平和堂(滋賀県/平松正嗣社長)は全156店舗のうち85店舗が滋賀県内にあるという地域に根差した総合スーパー企業だ。徹底したドミナント戦略で地域に密着し、地域のニーズを最大限にくみ取りながらサービスを磨き上げ、環境変化に翻弄されることなく、成長を続けている。本稿では同社の“真の顧客視点”について考えたい。
コロナ禍の決算は過去最高レベル
コロナ禍では、外出自粛が大きなマイナス要素となる一方、巣ごもり需要によるデリバリーやローカル店舗の利用増という潮流の変化が起こった。全国展開するチェーンはそうした流れに合わせ、宅配体制を強化したり、出店計画を都心部から地域重視へ見直したりする動きもみられた。
平和堂が先ごろ発表した2022年2月期第2四半期連結決算は、営業収益が対前年同期比1.7%増の2159億6100万円、営業利益が同21.4%増の70億5400万円、経常利益が同19.2%増の76億5900万円、親会社株主に帰属する当期純利益が同33.8%増の51億4900万円だった。
国内食品小売事業は前年反動があったものの引き続き堅調で、前期苦戦した中国百貨店事業、国内外食事業・国内衣料小売事業の回復により増収、営業利益面でも国内子会社の売上回復と経費見直しで大きく増益を果たした。コロナ禍でも大崩れすることなく、いまだ先行き不透明な中で安定した数字を弾き出した格好だ。
また投資面でも期中のフレンドマート草津大路店の出店に加え、CoCoRoPlusの自社SC外出店3店舗目となるイオンタウン千種店をオープンしたほか、フランチャイジーとしてエニタイムフィットネスを2店舗出店するなど、堅実かつ自社のビジネスのすそ野を広げる展開で成果を上げた。
いわゆる「地元志向」が強まるなか、以前から地域に根差した事業展開を徹底する同社が、コロナ禍でも落ち込むことなく、むしろ過去最大レベルの売上を達成したのは必然の結果といえる。
「消費者になくてはならない店になる」
過剰気味な店舗数に加え、人口減少で厳しい環境にあるスーパー業界で、平和堂の立ち位置は明確だ。その肝は社是の「商業を通じて豊かな暮らしと文化生活の向上に貢献し、より多くの消費者になくてはならない店になる」と、同社がめざす「100年企業」に集約されているといってよいだろう。
「消費者になくてはならない店になる」。この実現には、ニーズを徹底して掘り下げ、消費者ファーストであることが大前提だ。これが実現できていれば、企業は自ずと70年、80年、そして100年でも存続し続けるだろう。
独自ブランド拡大で安心を担保
消費者にとって、食品や日用品ではなによりも「安心感」、そして「値ごろ感」が不可欠である。つまり、そうした商品が「いつも」「しっかり」とラインアップされてる店舗であれば消費者に安心して通ってもらえるのだ。
平和堂は創業以来、品揃えにこだわり続け、14年からはこの「安心感」を独自のプライベートブランド「E-WA!」として可視化。同社お墨付き商品の証として、このブランドロゴをつけた加工食品や日配品を展開している。
先ごろ発表した中長期計画では、この独自ブランドをさらに強化すべく、生鮮食品、衣料品、住居関連品全体にまで拡大することを明らかにしている。これはまさに、平和堂が責任をもって高品質な商品を消費者に提供することを約束するという明確な意思表示にほかならない。
「E-WA!」について「地域の皆さまに日々の生活の中でモノ、サービス、人、店、地域貢献等、さまざまな切り口で価値を感じていただき信頼をしていただけることの総和である」と同社は表現している。単なる商品づくりの域を超え、「消費者になくてはならない店になる」ことに真摯に向き合う姿勢が表れているといえよう。
アナログな買い物代行サービスが重要な理由
もっとも、すぐれた商品を提供するだけで100年続くほど小売業は甘くない。店舗の接客が不十分では、せっかくのこだわり商品も台無しになる。品質の高い接客を実現すべく、DXを活用して、店舗作業の30%削減を継続的に促進、それによって接客にあてる時間を増やしている。
ネットスーパーに参入する企業が一般的となるなか、同社はネットスーパー参入を検討しつつも、まずは会員制の買い物代行サービス「ホーム・サポートサービス」に力を入れている。利用者の多くが高齢者と想定されることを踏まえ、電話とFAXでの受け付けが基本だ。ネットだけに割り切らないスタンスを貫き、店舗の存在意義を常に意識している。
同時に、独自の電子マネー「HOPマネー」は16年に導入、さらに年明け1月にはHOPウォレットを導入予定、決済機能も持たせ、さらに利便性を高めたい考えだ。
「三方よし」の精神
過剰にならず、それでいてきめが細かい――。こうした調和のとれた施策を打ち続けられるのは、安さや品揃えといった基本を踏まえつつも、お客目線、現場視点でサービスを考案するからにほかならないだろう。
首都圏偏重、大型店舗優勢の潮目が新型コロナウイルス感染症の拡大により変質し、あらゆる側面できめの細かさやバランスの重要性が見直されるようになった。そうしたなか、創業当初から地域密着と消費者ファーストを徹底している平和堂。その姿勢は小売というよりも「商い」という方がしっくりくるのかもしれない。
同社が中長期ビジョンに掲げた3つのテーマは、「健康」「子育て」「高齢者」。まずは消費者の幸福が最優先といえる内容であり、収益は二の次というスタンスも地域で信頼される大きな要因だ。
その一環で、10月21日からはSIRU+(シルタス)と連携して、健康寿命の延伸を目的とした実証実験を滋賀県内の平和堂全 77 店舗で開始。「HOPカード」の購買データを連携し、食品の買い物傾向から分析した栄養バランスをもとにお客に食材やレシピを提案、バランスのとれた食生活を提案する取り組みだ。また、平和堂守山店と アル・プラザ守山では野菜摂取の充実度を表示できる機器「ベジチェック®」による野菜摂取量無料測定会を10月以降年内いっぱい定期的に開催するなどの取り組みも進めている。
「売り手よし」「買い手よし」「世間よし」。コロナ禍で近江商人のビジネス志向が再脚光を浴びた。滋賀県を拠点に成長を続ける平和堂が、環境に左右されることなく、成長曲線をキープし続けている背景に、「三方よし」の精神が色濃くにじむのは気のせいではないだろう。