メニュー

オートミールで市場拡大に挑戦独創性の高い商品でシェア獲得をめざす=日清シスコ・浅井社長インタビュー

2021年4月、日清シスコ(東京都)の新社長に就任した浅井雅司氏。日清食品で培った営業力を強みに、早くもスピード感あふれる経営手腕を発揮している。総合シリアルメーカーとして今後の成長戦略をどう描いているのか。先頃発売したオートミールの新商品を中心に、シリアル市場へのチャレンジについて聞いた。

コロナ禍でシリアルが好調、売上・利益ともに過去最高を達成

──コロナ禍ではシリアル市場が好調のようですが、まずは直近の業績について聞かせてください。

浅井雅司(あさい・まさし)●1965年生まれ。兵庫県出身。近畿大学卒業後、91年4月に日清食品(現・日清食品ホールディングス)入社。2016年日清食品中国支店長、19年に日清食品大阪営業部長などを経て、20年3月より日清食品営業副本部長西日本統括。21 年4 月、日清シスコ代表取締役社長(現任)。

浅井 2020年3月に全国一斉臨時休校が実施されたのを機に、まず子供を中心に喫食されている「シスコーン」が動きました。巣ごもり生活で内食機会が増えたことで、栄養バランスや簡便性、保存性などに優れたシリアルの価値が再認識されたのです。その後、4月に最初の緊急事態宣言が発出されると、今度は大人を中心に喫食されている「ごろっとグラノーラ」が動きました。そこで、前任の豊留(昭浩氏、現在は明星食品代表取締役社長)は「ごろっとグラノーラ」の増産を実施。こうした取り組みの結果、年間では売上、利益ともに過去最高の実績を収めることができました。

──コロナ禍を追い風に、市場の動向にいち早く対応したことが業績好調につながったのですね。

浅井 ええ。今年はそうした好調の裏返しの年なので、厳しくなることは覚悟していたのですが、営業が頑張ってくれたこともあり、第1四半期を終えた時点では前年を上回って推移しています。今後もこの調子で継続できるように、販売構成を工夫したり、新商品を投入したりするなどして、対応していく考えです。

 菓子カテゴリーは、当社に限らずどこの菓子メーカーも厳しいですね。リモートワークが進んだことで、オフィス需要の高かったチョコレートやガムが振るわず、“コロナ太り”の影響もあります。

 幸い、当社は菓子メーカーでありますが、現在はシリアルの販売規模のほうが大きい「総合シリアルメーカー」でもあります。販売好調な「ごろっとグラノーラ」が、とくに業績を強く支えてくれています。

 とはいえ、シリアルは嗜好性の強い食品なので、コロナが収束して外食が復活すれば、一転して厳しい状況になりかねません。そのためにもスピード感をもっていろいろなアイデアをどんどん出していかなければならないと、常に危機感を持っています。

若い世代を理解し、横で連携し合う組織へ

──今年4月に新社長に就任しましたが、この半年を振り返っていかがでしょうか。

浅井 社長に就任して見えてきたのは、日清シスコという会社はトップダウン型の縦割り組織の傾向が強い、ということでした。もちろん、それにはいい面もあります。たとえば、先述のコロナ禍での迅速な経営判断とその実現は、トップダウン型だからこそスムーズに対応できたといえるでしょう。

 しかしながら、これからの時代はそれでは難しい面もあると考えています。たとえば、営業、生産、マーケティング、開発の4部門がそれぞれ別々に動いていては、どんなによいものをつくろうという思いがあっても、うまくいかないでしょう。4部門が連携し合うことで、いろいろなアイデアが生まれ、お客さまに満足していただける、本当によい商品が生まれるのではないでしょうか。

 そこで縦割りの組織を変えようと、まさに一歩を踏み出したところです。その1つが部門横断型のプロジェクトチームの立ち上げです。公募制にしたのですが、その1つに、「物流から商品を考える」という異色のチームも出てきて今後が楽しみです。理想は、主体性のあるチームがいくつも動いているという活気ある組織。そうなれば、菓子カテゴリーにおいても突破口が見えてくるのではないかと思っています。

──トップダウン型からボトムアップ型組織への移行ですね。

浅井 そうですね。当社は社員の平均年齢が比較的若く、若い人材をいかに引き上げるかが課題です。管理職のコーチング能力にかかっているといっても過言ではありません。若い世代と管理職では価値観がまったく違うだけに、彼らをどう理解していくかを常に考えています。私自身56歳で、以前はSNSに対して抵抗がありましたが、若い世代を理解するためにTwitterもInstagramもすべて入れました(笑)。

 さらに、企業向けSNSのMicrosoft Yammerを社内に導入しました。社員一人ひとりの発信を社長である私がダイレクトに知ることができるうえ、「いいね」をすることができます。承認欲求が満たされれば、やる気も出るでしょう。また、ここに各部署がいろいろな情報をのせることで、部門の枠を超えてつながり合うことが可能になります。

 導入当初、社員は遠慮がちでしたが、最近はずいぶん盛り上がってきました。先日も30代の社員から「私たちの言語を導入してくださってありがとうございます」というメッセージをもらいました。若い世代は直接のコミュニケーションよりもSNSで会話をするのが得意であり、意思を表明しやすい。そこはきちんと理解しなければならないと考えています。

これまでにない“味付き”オートミールの新商品を発売

──今期(22年3月期)のマーケティング戦略についてお聞かせください。

浅井 外せないキーワードは、商品を通じて、お客さまに健康になってもらいたいという思いを込めた「Well-being(ウェルビーイング)」という言葉です。Well-beingというのは、体だけでなく心の健やかさも含まれます。心も体も満たされる商品という点でもシリアルは注目度が高く、今後も注力していきたいと考えています。

 なかでも今期はオートミールですね。最近、有名人やランナー、ヨガを行っている人たちがSNSで取り上げたことで話題になっています。若い女性からはダイエットに適した食材として認知され、火が付きました。当社調べによると、市場は現在約45億円でまだその規模は小さいのですが、伸び率がすごい。そんな期待感のある市場に当社もついに参入しました。

──この9月にオートミールの新商品を発売しました。

浅井 はい。オートミールは流行っているけども、まだ大多数の人が試したことがなく、「どうやって食べるの? 」「おいしいの? 」「続けられるのか?」などという疑問を抱えている状態です。そこで今回新発売したのが、“味付き”のオートミールとなる「おいしいオートミール トマトクリームリゾット風」と「おいしいオートミール チーズクリームリゾット風」の2品です。味のイメージができるなら、初めての人もトライアルしやすいはず。まさに間口を広げるためのオートミール入門商品です。

 このほか、シリアルの製造技術を生かしたフレーク状のオートミールとして「おいしいオートミール オートミールフレーク」や、プレーンタイプのオートミールで栄養を強化した「おいしいオートミール」も同時発売しました。これらを「日清シスコのホットシリアル」シリーズとして展開していく考えです。そのためのプロモーションも用意しており、消費者の認知・共感・体験を後押ししていきます。「木を育てるというより森を育てる」というようなイメージでオートミールをじっくりと育成し、最終的には現在約45億円の市場を100億円まで拡大していきたいですね。

──最後に、トップとしてのミッションをお聞かせください。

浅井 「何事もスピード感を上げて取り組んでいくこと」です。私自身が営業出身ということもあり、とくに当社の営業部門を変えていきたいと考えています。それには今以上に自らが主体的に提案をしていくことが大事。よく言っているのが「カテゴリーから飛び出せ」ということです。シリアルの売場はたいてい3尺棚2本で、この中で棚を取っていくのはなかなか難しいものです。だからこそ、他のカテゴリーとコラボをしていろいろな売場へ飛びだそうと発破を掛けています。その点、オートミールはかなりの種類の食材と関連販売ができるので、今後の可能性が広がります。

 こんなふうにいつも何か「ごちゃごちゃ」考えている社長でありたいですね(笑)。そのほうがきっと社員も楽しく仕事に取り組めるのではないでしょうか。