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阪急ブランドが浸透するエリアに絞り、深耕する! 阪急オアシス代表取締役社長 並松 誠

積極的な出店により、事業規模を拡大する阪急オアシス(大阪府)の新社長に就任した並松誠氏。前職、博多阪急の店長時代には需要に応える独自の運営手腕により多くのファンを獲得、同店を成功に導いた。食品スーパー企業の経営トップとして、今後はいかなる成長戦略を描き、競争を勝ち抜こうとしているのかなどについて聞いた。

キーワードは「整える」

──今年4月、阪急オアシスの新社長に就任しました。所感を教えてください。

なみまつ・まこと●1953年3月生まれ。1975年、関西学院大学経済学部卒業、同年、阪急百貨店に入社。2003年同社執行役員、08年阪急阪神百貨店執行役員、09年同社常務執行役員、10年同社取締役常務執行役員、15年同社取締役常務執行役員博多阪急店長。18年、阪急オアシス代表取締役社長(現任)

並松 社長となり、最初に実行したのが約80ある全店舗への訪問です。品揃えや店づくり、競争環境などを自分の目で確かめて回りました。そこで得た率直な感想は、食品スーパー(SM)というのは、とても“過激”な業態であるということです。

 これまで私が仕事をしてきたのは百貨店。1975年、阪急百貨店(現、阪急阪神百貨店)に入社後、43年にわたって営業畑を歩んできました。百貨店は商圏が広く、50万円、100万円といった高額の商品も売れる。かたやSMは小商圏であり、取り扱っている商品の値段は安い。今、繁盛していても、近くに競合店が出た途端、売上高が一気に20%減となり、赤字に転落することも珍しくない。そういった点から過激だと感じたのです。

──確かに競争が激しいのが現状です。

並松 さらに近年、競争する相手も、同業のSMだけではなくなってきています。コンビニエンスストア(CVS)が増えているほか、集客力の強化をねらってドラッグストアやディスカウントストアといった異業態も食品の扱いを増やしています。今後、さらに競争は激しさを増していくのは間違いありません。

──そのなかエイチ・ツー・オー リテイリング(大阪府/鈴木篤社長)グループにおいて、SM事業を展開する中核企業のトップとして、いかに采配を振るいますか。

並松 これまでの歩みを振り返ると、当社は積極的に事業を拡大してきました。千野(和利)前社長の強いリーダーシップのもと、当初250億円ほどだった売上高は、約17年の間に1200億円近くにまで伸びました。M&A(合併・買収)を手掛ける一方、09年7月からはSMの独自フォーマット「高質食品専門館」を積極的に出し、店舗網を大きく広げました。

 そのような状態で経営のバトンを受け取りました。私としては、これまで築いてきた事業の基盤を強固なものにしたうえで、次の成長を実現させていきたい。その意味で現在、「整える」をキーワードに事業を見直しているところです。

──業績をどのようにコントロールしていきますか。

並松 18年3月期の売上高は、1167億円(対前期比1.7%増)、営業利益6億円(同57.1%減)でした。当面は売上高を確実に上げることに集中したい。また前期、既存店ベースの売上高は同0.9%減であったため、営業力を強化し、まず前期実績をクリアできる水準に戻したいと考えています。

「整える」をキーワードに事業を見直し中。基盤を強固にし、次の成長を実現する

最前線の店長が考える

──「整える」をキーワードに、現在、何に取り組んでいますか。

並松社長はまず在庫の適正化に着手し、額にして約3億円を削減。同時に、店舗では売れ筋や売り込み商品のフェースを広げ、選びやすい売場づくりに努めている

並松 4月に店舗回りをした後、着手したのは在庫の適正化。百貨店時代も一貫して意識し実践していたことです。グロサリーや日配を中心に過剰な商品があると感じたので、取り扱いSKUを大幅に見直し、金額にして約3億円削減しました。一方、店舗では売れ筋や売り込み商品のフェースを広げ、お客さまが選びやすい売場づくりに努めています。

 在庫を企業の身の丈に合った水準に落とすと、収益をコントロールしやすくなります。私の経験では3か月、遅くとも半年経てば売上が伸びます。とはいえSMは初めての経験なので、実際のお客さまの消費動向を見ながら対応していきたい。

──各店の売場が徐々に変化していきそうですね。

並松 ただ商圏によってお客様のニーズは大きく異なります。そこは各店で指揮を執る、店長の判断を重視する方針です。

──最前線の店長に権限移譲するのですね。

新型店では、新しいオペレーションの手法を取り入れた運営を行う。中之島店では、マルチタスク制を採用するほか投入人時を低減、効率運営を志向する

並松 たとえば営業時間も、店長判断で変更してもよいと言っています。店は立地、商圏特性、競争環境により、あるべき営業時間も違うはず。私は、博多阪急で店長を務めていた時、当初、21時閉店だったところを20時に短縮しました。食品はやや苦戦したものの、改装によってお土産需要が喚起できたり、化粧品が売れるようになったりで、最終的には前年実績をクリアできました。今も、店全体では対前期比7%増と好調に推移しています。

 お客さまと日々、接しているのは店の責任者である店長です。何が売れたかだけを把握するのではなく、実際にどのような人が買っているのか、またどんな買い方をしているかを店頭でよく見てほしいと伝えています。実践することで、各店各様の効果的な売り方を工夫してほしいと期待しています。

──個店対応にシフトするということですか。

並松 いえ、展開しているのはあくまでチェーンストアです。7~8割の仕事は標準化されたチェーンオペレーションにより、効率化を追求する必要があります。そのうえで、残る2~3割の部分は店長自身が考え、工夫し、店舗網全体の営業力を強化するという考え方です。

「阪急ブランド」が浸透する大阪キタに開業した「キッチン&マーケット ルクア大阪店」。物販と飲食を融合した新しいフォーマットでオープン後、順調に推移する

標準、小型、新型に3分類

──出店政策を教えてください。

並松 当社はこれまで、多様なエリア、立地への出店にチャレンジすることで事業拡大の可能性を探ってきました。その結果、得た答えは「阪急ブランド」が浸透しているエリアに注力するということ。具体的には阪急電鉄沿線、大阪では市内から府北部にかけてのエリアで店舗展開を強化、マーケットを深耕します。

 今年4月には「キッチン&マーケット ルクア大阪店」(大阪市北区)と「阪急オアシス中之島店」(同、以下、中之島店)をオープンしましたが、いずれも出したのは阪急ブランドが定着しているエリア。そのうちルクア大阪店は、物販と飲食を融合した新しいフォーマットで、オープン後の業績は計画を大きく超え、好調に推移。このように今後、新規出店については当社が得意とするエリアに力を入れていきます。現在、大阪市福島や兵庫県川西市、また神戸市三宮エリアなどへの出店に向け、準備を進めています。

──既存店はいかに活性化しますか。

今後、新規出店にあたっては売上高16億円以上の標準店を中心に店舗網を拡大する。写真は標準店のひとつである、17年7月に出した伊丹鴻池店(兵庫県伊丹市)

並松 従来、売場面積の規模で管理しましたが、今後は売上高の規模別に分類し、それぞれに合った施策を打ちます。具体的には、年商16億円以上の「標準」、12~16億円の「小型」、12億円未満の「新型」の3つ。その上で、店長の判断を取り入れ、商圏に応じたきめ細かな品揃え、店づくりを行っていきたい。

 たとえば都心部にある小型店では、総菜はじめ即食商品を充実させるなど、CVSのような品揃えをするのも一つの選択肢になります。シニアマーケット対応の、売場の広い標準店では、時間消費できるイートインコーナーを設けるなど工夫していきます。

──不採算店についてはいかに対応しますか。

並松 テコ入れし、それでも業績回復が見込めない店舗は順次、整理します。18年3月期には7店を閉め、うち3店はイズミヤのSM業態「デイリーカナート」へ転換しました。このようにエリア特性を見て、支持される企業ブランドへの転換も進めます。

──12億円未満の新型とはどのような店ですか。

並松 新しいオペレーションの手法を取り入れる店舗です。売上規模が小さい店舗で、プロセスセンターを積極的に活用、投入人時を低減して、効率運営により確実に利益を確保できる仕組みを整えます。おもに既存店へのアプローチになりますが、前述の中之島店はこのタイプです。

 これらの施策を通じ、前年実績を2%上回る既存店を増やし、そこに経営資源を集中させます。80店のうち30~40店がそういった店になれば、着実に成長できる素地となるはずです。

イズミヤとの連携を強化

──並松新体制のもと、次代の成長を視野に入れた基盤固めに着々と取り組んでいる印象です。

並松 そのなかで私のもっとも重要なミッションだと位置づけるのが、当社と同じエイチ・ツー・オー食品グループ(大阪府)の一員である、イズミヤとの連携強化です。16年4月、イズミヤがグループ入りし食品市場は競争が激化するなか、相乗効果を高めていくことは、競争力を強化するにあたっての要諦になると認識しています。

 そのひとつの分野は物流。今のところ原則、各社が独自の取り組みをしており、一本化すれば大幅な合理化を期待できます。システム面も同様で、インフラで共通化できる部分については、徐々に連携強化に向けた話を進めていきたい。コストが高騰する時代にあっては、連携強化による費用低減は急務です。

──連携という点で、16年、エイチ・ツー・オー リテイリングと資本業務提携を締結した関西スーパーマーケット(兵庫県/福谷耕治社長)については、どうですか。

並松 物流やシステムはまだ難しいのですが、商品面では、すでに一部で取り組みがスタートしています。当社、関西スーパーマーケットで、ミナミマグロの共同仕入れを行っています。コンテナで輸入、各社が同じ商材を販売するという施策で効率化に貢献しています。

 これら共通化できる分野は一緒に取り組むことで効率を上げ、一方、各社の特色、強みが発揮できる部分はマーケットに応じたブランド、屋号を展開、お客様の支持を獲得できればと思います。

──エイチ・ツー・オー食品グループには食品製造や加工を手掛ける複数の企業があります。

並松 パン製造の阪急ベーカリー、加工食品の阪急フーズ、また食品加工の阪急デリカアイやPCを運営する阪急フードプロセスなどです。それらの企業と連携した商品は、すでに販売し好評を得ています。今後はイズミヤを交えて、取り組みを強化、グループにおける食品事業活性化につなげていく考えです。

各種研修で現場力を育成

──現在の消費マインドについては、どのように見ていますか。

並松 日々、お客さまの動向を注意深く観察していますが、生活防衛意識が非常に強いと感じています。商品を複数の店で買いまわる方は多く、いいものを安く求めたいというニーズが徐々に大きくなっているとの印象です。

 一方、阪急ブランドを信頼して買い物に来ていただいているお客さまも多く、そういった方の期待は裏切らないようにしたい。健康や美容関連の商品、ライフスタイルの提案に力を入れながら新しい商材にも積極的にチャレンジし、満足度の高い店づくりを進めます。

──価格訴求は強める方針ですか。

並松 激化する競争環境では、安さは重要な要素ですが、絶対的な低価格は追求しません。ただ値段のこなれたコーナーを設けるなど、お客さまが気持ちよく買い物できる手法は研究していきたい。同時に健康志向や個食対応、また話題の商品を他社に先がけて扱い、それをうまく表現できるような売場づくりも工夫、競合企業との差別化を図っていきます。

──最後に、今後の課題について教えてください。

並松 数多くありますが、教育はそのひとつです。現在、最前線でお客さまと接する店長を対象にした研修を定期的に実施しています。また新卒者を対象にした教育にも力を入れており、徐々に人材が育ちつつあると手応えを得ています。

 これらにより現場力を伸ばし、ひいては着実に成長できるような基盤を固めていきます。