されましたが外食向け日本酒消費の市場回復にはもう少し時間がかかると予想されますし、元通りの形にはもどらないでしょう。21年は当社の創醸310周年の節目の年であり、外飲みでも家飲みでも「大関」のファンを増やす、そういった当たり前だが、地道な目線での活動をめざしたい。
自社の歴史観はというと、祖父である10代目長部文治郎、曾祖父である9代目長部文治郎の記憶を持つ私にとって310年の内、100年ほどは脳裏にあって身近なものです。酒蔵と家屋の敷地が隣り合わせだったため、職人と祖父たちのやり取りも幼少時に見聞きしていました。
今回立ち上げた「創家大坂屋」というブランド名の由来は、長部家の始祖である初代「大坂屋」という屋号からです。米や肥料を商う問屋だったところから酒造りの免許である「酒造株」を譲り受けて新事業を始めたわけですが、これは完全な先行投資であり、かなりリスクの高い事業だったと思います。
その後もカップ容器酒や箱詰め酒の発売、当社の発酵技術や酒かすなどを使用した化粧品の発売、研究所の設立や海外進出など、当社には業界の先陣を切って新しいことにチャレンジしていく精神が備わっています。「創家大坂屋」の名前でブランドを立ち上げたのも、創醸時から続くこの精神を受け継いでいきたいというメッセージを込めています。
──長い歴史を持つ大関ですが、今後、どんな成長戦略を描いていますか?
長部 当社は「ワンカップ大関」や箱詰め酒など時代に合わせた商品開発を強みとして歩んできましたが、その強みがコロナ禍をきっかけに一変しています。私は父より「成功は復讐するもの」と言われていますが、まさに今がその時ではないかと。
それまでの成功体験により緩みが出ていたともいえる状況であり、もう一度創醸時から続くチャレンジ精神を呼び起こし、「品質」と「量」の両方を担保しつつ、乗り越えていかなければなりません。
「ワンカップ大関」にしても発売から57年目を迎え、世代交代や市場開拓も必要です。いつでも開けたてでフレッシュな味わいを手軽に楽しめる機能的な日本酒のパイオニア商品として、次の世代にもつなげていきたいです。
──最後に、流通に向けてどんな施策を考えているかを教えてください。
長部 小売業の皆さまと協力し、食とのクロスMDやデジタルサイネージの活用など、売場と連動した販促を強化し、カテゴリー全体の活性化を実現しながら、「大関」の価値を高めていきたいですね。デジタル・トランスフォーメーション(DX)などの言葉がよく飛び交いますが商いの原理原則はシンプルなはず。「日本酒のおいしさを伝えたい」「お客さまに喜んでいただくモノづくり」という基本を大切に、90年後の創醸400年に向け、「楽しい暮らしの大関」を提案していきたいと考えています。
大関会社概要
創醸 | 1711年 |
資本金 | 1億円 |
代表者 | 長部訓子社長 |
事業内容 | 清酒などのアルコール飲料、食品類の製造販売、化成品開発販売 他 |