ファミリーマート(東京都)は、無人決済店舗の開発を進めるTOUCH TO GO(東京都:以下、TTG)と2月に資本業務提携を締結し、2024年度末までに1000体制を目標に無人決済店舗の出店を加速させている。いかにこのスピード出店を実現し、新たな店舗モデルとして確立させようとしているのか。同社の成長戦略をセブン-イレブン・ジャパン(東京都:以下、セブン–イレブン)、ローソン(東京都)と比較しながらコロナ禍を経てコンビニが向かう先を解説したい。
ファミリーマートの無人決済店舗1号店「ファミマ!!サピアタワー/S(サテライト)店)」
親和性の高い
駅ナカ・駅チカに出店
ファミリーマートの無人決済店舗1号店は21年3月31日、東京メトロ各線「大手町」駅直結の「サピアタワー」1階にオープンした。
TTGの無人決済システムを導入した店舗では、短時間で買物を済ませられる利便性の提供と、省人化による店舗オペレーションコストの低減が可能になる。
簡単に仕組みを説明すると、店内に設置されたカメラが、入店客が手に取った商品をリアルタイムで認識。これにより、出口付近のレジ前に立つと、専用タッチパネルに商品と金額が表示され、あとは来店客が支払いをするだけで買物ができる。支払いは現金払いのほか、クレジットカードもしくは交通系ICカードによるキャッシュレス決済にも対応している。
平均日販は半分も
複数店経営で
オーナーの収入増へ
10月12日には、東武鉄道野田線「岩槻」駅内の「ファミリーマート岩槻駅店」に、TTGの無人決済システムを導入した。
同店ではTTG搭載店舗で初めて、たばこも販売しているのが特徴だ。酒やたばこといった年齢確認が必要な商品については対面販売が原則で、バックヤードにいる店員がレジに設置したカメラで来店客を遠隔で確認し、状況に応じて身分証の提示を求める。
営業時間は6時~22時まで。売場面積は非公開だが非常に小型で、同時に入店できる人数は10人程度だ。駅前立地の店舗は平均客単価が低いので400円前後と想定すると、平均日販は25万円程度だろう。
既存のファミリーマート平均日販の半分以下だが、既存のオーナーが母店の近くで2号店として営業する「サテライト店舗」と考えると、経営・マネメント力に長けたオーナーであれば運営でき、人件費が抑えられることからオーナーの収入アップにもつながるのではないだろうか。人口減や人手不足で新規オーナーが増えにくい今後の社会構造では、このような柔軟な出店戦略も必要になってくる。
TTGの無人決済システムは、スピーディに買物を済ませられることから、忙しい移動中に人が集まる「駅」との相性が非常によい。コンビニにとっては、累計発行数2億枚と言われる交通系電子マネーのバイイング・パワーを取り込める可能性もある。今後もファミリーマートは駅ナカ・駅チカの立地で店舗網を拡大していくことが予想される。
全国2万超の店舗を持つ
郵便局とも連携開始
さらにファミリーマートは10月29日、日本郵便(東京都)と、郵便局内に無人決済店舗を出店するなどの新たな取り組みで連携を開始すると発表。同日、埼玉県川越市の郵便局内に1号店をオープンした。来店客向けロビーの約15㎡という極小スペースでおにぎり、パン、菓子、雑貨など約350SKUを販売する。
現在、日本国内の直営の郵便局数は2万3794店(21年9月:簡易郵便局3725店を含む)。うち日本郵便は20年7月から全国約8500の郵便局にキャッシュレス決済の導入を順次進めている。郵便局のキャッシュレス決済化の推進は、無人決済店舗との親和性を高め、無人決済店舗の導入を後押ししていきそうだ。
また、郵便局はもともとコンビニと異なる立地で出店していることが多く、ファミリーマートにとっては新たな客層を獲得できるメリットもある。
これまでコンビニは大量出店により成長を遂げてきたが、人口減や店舗間競争、さらには新型コロナウイルス(コロナ)感染拡大下でのリモートワークや外出自粛生活の広がりにより、これまでのような新規出店が難しくなっている。こうしたなか、小商圏でも収益化できる新たな店舗モデルを構築し、マイクロマーケットを掴むことは、成長のための次の一手になるだろう。
マイクロマーケットの開拓は、コンビニ業界でもかつてより指摘されていながら、なかなか新しいモデルの確立、水平展開が進んでこなかった。しかしここにきてファミリーマートが、TTGと提携することで業界を一歩リードする動きを見せている。
TTGはJR東日本グループのオープンイノベーション拠点であるJR東日本スタートアップ(東京都)と、AIを活用したイノベーション事業を展開するIT企業のサインポスト(東京都)の2社が設立した合弁企業だ。同社が持つ駅ナカ・駅チカ物件のネットワークやIT技術を生かすことで、スピーディかつ柔軟な出店、店舗モデルの構築を進めている。
配送サービスで
商圏ニーズを深堀りする
セブン、ローソン
このファミリーマートの動きに対して競合のセブン–イレブンとローソンは、従来の店舗オペレーションをベースとした「セルフレジ」の強化を優先してきた印象を筆者は受けてきた。
そして、ここにきて業界の王者のセブン–イレブンが次なる成長の柱として注力しているのが、スマホで受注した商品を近隣の店舗から配送するサービス「ネットコンビニ」だ。現在はテスト導入段階だが、来年春から本格稼働し、22年度には3000店体制、25年度には全国展開を掲げている。
ローソンについても、「Uber Eats」「foodpanda」など計5社のデリバリープラットフォームと提携し、店舗からの商品配送サービスを一気に広げており、9月末現在でサービス導入店舗数は33都道府県の2204店となった。
利便性・省力化を追求した新たなモデル店舗の出店に力を注ぐファミリーマートと、既存の店舗から商品を自宅まで届けるサービスを強化するセブン–イレブンとローソン。このように次なるコンビニの成長戦略の動きは大きく2極化しつつあり、今後さらなる大きな潮流となるだろう。
【執筆者】
田矢信二(たや・しんじ)
近畿大学商経学部卒業。幼少期は実家の小さなおもちゃ屋で商売を学ぶ。その後、セブン–イレブン、ローソンを経て、コンサルタント会社でも勤務。コンビニの商品や売場全般に詳しく、お店に訪れ消費者目線で買い物して試食する毎日。本部社員として働いた現場経験を活かし、コンビニに関する講演・セミナーからテレビ・ラジオ番組などにも出演。コンビニをテーマにした記事への取材なども。アジア企業へのコンビニをテーマにした企業講演の依頼も多い。主な著書に『セブン–イレブンで働くとどうして「売れる人」になれるんですか? 』、『ローソン流アルバイトが「商売人」に育つ勉強会』(以上、トランスワールドジャパン)がある