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カゴメ 代表取締役社長 寺田 直行
多様な選択肢を提供し、野菜不足をゼロにする!

健康志向の多様化を先取りした商品開発やトマトをはじめとする野菜に関する情報発信によって、主力の飲料事業が好調なカゴメ(愛知県)。「トマトの会社から、野菜の会社に。」というビジョンを掲げ事業領域を拡大するとともに、社会の変化を予測し、事業戦略に組み込むことで持続的な成長を図る考えだ。足元の動向と今後の成長戦略を寺田直行社長に聞いた。

健康志向の多様化を先取りし、野菜飲料の販売が好調

てらだ・なおゆき●1955年2月5日生まれ。島根県出身。早稲田大学商学部卒業。78年カゴメ入社後、営業、営業推進、食品・飲料マーケティング業務に従事。2004年営業推進部長。05年取締役執行役員。06年東京支社長。08年取締役常務執行役員コンシューマー事業本部長。10年取締役専務執行役員。13年代表取締役専務執行役員。14年代表取締役社長(現職)。

──昨年来、野菜飲料の販売好調が続いています。

寺田 野菜飲料は2014年から15年にかけて伸び悩んでいました。現在の販売好調の要因は健康志向の多様化を先取りできたことです。

 ひとくちに健康志向といっても、消費者によってとらえ方が違ってきています。どういうかたちで先取りできたかというと、まずは機能性表示食品制度です。16年2月から「カゴメトマトジュース」に「血中コレステロールが気になる方に」と表示したところ、習慣的に飲まれるお客さまの飲用量が増加したのと同時に、「かつて飲んでいたが最近は飲んでいなかった」というお客さまにも飲んでいただけるようになりました。その結果、16年度のトマトジュース全体の売上高は対前年度比3割増となりました。今年はTVや新聞などで、トマトに含まれるリコピンの健康価値が紹介される機会が増えたこともあり、引き続き販売好調で、17年度上期(1月~6月)の売上高も前年同期の3割増となっています。今年10月には、1973年に発売して以来、健康飲料として多くの方に親しまれてきた「カゴメ野菜ジュース」に、血圧を下げる働きを表示する予定です。

「カゴメトマトジュース食塩無添加」は「血中コレステロールが気になる方に」、「カゴメ野菜ジュース 食塩無添加」は「血圧が高めの方に」と、それぞれ機能性表示する。カゴメトマトジュースは健康志向の多様化を先取りし、販売好調だ

当社は長年、野菜に含まれるβ(ベータ)カロテンやリコピンなどを研究してきました。論文や学会で発表した研究成果を、うまく情報化できていることが、マスメディアで取り上げられることにつながっているのでしょう。

 機能性表示食品については、制度が始まる前から対応を準備してきました。「なんとなく健康にいい」というのではなく、具体的な機能性を表示し、健康志向の多様化を先取りできたことが販売好調につながっています。

──そのほかに好調な飲料はありますか。

(左)野菜と果実を独自の製法で細断した「カゴメ GREENSグリーンスムージー」。関東・甲信越の限定販売だったが、9月中旬から東海・北陸エリアと近畿エリアに拡大する
(右)「野菜生活100 Smoothie グリーンスムージーMix」。販売好調なことから、製造能力を増強するとともに商品アイテムも増やす計画だ

寺田 「野菜生活100Smoothie」が好調です。飲料の新しいトレンドとしてブームが始まりそうだというタイミングで発売できました。野菜と果実の食物繊維が多く含まれているので、飲み応えがあり、腹持ちがよいことから、働く女性が職場でおやつ替わりや小腹を満たすために飲まれることが多いのが特徴です。販売が非常に好調なことから、来年2月、製造能力を増強するための投資を行います。商品アイテムも増やし、年間売上高100億円以上の体制をめざします。

 野菜と果実を独自の製法で細断したジュースの「GREENS」シリーズも好調です。素材本来の色合い、香り、食感をお楽しみ頂けます。今年の春から「グリーンスムージー」を発売したところお客さまの支持をいただいています。関東・甲信越限定販売でしたが9月中旬から、東海・北陸エリアと近畿エリアに拡大します。食品スーパー(SM)店舗の売場でも「スムージーコーナー」ができてきており、今後さらに販売は伸びていくと見ています。

 一時、野菜ジュースを飲んでも野菜を摂取したことにならないといったネガティブな情報が広がりました。これに対して当社は15年から、野菜は加工(加熱・破砕など)することで、野菜に含まれている栄養素の体内への吸収率が高まるというポジティブな情報を発信してきました。また、「野菜ジュースファースト」を提唱しています。これは食事の30分前に野菜ジュースを飲むと血糖値の急激な上昇を抑えることができるという当社の研究成果です。こうした情報を広めてきたことによって野菜飲料の価値が見直されてきました。

 こうした取り組みの結果、上期の野菜飲料の売上高は、「トマトジュース」が対前期比130%、「野菜生活」が同113%、「野菜一日これ一本」が同105%となりました。この3つのブランドは、野菜飲料の年間売上高約800億円の9割を占めています。

──調味料についてはいかがですか。

寺田 今年5月、「カゴメナポリタンスタジアム2017」というイベントを東京スカイツリーで開催しました。地区予選を通過した全国の選りすぐりの9店舗でグランプリを競うという試みで、今年が2回目の開催です。地域の食材を使った、いわばご当地ナポリタンが本選に残り、グランプリをとったのは熊本のあか牛を使ったナポリタンでした。ソーシャルメディアで情報を広めたことで地区予選から盛り上がり、本選では1万3000食のナポリタンを提供しました。こうしたイベントを通じて、家庭の食卓におけるナポリタンの出現頻度が上昇しました。また最近では居酒屋でも締めのナポリタンというメニューが登場してきたりしています。その結果、トマトケチャップの消費量も伸びており、上期の売上高は対前期比102%でした。

食を通じて社会問題を解決、持続的成長に結びつける

──消費の多様化にどう対応しますか。

寺田 人口減少、超高齢化、労働人口の減少、働く女性の増加、単身・共働き世帯数の増加、といった社会構造の変化に伴い、「健康」「個食」「時短・簡便」など消費者の求める価値が多様化していると言われます。しかし、顕在化した消費者ニーズに企業が対応しているのではなく、実態は企業側がイノベーションとソリューションによって、多様な選択肢を消費者に提供していると言ったほうが正しいのではないでしょうか。

 コンビニエンスストア(CVS)のコーヒーは、CVSのコーヒーを飲みたいというお客さまのニーズがあったからではなく、CVS側が選択肢の1つとして提供し、それが受け入れられていったということでしょう。変化への対応というより、むしろ先取りですね。私どもも多様な選択肢をお客さまに提供できるように仕掛けていかなければなりません。パイは縮小していきますから、これまでのように、いい商品をつくりさえすればお客さまの支持を得られるというわけにはいかなくなります。

──どのように多様な選択肢を提供しますか。

寺田 私どもは「トマトの会社から、野菜の会社に。」という長期ビジョンを掲げています。当社は14年12月期に2期連続減収減益に陥りました。14年1月に社長に就き、マーケティングや営業でのキャリアを通じて、業績が伸び悩んでいる原因がどこにあるのかを考えました。ひと言で言うと、それは変化に疎いということでした。当社にはものづくりへの強いこだわりがあります。しかし、それだけでは変化に弱い。変化に強くなるにはどうしたらいいかを考えた結果、先取りすることだという結論に至ったわけです。

 15年に国内の10年後の市場を予測したところ、さまざまな社会問題が深刻化しているという結論に至りました。その中でカゴメのビジネス領域に密接にかかわっている最大の課題は、健康寿命の延伸です。

 「食を通じて社会問題の解決に取り組み、持続的に成長できる強い企業になる」というのが、15年につくり上げた10年後のカゴメ像です。これを具体的な事業イメージとして表現したのが、昨年つくった「トマトの会社から、野菜の会社に。」です。トマトをはじめとするさまざまな野菜を、多様な商品形態・メニューで提供できる会社になりたいという意味を込めています。

 解決すべき社会課題には「農業振興」もあります。当社には、カゴメブランドの生鮮トマトを生産してくださる菜園が全国に約50カ所あります。これらの拠点をベースに農業活性化に貢献していくことが可能です。さらに、「地域経済の活性化」も当社が取り組むべき課題です。農業振興と地域経済の活性化は密接にかかわってくるからです。健康寿命の延伸、農業振興、そして地域経済の活性化、この3つの課題解決に食を通じて取り組んでいきたいと考えています。

──農業振興、地域経済の活性化の具体的な取り組みはありますか。

寺田 当社の生鮮事業は100億円を超える規模になっていますが、事業規模をさらに拡大していくためには、生鮮トマトの生産拠点を増やす必要があります。そのため、新たに農業参入する菜園に対しては、私どもがそのサポートを担うことも考えられます。当社は現在、生鮮トマトに限りますが、アグリビジネスサポート事業を進めており、菜園に対して栽培指導を行い、できたトマトを当社が全量買い取り、販売することを行っています。一方、新たな野菜としてベビーリーフにも注力していきます。山梨県の北杜市に自社菜園を構えており、現在、出荷に向けて準備を進めています。日本におけるベビーリーフの市場はまだ小規模ですが、欧米ではすでに一定の市場規模に達しています。日本でもその価値を伝えて、市場を創造していきたいと思っています。

 地域経済の活性化の取り組みでは、当社の野菜飲料を製造する長野県諏訪郡富士見町の工場の隣接地に「カゴメ野菜生活ファーム富士見」という野菜のテーマパークを建設する予定です。休耕地を有効活用し、新設する「八ヶ岳みらい菜園」でトマトや高原野菜を栽培します。自然の中で農作業や収穫の体験、工場見学、レストランでの食事が楽しめる農・工・観一体の施設となります。19年春頃の開業を予定しており、多くの消費者に体験を通じてカゴメのファンになっていただきたいと考えています。こうした取り組みを通じて地域経済の活性化に貢献できると思っています。

総菜メニューの提案を強化、サラダ以外で野菜を摂る

──マーケティングにはどのように取り組みますか。

カゴメの生鮮トマトは年間供給量が約1万8000トン。国内の年間供給量約60万トンのうち約3%のシェアを占めるトップブランドだ

寺田 現在、日本人の1日の野菜摂取量は292グラムです。350グラムの目標値に対して約60グラム不足しています。そこにチャンスがあると考えています。野菜不足をゼロにしていくというのが、私どものマーケティングの基本にある考え方です。

 生野菜、ジュース、調味料に加えて今後、強化していくのが総菜です。総菜というと、肉や揚げ物が中心で、魚の総菜はあまりありません。そこで主力商品の「基本のトマトソース」を使って魚介と野菜を蒸し煮した「トマトパッツァ」というメニュー提案を昨年から始めました。魚の消費量が落ちてきていますし、野菜も一緒に摂取できますから、総菜メニューとしてSMで注目度が高まっています。

 野菜のさまざまな食べ方や情報を発信していきたいと考え、それを具現化したメニューがトマトパッツァです。トマトパッツァに続くメニューが、トマトソースをベースにナス、ズッキーニなどの野菜を煮込んだ「ラタトゥイユ」です。これらの野菜を使用した「地中海野菜グリルのミックス」という業務用の冷凍素材はすでにCVSで使われ始めています。健康志向を採り入れたメニュー化は、SM、外食、ホテルで広がっています。

 野菜の消費量を増やすには、ふだんの生活の中で、野菜をどう上手においしく摂ってもらうかがポイントになります。「野菜の会社」ということで、お客さまの好みに応じて、多様な選択肢を提供していきたいと思っています。トマトの会社だったら、そうした発想は生まれないでしょう。

 当社の生鮮トマトの年間供給量は約1万8000トンで、国内の年間供給量は約60万トンですので、約3%のシェアを持つトップブランドということになります。野菜飲料も、トマトケチャップなどの加工品もトップシェアです。こうした多岐にわたるトップブランドを組み合わせて提案できるのも強みです。

──小売業に最も伝えたいことは何ですか。

寺田 小売業さまと共同して、野菜不足の解消につながる取り組みを進めることにより、お客さまの健康寿命の延伸に寄与していければと思っています。

 当社が供給している緑黄色野菜の量は、独自の計算方式で換算すると、年間約50万トンになります。一方、国内全体の緑黄色野菜の供給量が415万トンですから、当社は約12%を供給していることになります。

 カゴメ商品の原料は野菜がメーンですから、カゴメ商品を販売していただくことは野菜の消費量を増やすことにつながります。小売業さま向けに、カゴメ商品を野菜として重量換算できるプログラムをつくりましたので、小売業さまにも、野菜の消費量を増やすにはカゴメ商品が欠かせないということがわかりやすくなると思っています。

 野菜摂取と健康には関係があることがはっきりしてきています。「トマトの会社から、野菜の会社に。」というビジョンを打ち出したことで、当社からお客さまへの提案の幅も広がっています。私どもの事業活動そのものが野菜の消費量を増やすことにつながっていますので、その考え方を小売業さまとも共有していきたいと考えています。