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ビオセボン・ジャポン 社長 土谷美津子
「ふだん使い」確立し、オーガニック食品市場を拡大させる

イオン(千葉県/岡田元也社長)傘下で、オーガニック食品を中心に扱う食品スーパー(SM)のビオセボン・ジャポン。日本で1号店を出店してから1年あまりが経過した。日本のオーガニック食品市場をどう開拓していくのか。土谷美津子社長に聞いた。

リピーターが約7割、青果の売上が好調

──2016年12月に1号店「Bio c’ Bon(ビオセボン)麻布十番店」(以下、麻布十番店)をオープンしてから1年あまりが経過しました。利用者の反応はいかがですか。

つちや・みつこ●1963年生まれ。86年4月ジャスコ(現イオン)入社。06年5月同社執行役。07年3月グループお客さま担当兼ブランディング部長。08年5月常務執行役。08年8月執行役グループ環境最高責任者。10年5月イオンファンタジー代表取締役社長。13年3月イオンリテール専務執行役員食品商品企画本部長。13年5月、取締役兼専務執行役員食品商品企画本部長。16年6月ビオセボン・ジャポン代表取締役社長就任

土谷 おかげさまで売上は右肩上がりで伸びています。開店からしばらくの間は、オーガニック食品を中心に扱うSMという話題性や珍しさから来店される方がほとんどでした。

 しかし、最近はふだん使いの店として、日常的に利用してくださるお客さまが増えています。会員カードの分析では、利用者の中心は子育て中の主婦をはじめとした若い世代です。また、カード会員全体の約7割がリピーターになっています。

 とくに売上が好調なのが青果です。青果の売上高構成比は、開店直後は全体の5%未満でしたが、現在は20%近くまで伸長しています。

 最近は、天候不順による野菜の相場高がオーガニック野菜の売上をさらに押し上げています。オーガニック野菜は市場を介さず、生産者と販売者が直接売買する相対取引で価格が決定されます。天候不順による生産量の減少はオーガニック野菜の生産者も同じ状況です。しかし、当社と契約している生産者は、消費者にオーガニック野菜を手に取ってもらえる好機ととらえ価格を上げていません。そのためオーガニック栽培と慣行栽培の野菜の価格差が小さくなっており、オーガニック野菜を購入するお客さまが増えています。

2016年12月に開店した1号店「ビオセボン麻布十番店」
売上好調な青果売場。とくに色味が鮮やかな野菜が支持されている。トマトやニンジン、じゃがいもなどのベーシックな商品は量り売りも行っている

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──どのように顧客の支持を獲得していったのですか。

土谷 開店前から仏ビオセボン社からは「青果が支持されなければ固定客がつかない」と言われていました。そこで、青果の売上を伸ばすため試行錯誤を重ねました。

 まず取り組んだのは、取扱品目数の拡大です。開店時は約200品目ほどでしたが、現在は2倍以上に拡大しています。

 次に、売上動向に応じて品揃えも変えました。当初は一般のSMの品揃えを提供していましたが、現在はそれにこだわらず、一般のSMで見かけないような野菜も揃えています。よく売れるのは、サラダ野菜です。品揃えの拡充や鮮度管理の向上などにより、お客さまに支持していただけるようになりました。たとえば、西洋野菜のルッコラやカステルフランコなど、彩り豊かな野菜を詰め合わせた「柴海農園サラダ野菜セット」は人気商品の1つです。生のまま食べる野菜や、イチゴやレモンなどの皮ごと食べる果物は、オーガニックにこだわるお客さまが多いようです。

人気商品の1つ「柴海農園サラダ野菜セット」。西洋野菜のルッコラやカステルフランコなど、彩り豊かな野菜が詰め合わせになっている

──店頭での販促で工夫していることはありますか。

土谷 SNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)での情報発信や、接客、店舗でのワークショップの開催に力を注いでいます。

 SNSでの情報発信については、商品情報を提供することはもちろん、店内での写真撮影ができるようにし、お客さまに当店の情報を発信してもらえるようにしています。

 接客については、商品の特徴だけでなく、生産過程でのこだわりや商品のストーリーも伝えられるようにしています。そのため、従業員が生産者のもとで商品について学ぶことも始めました。また、商品のおいしさを知ってもらうことが購入に結びつくと考え、店内ではつねに試食を提供しています。

カウンターではフランス直輸入のチーズを販売。おいしさを知ってもらうため店内ではつねに試食を提供している

 店舗でのワークショップは、店内中央にあるイートインスペースを活用して月に1~2回開催しています。内容は、店舗で扱う商品にスポットを当てて、家庭ですぐに実践できる活用方法や、料理レシピなどを紹介します。参加者の募集を開始して早々に定員に達してしまうことも少なくありません。

イートインスペースでは、月に1~2回ワークショップを開催している

有機栽培をサポート、生産者を「買い支える」

──日本では有機栽培農家は多くありません。どのように生産者を確保しているのですか。

土谷 すでに取引のある生産者から、知り合いの有機栽培農家を紹介してもらうなど、地道な取り組みにより契約する生産者を増やしてきました。現在契約している生産者は200軒になりました。最近は有機栽培に取り組む若手の生産者が全国的に増えてきていることも、契約する生産者を増やす後押しになっています。

 契約する生産者を増やすうえで大切にしていることは、有機野菜の販売拡大に向けて「ともに取り組む」という姿勢です。商品の取引をするだけでなく、今後の販売や栽培計画についても話し合い、アドバイスを提供します。たとえば、ビオセボンの売上傾向を共有して、生産者が消費者のニーズに即した農産物を栽培できるようにしています。

 また、有機栽培に挑戦する生産者のサポートも行います。たとえば、有機野菜であることを証明する「有機JAS認定マーク」を取得するには約3年間、農薬や化学肥料を使用せず、田畑を有機栽培用に転換する必要があります。つまり約3年間は、栽培の手間もかかるうえに「有機野菜」として農産物を販売できないのです。そこでビオセボンは、田畑を転換中の生産者の野菜も「有機転換中の野菜」として店頭で販売しています。このように生産者を買い支えることが、有機食品の生産者の増加や生産量の拡大につながると考えています。

──物流の最適化は進んでいますか。

土谷 物流の最適化についてはまだ課題が多く、オペレーションの改善を図っているところです。有機野菜は市場が存在せず生産者と販売者による相対取引のため、商品の配送についても生産者1軒1軒とのやり取りが必要になり効率がよくありません。そこで、それぞれの地域で生産者の農産物を集約できる拠点づくりを進めています。そうして集約した有機野菜を最終的にイオングループの物流網に乗せて、効率化とコスト削減を実現したいと考えています。

仏直輸入の商品は600品目以上、「健康」を軸とした商品を強化

──ビオセボン・ジャポンは、16年6月に仏ビオセボン社を傘下に持つ、マルネ・アンド・ファイナンス・ヨーロッパ(Marne & Finance Europe)との折半出資で設立されました。仏ビオセボン社とはどのように連携していますか。

土谷 仏ビオセボン社は、140店舗以上出店し、海外にも進出しています。そのため、商品の選定や、店づくり、経営についてなど、あらゆる部分でアドバイスしてくれています。

 また、フランスから直輸入している商品については、仏ビオセボン社が扱っている質の高い有機食品を仕入れることができます。開店時、直輸入商品は250品目ほどでしたが、お客さまから好評のため拡充し、現在では2倍ほどに増えています。こうした仏ビオセボン社との連携は当社にとって大きな強みです。

──現在力を入れている商品政策について教えてください。

土谷 これまでは、有機の農産物と加工食品を中心に扱うSMとして、品揃えを拡充することに力を注いできました。日本料理に欠かせない白だしやぽん酢、お客さまから要望が多かったパウンドケーキやどら焼きといった和洋菓子などで、取引先メーカーの協力を得て有機の商品を開発し、品揃えに加えてきました。

 これからは次のステージとして、お客さまの潜在的な需要を探り、品揃えに反映させていきます。

 先日、来店されたお客さま約30人に、1人当たり30分ほどビオセボンについての要望を聞きました。その結果、健康を軸とした商品をもっと増やしてほしいという声が多く挙がりました。今後は、有機食品を提供することはもちろん、「減塩」などの健康を切り口とした品揃えや売場づくりに注力していきます。

日本料理に欠かせない白だしは、取引先メーカーの協力を得て新たに開発し、品揃えに加えた

18年春に2号店を出店へ、20年に数十店舗体制めざす

──18年から店舗数を拡大する方針を掲げています。

土谷 18年は5~6店舗を新規出店する計画です。まず、ビオセボンの2号店を18年春に開業します。19年以降はさらに出店スピードを加速し、20年に数十店舗体制をめざしたいと考えています。出店地はすべて首都圏を予定しています。

 1号店のオープンから約1年間は、お客さまの動向を見て、オペレーションや品揃えを適合させることに集中してきました。そしてビオセボンを多店化するうえでの1つの指標と考える、青果の売上がしっかりと確保できるようになったことから、出店強化に踏み切る判断をしました。

──オーガニック食品を販売する競合企業とは、どのようにして差別化を図っていきますか。

土谷 ビオセボンの特徴は「カジュアル」なことです。当社は、どの競合企業よりも専門性の高いオーガニック食品の品揃えにこだわっています。しかし、お客さまにオーガニック食品の専門性を前面に打ち出す考えはありません。「気軽さ」「おいしさ」をキーワードに、多くのお客さまにオーガニック食品のおいしさを気軽に体験してもらえる店にしたいと考えています。そうすることで、これまでなかなか拡大してこなかったオーガニック食品市場を広げることができるのではないでしょうか。

最近販売をスタートしたパン。フランスから冷凍生地を輸入して店内で焼き上げる。生地にはオーガニックのバターや小麦を使用している

──イオングループにおけるビオセボン・ジャポンの位置づけを教えてください。

土谷 イオンは長年、環境に配慮した商品を提供できる企業をめざしさまざまな施策に取り組んできました。その大きな柱の1つがオーガニック食品の販売です。そこで、オーガニック食品を専門的に扱うSMを出店することが、日本のオーガニック食品市場の拡大につながると考え、ビオセボンの事業をスタートしました。

 たとえば、イオンの店頭にオーガニック野菜のコーナーを設置しただけでは、オーガニック食品のドレッシングやマヨネーズが必要なことになかなか気づきません。専門店としてオーガニック食品の総合的な品揃えを提供しようとすることで初めて、潜在的な需要が見えてきます。この専門店ならではの気づきをイオンに還元することで、本格的にオーガニック食品市場が形成されると期待しています。

 (イオン社長の)岡田からは、仏ビオセボン社のようなふだん使いのオーガニックSMを、日本で確立することが重要だと言われています。そのために、まずは店舗数の拡大を第一優先で進めていきます。

フランスにはない独自の取り組みとして総菜も販売。具材にもオーガニック食品を使用している

──日本のオーガニック食品市場をどのように見通していますか。

土谷 日本におけるオーガニック食品への関心は確実に高まっていると感じています。オーガニック食品に関心の高い在日・訪日外国人が増えていること、あるいは海外を訪れオーガニック食品の存在を知る日本人が増えていることなどが背景にはあるのではないでしょうか。さらに2020年に開催される東京五輪では、選手村や会場内で提供する食材にオーガニック食品が優先的に使われることからもその重要性があらためて注目されるでしょう。

 麻布十番店の運営をとおして、これまでまったく興味をお持ちでなかったお客さまが、オーガニック食品を日常的に購入されるようになる姿を目にしてきました。多少時間がかかるかもしれませんが、将来的には日本でも欧米並みのオーガニック食品市場が開けると考えています。

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