メニュー

“売らない店”b8ta 3号店・渋谷で水回り設備を整えた驚きの理由とは

米国・サンフランシスコ発で、Retail as a Service(サービスとしての小売:RaaS)モデルのパイオニアとも言われる「b8ta(ベータ)」。日本進出を果たしてから1年以上が経過した。新型コロナウイルス(コロナ)感染拡大で消費者の買物行動が大きく変化するなか、直近の利用動向と今後の成長戦略をベータ・ジャパン(東京都)CEOの北川卓司氏に聞いた。

「ECと比べても出品料は高くない」

──2020年8月、東京・有楽町と新宿に2店舗を同時に開業しました(以下、有楽町店、新宿店)。利用動向はいかがですか。

北川 卓司(きたがわ・たくじ)
2004年PR会社入社後、IRコンサルティング会社、スタートアップのCEOを経て、フランスのEMLYON経営大学院でMBAを取得。15年ダイソンにリテールマネージャーとして入社し、世界初の旗艦店を表参道にオープン。19年11月よりベータ・ジャパンのカントリーマネージャーに就任し、日本で初の2店舗同時立ち上げに従事。21年1月1日より現職

北川 コロナ禍での日本進出となりましたが、売場を区画で分け、定額で商品展示できるスペースと、製品を売り込むのではなく詳しく説明する接客、来店者の店内行動データや商品へのフィードバックを提供する当社の事業モデルは「新しい小売のかたち」として注目され、全体的に業績は順調に推移しています。

 もちろん、商業施設「新宿マルイ本館」内に入る新宿店が、施設自体が一時休業になるなどの逆風もありましたが、単独で出店するよりも少ない投資で、またコロナ禍でも比較的、人の往来がある好立地で消費者との接点が持てる場として、多くの企業に出品していただくことができました。

 21年8月時点で、2店舗の累計来場者数は45万人、当社で「インプレッション」と呼ぶ消費者と商品との“出会い”を創出した数は1150万回を突破しています。外出自粛生活の影響でやはり客数は伸び悩みましたが、インプレッション数や来店者に商品を体験してもらった数は開業当初の目標を達成しています。

──出品企業の反応はいかがですか。

北川 当社はミッションに「リテールを通じて人々に“新たな発見”をもたらす」を掲げ、売上ではなく消費者と商品との“出会い”の創出を追求しています。日本ではいまだなじみの薄いモデルですが、出品企業の皆さまには価値を理解していただけていると感じています。

 とくに好評を得ているのは、店内に設置したAIカメラと、トレーニングを積んだ質の高い店舗スタッフ「b8taテスター」が行う接客やアンケートによって、出品商品についての定量・定性の行動データを提供できる点です。実店舗を出店する前の実験や、東京へ進出する際のテストマーケティングのプラットフォームとしてb8taを活用される企業も増えています。

──コロナ禍でb8taを取り巻く環境に変化はありますか。

北川 EC化が進行したことで、出品企業にとってb8taを利用する価値がより高まっていると感じています。理由は、多くの企業がオンラインモールに出品・出店するようになったことで、消費者に自社の商品を見つけてもらい、また競合商品と差別化を図ることが難しくなっているためです。またECは多くのインプレッションを得ることができますが、より興味を促し、購入してもらう、あるいは取り扱いのある店舗にまで誘導するとなると1人当たりのコストは高くなります。

 それに対してb8taは「1日当たり約1万円」とリーズナブルな価格で、消費者にダイレクトに商品を訴求できるリアル店舗に出品できる点を強みとしています。インプレッション数はECより少なくとも、一人ひとりに深いアプローチが可能です。こうした投資対効果から、「ECと比べても出品料は決して高くない」と評価をしていただくことが増えています。

渋谷に3号店をオープン、試飲・試食の場を提供

──11月15日には東京都渋谷区に国内3店「b8ta Tokyo - Shibuya」(以下、渋谷店)をオープンします。既存の2店舗と異なり、試飲・試食の機会も提供しています。

北川 渋谷店は、宮益坂と明治通りの交差点沿いという絶好の立地での開業ということもあり、多くの企業から出品の引き合いをいただいています。

 試飲・試食の提供については、以前から出品企業より希望する声が多数あがっていたのですが、既存の2店舗には水回りの設備がなく対応できていませんでした。そこで3号店は試飲・試食を含めて五感に訴える体験ストアを志向しました。これは本国・米国のb8taにはない独自の取り組みです。

 コロナ禍では身近な「食」にお金を使う人が増え、代替肉のように新しいカテゴリーの商品が広がっています。3号店ではすでに出品予定の37ブランドが決定し、うち約3分の1が食品カテゴリーとなっています。

──渋谷店は、若い世代との接点を提供できる店とも言えそうです。

北川 そうですね。20代前半から30代後半の「ミレニアル世代」の獲得に頭を悩ませている企業は多く、渋谷店はこの世代へアプローチができる店としても期待されています。

 現在は情報過多の時代で、消費者からの認知を得る入口は1つではなく点在しており、購買に至るプロセスをすべて可視化・分析し、効果的に訴求するのが難しくなっています。

 そうしたなかb8taへの出品を1つの起点としてもらえれば、店頭での接点からb8taテスターによる商品説明、そして購入までの行動をデータで提供し、その後の販促に活かしていただけます。何より実際に消費者に商品を体験してもらうことは、ミレニアル世代だけでなく、すべての世代に購入を促せるインパクトがあると考えています。

──21年4月には福岡市内の3拠点でポップアップストアを開店しました。

北川 初の試みでしたが、出品企業からは好評でした。とくに福岡から離れた場所に本社のある企業にとって、イベント出店は負担が大きく、当社のようなプラットフォームを活用する利点を感じていただけたようです。

 b8taの興味深い利用傾向もわかりました。今回のポップアップストアは実験的に、百貨店「博多阪急」、商業施設「MARKIS 福岡ももち」、「イムズ」(※21年8月閉館)と、客層が異なる3つの施設にオープンしました。とくに百貨店は婦人服フロアに開設したこともあり、来店者は女性比率が高くなると想定していたのですが、結果は年代こそ異なったもの、男女比率は約55%:45%と3拠点とも大きく変わりませんでした。

21年4月には福岡市内の3拠点でポップアップストアをオープンした。写真は博多阪急内での出店時の様子

──本国・米国では利用者は男性の比率が高いイメージです。こうした利用者の違いの背景で、日本ではb8taの店づくりをローカライズしています。

北川 おっしゃるとおり、米国では男性客が中心です。そうしたなか日本では幅広い層に来店いただけるように、日本流の店づくりを取り入れました。米国ではガジェット商品が中心ですが、日本では全体の3割ほどに抑えて、そのぶんコスメや生活必需品、家電などを充実させました。そして渋谷店からは食品の販売にも注力していきます。

 また店舗スタッフも米国では1店当たり2~3人ですが、その倍以上の人員を配置し、コミュニケーションを通じてより深く商品の魅力を体感してもらえるようにしています。

接客レベルの高い「b8taテスター」が強み

──ここ最近、大手百貨店でも“売らない店”を進める動きがみられます。この傾向をいかに捉えていますか。

北川 日本でも“売らない店”の認知が進んできたということであり、マーケット全体が広がり、b8taにとって好機だととらえています。

 今後、日本の主要都市の再開発とともに商業施設が増えていくなか、販売だけを目的とするテナントだけでは差別化は図れなくなり、“売らない店”の存在価値はさらに高まっていくとみています。

──今後の出店方針を教えてください。

北川 これはコロナ前からの方針なのですが、国内にいたずらに店数を増やしていこうとは考えていません。ポップアップストアの出店は適時あるでしょうが、常設店は企業名の数字にあるように8店くらいではと考えています。時期を見て、主要都市の通行量の多い立地に出店を進める計画です。

──丸井グループや三菱地所(東京都)、カインズ(埼玉県)など出資企業との連携は進んでいますか。

北川 カインズさんには店舗へ出品していただき、丸井グループさんからは3人の出向者を受け入れ、店舗の運営ノウハウを共有しています。

 将来的には、店舗のソフトウエア開発・提供でも出資企業と連携を図っていきたいと考えています。現在b8taでは店舗の購買動向の定量・定性データを、ダッシュボード上で一元管理できる仕組みを構築しています。これを活用すれば、今まで難しいとされてきた店内の顧客動向を可視化し、小売店の売上促進のサポートができると考えています。

 すでに本国・米国では先行して進めているのですが、あくまで店舗事業を核としながらもRaaSのみならずSaaS(サービスとしてのソフトウエア)にも事業領域を広げていきたいと考えています。

会社概要

本部所在地

東京都千代田区大手町1-9-2

大手町フィナンシャルシティグランキューブ3階

資本金 1円
設立 9月20日
売上高 非公開