客数が対前期比2.1%増!ヤオコーを凌ぐ支持率
新型コロナウイルス(コロナ)感染拡大による“特需”で食品スーパー(SM)各社が好業績に沸くなか、ひときわ光る快進撃を見せ、業界の注目を集めているチェーンがある。埼玉県に本拠を置くベルク(原島一誠社長)だ。
同社は1959年、埼玉県秩父市で創業した。その後、埼玉県を中心に出店を重ねて、現在では関東1都6県に123店を展開。2021年2月期連結の営業収益は2844億円(対前期比18.8%増)、営業利益は119億円(同14.0%増)の一大チェーンに拡大している。
SM業界のなかでも着実な成長性と、収益性の高さに定評があり、21年2月期までで30期連続の増収を達成。コロナ以前の20年2月期で見ても売上高営業利益率は4.4%と業界平均の2倍超となっている。
06年7月にはイオン(千葉県/吉田昭夫社長)と業務・資本提携契約を締結し、現在ではイオンがベルク株式の15%を持つ持分法適用関連会社となっているが、独自路線での経営を貫いている。
そうしたなかベルクの21年2月期の既存店客数は対前年同期比2.1%増で、前年実績を割った月は20年6月、21年2月の2カ月だけ。22年2月期第1四半期も同2.4%増と伸長し続けているのだ(図表)。
この要因をつかむべく本特集ではレシートデータによるベルクの利用動向調査を実施した。その結果、ベルクはコロナ禍で若年層とシニア層の双方の顧客を獲得し、さらに埼玉県においては、メーンのSMとして利用する人が、同じ埼玉県を地盤とし、全国的に知られる有力スーパーのヤオコー(川野澄人社長)よりも多いことがわかった。
つまりベルクは、コロナ禍によって大きく変化している消費ニーズをつかみ、「幅広い層の消費者が、日常的に利用したいと思うSM」の座を得ることに成功しているといえる。
「低価格」を実現する強固なビジネスモデル
なぜ、ベルクは今、消費者に支持されるのか。本特集ではそのベルクの強さの秘密を明らかにするべく、専門家や業界関係者の協力を得てさまざまな面から調査・分析を行った。
その結果のなかでも、とくに注目したいのが、前出のレシート調査で「ベルクをメーンのSMとして利用する理由」として消費者からあがった「安さ」と「ポイントやお得なサービス」という2つの要素である。まず「安さ」については、節約志向に対応するべく1円単位で熾烈な価格競争を戦っているのはその他SM企業も同様だ。そうしたなかベルクは、低価格を実現するための強固な仕組みを有している点に強さがある。
ベルクは経営方針に「生産性を追求したチェーンストア経営」を掲げ、生産性を高めるべくチェーンストア経営の大原則である「標準化」に徹底的に取り組んできた。
具体的には、本社主導による店舗運営、自社による物流センター・配送体制の構築、平均売場面積約600坪で、レイアウトから品揃え、売場づくり、設備・什器・備品まで統一化された店づくり、LSP(レイバー・スケジューリング・プログラム)の導入によるムダ・ムリ・ムラの削減など、その取り組みは本部から店舗、物流網まで全社にわたり、ベルクのビジネスモデルそのものになっている。これにより、ベルクの従業員1人当たり売上高は年間3614万円(21年2月期)と、同業他社より約1.4倍も高い生産性を実現。こうした販売生産性の高さが、高収益とさらなる低価格を実現可能にしており、この仕組みが低価格競争において優位性を発揮しているのだ。
ここでベルクが支持される理由として述べておきたいのが、高い生産性と同時に、顧客に「ふだん使いのSM」としての利便性の提供をめざしている点である。
ベルクの経営理念は「Better Life with Community(地域社会の人々により充実した生活を)」で、これは現在の企業名ベルク(Belc)の由来にもなっている。本特集で行った店舗調査では、明るく清潔感のある店内、買い回りしやすい売場配置、ふだんの食卓に即した品揃え、広い駐車場など、ベルクが地域の日常において便利で快適な店づくりを1店1店で実践している姿が浮き彫りになった。これらの要素はコロナ禍で消費者がSMに求めた安全・安心、ショートタイムショッピングのニーズに合致しているものである。
新社長のもと話題性ある販促企画を続々実施
実はここ最近、ベルクには客数の伸長以外にもう1つ業界の話題を集めていることがある。それは同社が始めたユニークな販促策だ。
その内容は、主に取引先メーカーと連携して行う懸賞企画で、たとえば今年7月に日清食品(東京都)と共同で実施した「ベルク上空に一斉飛来!『 UFO襲来セット』が当たるレシートキャンペーン」など、消費者の興味・関心を惹きつける内容の企画を続々と実施している。これらの販促策が前出の消費者調査において、ベルクが支持される理由に「ポイントやお得なサービス」が挙がる要因になっていると想定される。
ベルクがユニークな販促策を始めた背景にあるのが、20年5月に新社長に就任した創業家出身の原島一誠氏の存在だ。現在43歳とSM業界の社長のなかでも若い。だからこそ「従来のSM業界にはないことにも積極的に挑戦していきたい」と公言しており、ベルクに新しい風を吹き込んでいる。
「まるでベンチャー企業のような雰囲気がある──」
これは本特集内で取引先メーカーの担当者による座談会を実施した際にあがった、現在のベルクの組織風土を表す表現だ。若い世代も積極的にバイヤーなどの役職に起用され、新社長のもと、新しい販促策といった今までのSM業界では見られないような試みにも前向きに取り組んでいく勢いが今のベルクにはあるようだ。
これらを総合的にみると、これまでの高収益SMの強固なビジネスモデルをベースに、コロナ禍で日常のニーズに即した店を提供し、そこに新たに取り入れたお得感や話題性に訴える販促策が相乗効果となり、これが今ベルクが多くの顧客を呼び込むことにつながっていると考えられる。
安定成長の方針も新たな快進撃の予感
では今後、ベルクはどのような成長を遂げていくのか。
中長期的な目標では、同社は24年2月期までの中期経営計画において、最終年度に売上高で3101億円(対21年2月期比285億円増)、店舗数で149店(同26店増)の達成を掲げている。売上高・経常利益ともに成長率は年率2%前後の想定で、「無理な規模拡大はしない」と明言している。これは、「収益力の裏付けが競争力を後押しする」との考えのもと、規模拡大を優先するあまり、これまでに確立した高収益SMのモデルを崩さないためである。現在の絶好調の業績を受けても、堅実な経営方針を崩さないようだ。
しかし、長引くコロナ禍でベルクを取り巻く環境は大きく変化している。同社はこれまで、店舗数全体の6割超を埼玉県で展開してきた。しかし近年の出店状況を見ると、埼玉県の中でも東京都よりの南部や、千葉県への出店が目立ち、これまでと異なるエリアへ商勢圏を広げている。
一方で、すでにドミナントを構築している埼玉県のエリアでは店舗間競争が熾烈を極めている。とくに最大のライバルでもある「ヤオコー」がディスカウント型SMの新業態「フーコット」を埼玉県飯能市に出店するなど、チェーン間の競争にも地殻変動が起きている。こうしたなかベルクはどのような経営施策を講じるのか。原島社長による新体制のベルクの勢いを見ると、これまでのベルクとは異なる快進撃を見せてくれそうだ。
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次項からは、専門家や業界関係者らの協力により調査・分析したベルクの強さの秘訣を、財務指標や組織、店づくり、品揃え、商品、販促などのさまざまな面から具体的に解説している。
「激動のコロナ禍でいかなる手を打つべきか」。これは現在のSM各社共通の問いである。そうしたなかベルクはこの大転換期で最も消費者の心を掴み、実績を上げているSMの1社であり、同社の取り組みは各社にとって指針の1つとなるはずだ。
ベルク会社概要
本社所在地 | 埼玉県鶴ヶ島市脚折1646 |
代表者 | 代表取締役社長 原島一誠 |
資本金 | 39億1265万7000円 |
店舗数 | 123店(21年2月末) |
従業員 | 7792人(連結:うち正社員2206人) |
連結子会社 | ホームデリカ(総菜製造) ジョイテック(資材販売、清掃など) |
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