メニュー

統合シナジーを最大限に発揮し岩手県内でのドミナントを深耕する=ベルジョイス 澤田司 社長

2016年3月、アークス(北海道/横山清社長)傘下で同じ岩手県を本拠としていた食品スーパー(SM)企業のベルプラスとジョイスが合併し、ベルジョイス(岩手県/澤田司社長)が発足した。統合から1年半以上が経過した今、同社はどのような成長戦略を描き、北東北エリアでのシェアアップを図っているのか。澤田社長に聞いた。

「拡大経営会議」で合併のロードマップを作成

澤田 司(さわだ・つかさ)●1959年岩手県生まれ。82年弘前大学人文学部卒業。協和銀行(現 りそな銀行)、阿部繁孝商店を経て90年ベル開発に入社。2004年同社代表取締役社長に就任。07年ベルプラス専務取締役、10年代表取締役社長に就任、14年よりジョイス取締役を兼務。16年ベルジョイス代表取締役社長(現任)、同年アークス取締役執行役員(現任)

──ベルジョイスが発足してから1年半以上が経ちました。合併からこれまで、どのようなことを重視して取り組んできましたか。

澤田 統合にあたって何よりも優先して考えたのは、ベルプラスとジョイスの融和です。

 もともと別の企業で、ましてや同じ岩手県を本拠とする競合企業だった2社が一緒になるというのは、簡単なことではありません。企業文化も違えば、業務システムや仕事のやり方も異なります。

 ベルプラスとジョイスが合併した一番の目的は、岩手県内で確固たるドミナントを構築するということです。それを実現するためには、2社の融和をいち早く進めなければならないと考えました。

 もちろん、ステークホルダーに対する責任もありますし、できるだけ早期に統合シナジーを発揮することも求められます。経営効率と社内の融和の両軸にバランスよく取り組んでいます。

──社内の融和を進めるうえで、具体的にどのようなことに取り組んでいますか。

澤田 旧ベルプラスと旧ジョイスからそれぞれ約15人の社員が参加する、拡大経営会議というものを定期的に開催しています。この会議では、「いつまでにこれを完遂する」というふうに具体的な期限と目標を掲げた合併後のロードマップを作成し、2社の業務システムの統合を進めています。

 最初に設定した目標は仕入れ先の一本化で、これについては16年3月のベルジョイス発足後すぐに完了しました。その後も拡大経営会議で議論を重ねながら、同年7月に人事、経理、総務などの管理部門を同じオフィスに集約したほか、同年11月には商品分類、17年2月に消費税の外税内税表記、そして3月に受発注システムや請求業務、さらに物流センターを統一しました。物流センターについては、加工食品と日配品は旧ジョイスが委託していた日本アクセスさまに、生鮮とデリカについてはベルプラスがこれまで独自運営してきた物流センターでの扱いに移行しています。

──すべてのプロセスが完了するのはいつごろでしょうか。

澤田 目下進めているのは人事処遇制度の共通化です。昇給率や昇給の間隔、評価基準など、抽象的な議論ではなく細かい項目を1つずつ精査しています。18年3月に予定されているアークスグループの新情報システムの稼働までに共通化する考えです。これが無事に終われば、ベルジョイス発足後から進めてきた統合のプロセスはほぼ完了します。

 合併を経験したほかの企業の話もいろいろ聞いていますが、私が知っている範囲では、この短期間にここまで社内システムの統合が進んだ例はほとんどないと思います。一般的には3~4年はかかるのではないでしょうか。

──拡大経営会議の存在が、統合スピードの速さに寄与しているのですね。

澤田 そうだと思います。もっとも、拡大経営会議のような場に30人もの社員が参加するのは、決して効率的とは言えないかもしれません。しかし、一部の幹部だけで話し合って決定し、現場の従業員が知らないうちにどんどん物事が進んでいくということがないようにするためにも、これくらいの人数で膝を突き合わせて議論を重ねる必要があると考えています。

 また、商品、人事、物流などの部門ごとに分科会も開いています。拡大経営会議の俎上にのる案件は、すべて事前に分科会で議論されています。現場で働く従業員が本音で意見を交わし、そこでまとまったものが拡大経営会議で精査されるという流れです。そのため、幹部だけでなく従業員全員が情報を共有できています。

「トヨタ生産方式」で店舗運営を効率化

──業績面についてはいかがでしょうか。SM業界では、上半期は苦戦している企業も目立ちます。

ローコストオペレーションを追求した価格訴求型SMの「ビッグハウス」。1品単価を下げ続けたことで買い上げ点数が増え、客単価が上昇し、好業績に寄与している「トヨタ生産方式」で在庫の削減に努めた結果、在庫高や商品回転日数は飛躍的に改善しているビッグハウスでは「一物3価」を掲げ、1つの商品について1点より2点、2点より3点購入したほうが単価が安くなるように価格設定がされている。これも買い上げ点数が増えている要因だ

澤田 上半期は売上、利益ともに予算と前年実績をクリアしており、好調に推移しています。その大きな要因となっているのは客単価の上昇です。

 とくに、価格訴求型のSM「ビッグハウス」でその傾向が顕著です。同業態はアイテム数を絞ることでローコストオペレーションを追求するというのが基本的な方針です。ローコストオペレーションの進展に合わせて1点単価を下げ続けたことで、それに比例するように買い上げ点数が増え、客単価が上がり続けています。

──効率的な店舗運営のもとに業績を伸ばしているわけですね。それを実現できているのはなぜですか。

澤田 ビッグハウスを展開してきたベルプラスでは14年ほど前から、トヨタ自動車の生産システムを取り入れた「トヨタ生産方式」を採用し、店舗の在庫削減を進めてきました。試行錯誤の連続ではありましたが、長年継続して取り組んだことで、とくに在庫高や商品回転日数は飛躍的に改善されました。

 店舗の抱える在庫が減ったことで、加工や陳列に要する時間も少なくなるのはもちろんですが、回転率がよくなったことで商品の鮮度が向上し、売上にも大きく寄与しています。

──小売業界では人手不足の問題も深刻化しています。在庫削減のほかにはどのような対策を打っていますか。

澤田 各社で導入が進んでいますが、セミセルフレジを順次設置しています。また、鮮魚、精肉、総菜についてはプロセスセンター(PC)の活用も進めています。現在、午前11時までに売場に並ぶ商品については原則PCから供給し、それ以降の時間帯については店内加工、店内調理の商品を並べるというシステムにしています。

MDの再構築にアークスの情報力を活用

──商品政策(MD)についてはどういった方針を掲げていますか。

澤田 ビッグハウスについてはMDの方針を大きく変えています。前述のとおり、品揃えを絞り込むことでローコストオペレーションを追求するのが基本的な考え方ですが、アイテム数は以前よりも徐々に増やしています。

 実はある時期、それまで伸び続けていたビッグハウスの既存店売上高が前年を下回ったことがありました。よく調べてみると、競合店に比べてアイテム数が不足していることがわかったのです。昨今、われわれの商勢圏においてもオーバーストア化が加速しています。お客さまに常に選んでいただける店をつくるうえで、品揃えについては常に見直していかなければなりません。

 ただし、アイテム数を増やすと言っても、ローコストオペレーションを崩さないことが大前提です。商品を安く提供できなくなった時点で、われわれの存在価値はなくなると考えています。

──MDを構築するにあたって、アークスグループのスケールメリットも生かしているのでしょうか。

澤田 品揃えを見直すうえで、アークスグループが持つ情報を大いに活用しています。どこの店で何がどれだけ売れているかがグループ内で共有されているため、そうした情報とベルジョイスの販売データを突き合わせて、われわれの店舗に欠けているのはどういった商品なのかがはっきりわかるようになりました。また、現場で働いている担当バイヤーや店舗運営部の社員も、グループ各社の店舗に繰り返し視察に行って情報を収集しています。

 一例を挙げると、ベルジョイスのある店舗では加工肉を85SKUしか販売していなかったのですが、ほかのグループ会社の店舗では219SKUも取り扱っていることがわかりました。簡便商品の需要が高まるなか、精肉部門において加工肉の品揃えを拡充することはよく考えれば当然なのですが、そこを見落としていたのです。このように、われわれだけでは把握しきれなかった課題が可視化できるようになったことは、大きな武器になっています。

既存店の強化が最優先事項

──店舗や売場づくりの面においては、統合シナジーをどう生かしますか。

澤田 仕入れ先や帳合、物流センターを一本化したことで、店舗効率は格段にアップしました。バックシステムの効率化はうまく進んでいます。

 一方で、店の屋号や売場までを共通のものにするかどうかは、熟考する必要があると考えています。オーバーストア化が進む今日、その店が気に入らなくても近くにほかの店はいくらでもあるという状況です。せっかく現状でお客さまに支持されているような店を、会社が合併したからといって看板や品揃えをむやみに変えてしまっては、お客さまが離れてしまう可能性もあります。そのため、屋号や売場の共通化については慎重に検討を重ねていく考えです。

──出店についてはどのように進めていきますか。主力業態としては旧ジョイスのSM「ジョイス」、旧ベルプラスの「ビッグハウス」の2業態がありますが、今後出店の柱となるのはどちらでしょうか。

澤田 まず新規出店については、今年度は実施しません。一方、既存店改装は上期もいくつかの店舗で実施しています。統合してすぐの間は、新規出店で店舗網を拡大することよりも、既存店を強くしていくというのを優先に考えています。それが一段落した来年度以降は、新規出店も検討していきたいです。

 ジョイスとビッグハウスのどちらを出していくかということに関しては、立地や商圏を見ながら、その土地に合った業態で出店していきます。

──同じアークスグループのユニバース(青森県/三浦紘一社長)も岩手県内に店舗を展開していますが、出店に関してすみ分けを図っているのでしょうか。

澤田 アークスは「八ヶ岳連峰経営」のもと、各社の出店戦略を尊重していますので、ユニバースさんとのすみ分けは考えていません。ただし出店計画は、最終的にはアークスの取締役会に諮って決議する体制になっています。

 今後、ベルジョイスの店舗からすぐの場所にユニバースさんが新店をオープンするという可能性もあります。ある程度の影響は出るかもしれませんが、グループ外の競合企業に出店されることを考えれば、やはりグループ会社の店舗が出店したほうがよいでしょう。お互いに切磋琢磨しながら、さらなる成長をめざしていきます。

──現在、岩手県内のほかに宮城県、青森県、秋田県にも店舗を展開しています。将来的に、出店エリアを拡大する考えはありますか。

澤田 基本的には、岩手県内と宮城県北部での出店を進めていきます。それ以外の地域もまったく眼中にないわけではありませんが、現状の物流効率を考えると今はまだ難しいでしょう。

グループ他社に学び、めざすは経常利益率3%

──中長期的な経営方針についてお聞きします。今後、どのような成長戦略を描いていきますか。

澤田 ベルプラスとジョイスが合併し、ベルジョイスを発足させた目的は、何よりも岩手県で強固なドミナントを構築するということにあります。最低でもマーケットシェア30%、経常利益率3%の企業にしようというのが目標です。そのうち、30%のマーケットシェアを達成するのはそれほど難しいことではなく、すでに達成目前の状態にあります。

 ただ、経常利益率3%の達成は容易ではありません。アークスグループ全体の経常利益率はすでに3%を超えていますので、われわれはほかのグループ会社に学びながら、目標を確実に達成したいと思います。

ベルジョイス 代表取締役社長 代表取締役会長 澤田 司

──ベルジョイスとしてM&A(合併・買収)を行う考えはありますか。

澤田 それはありません。われわれは今では800億円に迫る売上高がありますが、ベルプラスとジョイスという2社が合併した結果であって、独力で800億円企業に成長したわけではない。そのことは絶対に勘違いしてはならないと思っています。まずはベルジョイスという新しい会社を強くしていくということに邁進していきます。