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すべて“自前主義”で店舗事業より高い利益率を実現=ヨドバシカメラ藤沢 和則副社長兼CIO

家電量販店大手ヨドバシカメラ(東京都/藤沢昭和社長)のEC事業「ヨドバシ・ドット・コム」が好調だ。2017年3月期にはEC売上高1000億円を突破し、全体の売上高構成比15%を超えた(店舗事業も合わせた売上高は6580億円)。快進撃を続ける要因は何か、EC事業を統括する藤沢和則副社長に聞いた。

ヨドバシカメラは全国に23店舗展開している

“何でも屋”をめざす、きっかけはマンガ

──ヨドバシ・ドット・コムは、家電以外にもさまざまな商品を販売しています。品揃えについての考え方を教えてください。

藤沢 もともと当社はカメラの販売から始まりましたが、今では日用品や食品までほとんどカバーするようになりました。

 ファッションや酒類などはこれからですが、基本的には全商品、全カテゴリーを揃えることをめざしています。

 同時に、高い専門性を重視しています。品揃え、商品知識、サービス、価格を店頭だけでなく、オンラインでも提供できるようにしたいと考えています。

──家電以外の商品を販売するようになった経緯を教えてください。

藤沢 オンライン販売は1990年代後半に開始し、もともと店頭で販売している商品のみを販売していました。

 家電以外の商品を販売し始めたきっかけはマンガのヒットです。

 その頃、店頭もオンラインも、品揃えを強化しようと試行錯誤していました。そのなかで、ゲームやマンガを売ってみようという案が出て、どうせやるなら専門店レベルの品揃えでやろうという話になりました。

 店頭とオンラインの両方で販売し始めたところ、けっこう売れました。このヒットを見て、一般書籍もニーズがあるのではないかと思い、書籍も売り始めました。これもよく売れました。

ヨドバシ・ドット・コムの売上高は1000億円を超えた。販売数は食品、日用品が多い。

 次に日用品です。シャンプーやトイレットペーパーなどを販売し始めました。

 このあたりから店頭とオンラインでニーズが違うことに気づきました。お客さまのECへの期待がだんだん高まってきて、次々と品揃えを拡大していきました。

 同時に、メーカーから提案をいただくようになりました。ある取引先から、「売る場所をこれまでは流通が決めてきたが、これからは買う場所をお客さまが決める時代。どんどんチャレンジしてほしい」と言われ、この言葉が励みになりました。

 今では靴やスポーツ用品も販売しています。

──オンラインではどのような購買傾向が見られますか。

藤沢 店頭と比較すると、1点当たりの単価は低いものの、買い上げ点数は多いです。金額ベースでは家電がいちばん高いですが、販売数ベースでは日用品、食品が最も売れます。

 日用品、食品は昨対で180~200%のペースで伸びています。在庫を持てば回転するというよい循環ができています。

 家電のついでに買うという利用者も多くいらっしゃいます。水やトイレットペーパーなど、重かったり、大きくて持ち運びが大変な商品はとくに人気です。

 食品はもっと品揃えを強化しないといけません。早く一般的な食品スーパーのカバー率を超えたいと思っています。

物流・個配も自前主義、“宅配クライシス”は想定内

──ヨドバシ・ドット・コムのアイテム数はどれくらいですか。

藤沢 当社の店頭在庫は約45万アイテムですが、オンラインはその10倍以上の550万アイテムです。そのうち、即納できる在庫が70万~80万アイテム。EC売上の9割以上を即納在庫としてカバーしています。これがヨドバシ・ドット・コムの強みです。お客さまから注文の多い商品を中心に品揃えを増やしています。

──アイテム数は今後も増やしますか。

藤沢 はい。ECを拡大するなかで、いちばん課題になったのが物流センターでした。もともとかなり大きいセンターを持っていましたが、キャパシティが足りなくなり、昨年センターを移転しました。新物流センターは、さらに5倍くらい取り扱いできる余裕があります。

 在庫のアイテム数は、1000万は少し厳しいかもしれませんが、400万くらいは可能だと思っています。

──物流フローはどうなっていますか。

藤沢 東京23区とそのほか一部の市は自社配送です。川崎にあるDC(在庫型物流センター)から12カ所のデポに行き、注文先に配送されます。ドライバーも自前で抱えているので、地区ごとに割り振り、無駄なく配送することができます。そのため、配送業者に委託するよりもトータルコストは安くなっています。

 配送で問題になるのが再配達です。梱包も自社でやっています。できるだけ小さく梱包し、ポストに投函できる割合を増やすことで、再配達を減らしています。これはわれわれだけでなく、お客さまにとってもいいことですから徹底します。

最小限の梱包にすることで、ポスト投函できる比率を高め、再配達ロスを防ぐ

──ドライバーも自社で抱えているのは珍しいですね。

藤沢 この点はよく社内でも議論になります。しかし、オンラインでは購買体験の最後である「配送」がお客さまと唯一つながっているポイントです。お客さまの声を聞きやすいというメリットもあります。

 自社で仕入れ、自社で販売しているものを、自社で配送する。とてもシンプルな考えです。

──昨年から配送業者のキャパシティ・オーバーが注目され、“宅配クライシス”と呼ばれて社会現象になりました。ヨドバシカメラは今の状況を見越して自社配送を拡大してきたのでしょうか。

藤沢 そうです。配送業者はもともとEC用にサプライチェーンをつくってきたわけではありません。ECが急拡大しているので、どこかで限界が来るだろうと予測していました。

──自社配送は今後も拡大しますか。

藤沢 ええ、順次拡大します。ただ、ドライバーは人員が集まりにくいので、無理して広げるという考えはありません。

再配達は24時間受け付けており、今は従業員が対応している。

──自社配送の対象エリアでは、注文から2時間半以内に配送する「ヨドバシエクストリーム」を展開されています。なぜ2時間半なのでしょうか。

藤沢 30分以内にピッキングし、2時間以内に配送するから2時間半です。ただ、そこまで速くするよりも、全体的なサービスを底上げするほうがよいのではないか、という意見も社内にあります。

 再配達は24時間受け付けており、今は従業員が対応しています。できる限りお客さまの要望を知るためです。いずれシステム化していきたいと考えています。

店舗、ECで同じ販売価格、利益率はECが上回る

──ヨドバシ・ドット・コムの利用者層について教えてください。

藤沢 店頭とオンラインの両方を利用するお客さまが圧倒的に多いです。お客さまに都合のいいように使っていただければと思います。

 家電製品はほかの商材に比べると、単価が高く、店頭で見て即決で買うというより、じっくり考えてから再び買いに来るお客さまが多くいます。店頭で見てもらったものを、オンラインでも買えるようにするというのはお客さまのニーズにも合っています。

 一方、オンラインで注文し、帰宅途中などに店頭で受け取ってもらう「店舗受け取りサービス」の利用者も増えています。以前は店頭に置いている商品のピックアップがほとんどでしたが、店頭にはない品揃えの商品をピックアップされるお客さまが増えています。

 店舗受け取りサービスは京急川崎店を除く全店で実施しており、営業時間外の受け取りに対応している店舗もあります。

──オンラインでの価格設定はどのようにしていますか。

単位:億円
図表 ヨドバシカメラの業績推移

藤沢 家電量販店は価格比較サイトの洗礼を始めに受けました。価格交渉や価格比較への対応も慣れています。

 しかし、お客さまに価格を下げてほしいと言われて下げているようではダメです。ですから、ヨドバシカメラはオンラインと店頭で同じ価格にしています。

 オンラインと店頭で同じ価格を出していると、「競合店に対応されるのではないか」という懸念もありましたが、それよりも透明性を確保することを優先しています。

──利益面についてお伺いします。17年3月期の経常利益は556億円で、売上高経常利益率は約8.4%と、業界トップクラスの水準です。EC事業の利益率は店舗事業と比べるといかがですか。

藤沢 基本的には店舗よりもオンラインのほうが利益率は高いです。自社配送を外部委託よりも効率的に運営できていることが送料をすべて無料にしても高利益率を維持できている要因の1つです。

──送料無料は今後も続けますか。

藤沢 はい、今のところ変えるつもりはありません。

今後の強化カテゴリーはアパレルと生鮮食品

──今後、ヨドバシ・ドット・コムで強化する予定のカテゴリーはどこでしょうか。

藤沢 まず、アパレルです。専任バイヤーも自前で揃えます。すでにアウトドア商材は販売しているので、スポーツ関係のアパレルを先に揃える予定です。

──アパレルの主要ターゲット層は?

藤沢 女性です。20年前まで、ヨドバシカメラの顧客層はほとんど男性でしたが、今は女性も多いです。しかし、オンライン利用者の女性比率は店頭よりも低いのが現状です。徐々に女性にもヨドバシ・ドット・コムの利便性を認識してもらえるようにしたいと思っています。

──アパレルECは「ZOZOTOWN」、「アマゾンファッション」など多くの競合がいます。すでにレッドオーシャンではないでしょうか。

藤沢 勝算はわかりませんが、お客さまのニーズがあることは確かです。こういう商品を置いてほしいという、具体的なブランド名も上がっています。

 わかってきたのは、特定のブランドをリピートして購入しているお客さまが多いということです。リピートして購入してもらえるようなブランドを揃えるつもりです。

 ですから、サイズ感も慣れているお客さまが多く、サイズがわからないというアパレルEC特有の問題もあまり深刻ではないと考えています。

──アパレル以外に強化するカテゴリーは何かありますか。

藤沢 アパレルがいち段落したら、次は生鮮食品です。ネットスーパーを展開している多くの企業がまだうまくいっていないという印象です。われわれも今はノウハウがありませんが、いろいろ勉強して、どこかのタイミングで参入したいと考えています。

 そのほかは、既存カテゴリーを深掘りして、専門性を高めていきます。

EC比率50%の唯一無二の企業めざす

──バイヤーはカテゴリーごとにいるのでしょうか。それともEC事業専任者がいるのでしょうか。

藤沢 バイヤーはカテゴリーごとにいます。バイヤーに限らず、店舗事業に重点を置くカテゴリー、オンラインに重点を置くカテゴリーがありますが、オンライン専業という社員は1人もいません。物流や配送も含め、すべて店舗とオンラインは一体でとらえています。

──販売する商品はすべて自社で仕入れているのですか。

藤沢 はい、自社で仕入れたものを、自社で販売し、配送します。マーケットプレイス型は今のところやるつもりはありません。ただ、将来的には検討事項になると思います。

──ECではアマゾンジャパン(東京都/ジャスパー・チャン社長)が快進撃を続けています。どのようにお考えですか。

藤沢 アマゾンの進攻で店舗事業は大きな影響を受けました。しかし、影響を受けるということは、実店舗とECの両方を使っている利用者が多いということです。売上は影響を受けましたが、店頭に来るお客さまが減ったというわけではありません。

 お客さまが店頭に来てくれるということは、選択肢に入っているということです。選択肢にも入らなくなれば、それはサービスレベルが低いという意味です。店頭とオンラインでつねに選択肢に入れてもらえるようにしていきます。

──競合対策として、どのようなことに取り組んでいますか。

藤沢 競合対策というわけではないですが、大きく3つあります。

 1つめは配送の品質を上げること。無理して上げるのではなく、無駄をなくすことで実現します。

 2つめは専門性。お客さまから迷わず、「ヨドバシだと安心」と思ってもらえるようにします。

 3つめは在庫の充足率です。お客さまが欲しいと思ったときに買えるように、つねに9割以上をキープします。

──今後の課題は何ですか。

藤沢 1つ挙げると、アプリです。今テコ入れしている最中です。“スマホファースト”と数年前からいわれていますので、一刻も早く対処しなければなりません。

スマホファースト”に対応するため、アプリの改善に取り組んでいる

 また、スマートスピーカーの時代も来るはずです。スマートスピーカーに対応したアプリケーションも自社で開発するつもりです。

──将来的にECの売上高構成比をどこまで高めたいとお考えですか。

藤沢 店舗で半分、オンラインで半分をめざします。どちらかに軸足を置いた企業はありますが、同じ比率という会社はまだありません。これを実現する初めての会社になりたいと思います。