2018年4月1日、ロッテホールディングス(東京都/佃孝之社長)傘下にあった菓子・アイス製造のロッテ、菓子販売のロッテ商事、アイス販売のロッテアイスの3社が合併し、新会社としてロッテ(東京都/牛膓栄一社長)が誕生した。カリスマオーナーによる経営から新体制へ移行、新生ロッテとして売上規模5000億円を目指す。
3社統合によって「あるべき姿」になった
──今回の3社統合のねらいと意味はどこにあるのでしょうか。また統合によって変化したことはありますか。
牛膓 意思決定のスピードを速め、ガバナンスを強化することが最大のねらいです。また、カテゴリーの統合によって得られる規模を生かし、投資効率を向上させます。菓子とアイスの企画から製造、販売までを一気通貫で行うのが、「あるべき姿」でしょう。このあるべき姿になれたことで、取引先さまにとってもわかりやすくなったと思いますし、社内でもよい変化が生まれています。所属会社の違いから生じる意識の壁が1つ取り払われたことで、社員同士が交流する土壌が出来上がりました。
大量生産大量販売の時代は、製造面では効率を、販売面は量を追求すればよく、バラバラの会社でも対応できたかもしれません。しかし、現在は変化の激しい消費ニーズに合わせるため、商品と売場をセットで考える必要性がますます高まっています。そのためにも企画、製造、販売の連携は不可欠です。今後は、部門間の壁をさらに取り払い、新しいイノベーションを起こせる環境づくりをしていきたいと思います。
──新会社としての成長戦略を教えてください。
牛膓 3つの成長戦略を持っています。1つめは菓子とアイスを中核として事業競争力を強化すること。業界の中では圧倒的な地位を築きたい。そのためにも工場への設備投資を行うとともに、生産や物流の効率化を図ります。
2つめは海外事業の拡大です。現在は約10%程度の海外売上比率を、将来的には20%程度にまで高めることを目標にしています。戦略の中心は東南アジアで、現在タイ、インドネシアとベトナムに1カ所ずつの計3カ所の工場が稼働中です。
3つめは、会社としての社会的価値の向上です。いわゆるESG(環境、社会、ガバナンス)を含むさまざまな観点から、世の中から認められ、尊敬される会社になることをめざします。
この3つの成長戦略をもって、将来的にロッテとして5000億円の売上を達成したい。直近では、チョコレートとアイスのそれぞれについて、国内売上目標1000億円を掲げています。そのために「キシリトール」「ガーナ」「チョコパイ」の3つを300億円、「爽」「クーリッシュ」「雪見だいふく」「パイの実」「トッポ」「コアラのマーチ」「乳酸菌ショコラ」の7つを100億円のブランドに育成します。
つまり、我々が持っている強いブランドをさらに強くしていくということです。それが、経営の安定化とお客さまの我々に対する信頼の向上につながるからです。
そのうえで、世の中のニーズに応えるような新しい商品を開発していきます。たとえば、中高年向けに開発した「歯につきにくいガム粒〈記憶力を維持するタイプ〉」は、当初計画の約1.5倍、約10億円を売り上げました。このガムに配合されているイチョウ葉抽出物成分の強い苦みを抑えながら、味を整えるには高い技術力が必要です。我々がガム会社として培ってきた技術があるからこそ、このアイデアを商品化できたと自負しています。
味や品質、機能性だけでなく感情に訴える商品をつくる
──「記憶力を維持する」など機能性をアピールした商品に手ごたえを感じられていますか。
牛膓 「機能性表示食品」が実現する「健康」というキーワードが重要であることは確かです。強化ブランドとして挙げた「乳酸菌ショコラ」は「機能性表示食品」であり、「腸内環境を改善」を訴求した商品になっています。
また、販売から20年が経過した「キシリトールガム」についても、今年改めて成分である「キシリトール」の効用をアピールしています。キシリトールは唾液中のミュータンス菌(虫歯菌)を減らすとともに、妊娠中の母親から胎児へのミュータンス菌の感染(母子伝播)を抑制する効果もあります。
そのため、渡部健さん佐々木希さん夫妻によるテレビCMを放映するだけでなく、母子手帳の副読本にキシリトールの説明書を入れてもらうといった活動もしています。こうした商品を通じて社会貢献をしていきたい、という気持ちもあります。
一方で、お菓子は「機能性」があればいい、ということではありません。味や品質はもちろんのこと、お菓子として、消費者の感情に訴える必要性を感じています。
たとえば、当初計画の約2倍、28億円を売り上げヒット商品となった「シャルロッテ」は、機能性をうたった商品ではありません。また、コンセプトである「ヨーロッパのお菓子屋さん」の絵を全面に描いたパッケージには、商品や味の説明がほとんどなく、菓子業界が長い我々経営陣にとっては「わかりにくいのではないか」と思えるものでした。しかし、このコンセプトがお客さまに受け入れられたのです。小売業の皆さまにもパッケージが街並みに見えるように売場に並べていただけているのはありがたいことです。
──販売チャネルや商品の「売り方」に関しては、どのようにお考えですか。
牛膓 お客さまの買い物の仕方へ対応するという意味で、販売チャネルや売り方に対する従来型の考えが通用しなくなってきているように感じています。当社の調査によると、1人のお客さまが5業態、8店舗を平均で利用されているようです。ネット消費を加味すれば、さらに利用店舗数は多くなるでしょう。また、余計なものを買わずにいち早く買い物をすませるスピードショッパーと呼ばれる方が増えてきており、約3割の方が買い物に対してストレスを感じているというデータもあります。
つまり、各店舗で必要最低限のものだけを素早く買いたいというお客さまが多くなってきているということです。一方で、我々の商品は、生活必需品ではありません。菓子は、生鮮3品や総菜など生活に必要なものをすべて買って「ほっ」としたところで買われる最終購買商品です。
これまでも、最終購買品としてご購入いただくために、レジ前の菓子売場をご提案し、全国で430チェーンに導入いただきましたが、次の打ち手が必要です。
どんなチャネルにおいても、必要最低限のものしか買いたくないお客さまの「買い物スイッチ」を押す売場をつくらなければなりません。それは、メーカーのエゴを押し付ける売場ではなく、お客さま起点の売場です。
我々は、今後さらにお客さまが本当に必要とされているものが何かを研究し、小売業の皆さまへ貢献できる方法を考えます。そのためにも、PDCAサイクルを繰り返し回しながら小売業の皆さまと協同していきたいと思います。
「任せる」ことで「個」の力を育成する
──社長としてのミッションをどのようにお考えですか。
牛膓 売上面の目標を達成するだけでなく、社会的にも世界で認められる会社になることを目標にしています。そして新しい組織として、社内の体制づくりも進めます。
我々はこれまで、創業者のカリスマ性についていくことによって成長してきました。商品づくりへのこだわりはもちろん、テレビ番組(ロッテ歌のアルバム)や大型懸賞による販売促進、現在も稼働する工場の建設など、創業者の画期的なアイデアや先見性、推進力によって、イノベーションを繰り返してきました。
しかし今後は、新体制として、社員一人ひとりの「個」の力を起点に、チームとして成長することに重点を置きます。
すでに、佃社長(現ロッテホールディングス社長)が組織経営体制の礎を築いており、一例として海外研修制度を導入するなど、組織としての人材育成を進めてきました。私はこれから、次世代を担う幹部には、国内だけでなく海外、営業だけでなく企画・開発といったように幅広い部署を経験し、知見を深めてもらいたいと考えています。もちろん、これまで通りスペシャリストも育成します。
さらに、若い人材が成長するために、仕事を「任せる」ことを意識的にやっていきます。たとえば、先ほどお話しした「シャルロッテ」は、若い世代の女性チームに開発プロジェクトを任せたことによって、成功した事例です。
当然、失敗もあるでしょう。10のうち1つ成功するのも難しい。しかし、私は10のうち10失敗しても、成功の見込みがある素材を1つ発見できればいいと考えています。失敗を会社として吸収するための環境づくりをすることが、我々経営陣の仕事です。