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佐藤勝人の「本当に強い店」づくり#1 「強い店」の条件とは何か 今めざすべき地域から支持される店

本当に強い店づくり

消費環境が大きく変化しているこの時代、生き残りをかけた店づくりの方針として、さかんに「強い店」というキーワードが繰り返されています。「強い店」とは何か、どう作るべきかをわかりやすく指南する連載「佐藤勝人の『本当に強い店』づくり」。第1回は、「強い店」とは一体何がどう強いのか、その正体に迫ります。

「強い店」は何がどう強いのか

 突然ですが、「強い店」とは一体何なのか、考えてみたことはありますか。「強い店」という言葉には、“何がどう”強いのかが示されていません。ここが「強い店」の定義を曖昧で方向性の定まらないものにし、「強い店を作ろう!」と意気込んでもうまくいかない原因を作り出しているように思います。

 単刀直入にいうと、私の考える「強い店」とは、「地域に根ざし、密着し、地域の人々を第一に考えられる店」のことです。そこに業態の違いや、品揃えの豊富さや、商圏人口の多さなど、多くの人が重要だと考えている要素は実は関係がありません。地方のどんな小さな店でも、やり方を間違わなければ「強い店」になれるのです。逆にいえば、一大チェーンや有名店が「強い店」とは限りません。それはなぜなのか、順にお話ししていきましょう。

「地域一番店」であること

 故・渥美俊一氏が確立した「チェーンストア理論」は皆さん当然ご存知でしょう。かいつまんで言うと、「本部に権限を集約し、標準化された均一な質のサービスを多店舗で展開するための手法」です。このチェーンストア理論によって1970〜80年代、各業界でチェーン展開が活発に行われました。そして日本全国に増殖したチェーンストアが、日本人の消費意識に多大なる影響を与えたのです。

 外食を例に取ってみると、今、みなさんが初めての店にふらっと入っても、そこそこおいしくて手頃な値段のものが食べられるのは外食チェーンのおかげです。お客に「これならあのチェーン店で牛丼を食べた方がマシだったな」と思われるような店は大小関係なく生き残れないからです。チェーン店のおかげで日本人の“平均的な品質基準”はずいぶん引き上げられました。

 ただし、チェーン店はあくまで品質基準を底上げしている“標準化”された店です。商圏の中で、お客から圧倒的な支持を獲得することをめざす店ではなく、言ってしまえば1店舗は「薄く広く」、ドミナント展開による組織力でシェアを獲得することが、効率の良いチェーン店の定義だったわけです。しかし、結局お客に支持されていない店は、世の中のちょっとした変化ですぐに客離れが起こります。つまり、熱烈に支持されている「地域一番店」であることが、どんな変化にも耐えうる「強い店」の条件なのです。

貧しくなった日本人の消費行動

 それでは、「地域一番店」になるためには何が必要なのでしょうか。それを説明するために、少し日本人の消費行動の特徴についてお話ししましょう。

 ファストファッションに身を包みながら、ブランド物の高級バッグを持ち、高級マンションと安アパートが混在する地域に暮らす、というのは当たり前のようで実は日本ならではのことです。アメリカなどでは下流、中流、上流の棲み分けがハッキリしています。上流の人々は中流・下流の人々が暮らす地域には住みませんし、上流に相応しい品物を、相応しい店でしか購入しません。つまり、アメリカ目線で言えば上流なのか下流なのかわからない、入り乱れた選好をするのが日本人なのです。

 バブル崩壊後、日本人は少しずつ貧しくなっています。目減りしていく給料の中で、「これだけはランクを下げられないもの」にそれぞれがこだわった結果が、この特徴ある選好です。しかし同時に、貧しくなったことで日本人は“モノの価値”がよりわかるようになったとも考えています。

 具体的な例を挙げてみましょう。仮にあなたが、有名なコーヒーチェーンで、一杯500円のオーガニックコーヒーを毎朝買っているとしましょう。しかし、給料が下がり今まで通りには買えなくなってしまいました。あなたはどうするでしょうか。買う頻度を減らしますか?それとももっと安い店に通いますか?

 しかし、似た味で300円のコーヒーでも品質に不安のあるものは買いたくないでしょうし、味が劣っているならなおさらです。つまり、いくら世の中が不況で貧しくなったからといって「安かろう悪かろう」では、お客は買わないのです。一度豊かだった頃に設定された選好の品質やランク、前述のチェーン店によって引き上げられた自分の品質基準や価値基準を、人間はそう簡単に下げられないのです。

「濃く狭い」領域でシェアを獲得する

 では、「同じ品質のコーヒーをより安く売る店」があったらどうでしょうか。ほとんどの人は、迷わずそのお店に鞍替えするでしょう。これがつまり「強い店」なのです。冒頭で述べた「強い店」の条件、「地域に根ざし、密着し、地域の人々を第一に考える店」とはつまり、自分の店の売上や利益率よりも先に、時流に合わせて地域の人々が今何を望んでいるのかをよく観察し、人々の生活を健康で豊かなものにすることを考えられる店なのです。
 そんなことをしたら経営が立ち行かなくなるじゃないか、と考えるかもしれません。しかしそれは昨日までの作業効率の話、「同じ品質のコーヒーをより安く売る店」は、地域から熱烈な支持を集めることができます。かつてのチェーン店がめざした「薄く広い」販売シェアではなく、地域のニーズに全力で応え、たとえ分野は狭くても圧倒的な強さを持つ、いわば「濃く狭い」販売シェアの獲得意識こそ、本当の意味での「強い店」を作るベースであることを忘れてはならないのです。

 次回以降では、「販促」「人材育成」「商品」など、店を構成する要素ごとに分け、ひとつずつ「強い店」になるための方法を解説していきます。