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出直るセブン&アイ株 Speedway買収への期待、脱コングロマリットへの思惑はどこまで織り込んだ?

出直るセブン&アイ株

 セブン&アイ・ホールディングスの株価が出直っています。

 2021年5月末の株価4736円は半年前と比べ+43%高く、小売セクターの中ではZOZOFOODLIFE COMPANYとともに高いリターンを生みました。東証株価指数はこの間+10%上昇したので、セブン&アイ株が傑出したことがわかります。

  ただし、冒頭で「出直った」と述べたように、その前の6ヶ月(2020年5-11月)は▲10%の下落を余儀なくされました。コロナ禍によるステイホーム・リモートワークの定着で、国内コンビニエンスストア(コンビニ)・百貨店・レストランなどに後半なマイナス影響が出たことが原因です。さらに厳しいコロナ禍にあった8月に米コンビニ・スピードウェイ(Speedway)に対する大型買収が発表されたことも響いたと思います。

  この経緯を踏まえると、2020年11月以降の目覚ましい株価の回復は、米日におけるワクチン接種の浸透によって内外の事業環境が正常化に向かうというポジティブな期待が強まったためと考えられます。

セブン&アイの株価はビフォーコロナよりも高い!?

  しかし株価をよくみると、ビフォーコロナであった2019年12月末の4003円よりも+18%高い水準にあります。この上昇率は同期間の東証株価指数の上昇率+12%よりも大きく、株式市場全体の株高だけでは説明できない同社固有の株主価値の「上乗せ」を示唆しています。概算で言えば+10%相当、金額で言えば3500〜4000億円相当がこれにあたるのではないでしょうか。

  筆者は、「上乗せ」部分に大きな興味を持っています。

  なぜならば、仮にワクチン接種浸透後に国内のヒトの流れが回復しても、それだけで事業環境が大きく好転するとは考えにくく、このような上乗せは難しいと考えるからです。

  具体的には、筆者は、今後リモート・テレワークが一定程度定着するためヒトの流れがフルに元通りにならず、コロナ禍で苦戦を強いられた国内コンビニ・レストラン事業が完全に回復するのは難しいと考えます。百貨店事業の収益性が今後劇的に改善するとも想像できません。また、ビフォーコロナの時期に課題となっていたコンビニ業界のオーバーストア懸念、人手不足、ドラッグストアなど異業種との競合懸念がすぐに払拭されることも難しいのではないでしょうか。

 

Speedway買収効果を織り込み始める!?

株式市場はすでにセブン&アイ株価にSpeedwayを織り込んでいる?(2020年 ロイター/Kamil Krzaczynski)

  ここで忘れてはならないのが、2019年12月末には折り込まれていなかったSpeedwayの大型買収(20208月発表)の株式価値に対する影響です。以下の簡単な試算に従うと「上乗せ」を説明できそうです。

 セブン&アイは本買収が2024年度に連結EPS50円押し上げると説明していますので、この50円に自己株式を除いた株式数883百万株とPER15倍をかけると6600億円の株主価値の増加要因になります。これを少し割引し、上記で触れた今後継続しそうな事業環境のマイナス要因を加味すると、上記の上乗せ3500〜4000億円が見えてきます。

 株式市場は、米国のワクチン接種率の高まりをみて、Speedwayの統合効果をセブン&アイ株式に織り込み始めたと考えて良さそうです。

順延された新中計にも期待が醸成されていた!?

  株式市場がSpeedway買収効果を織り込み始めたことは間違いないと思いますが、筆者はもう一つ別の期待を強めていると推察しています。それは、同社がいよいよ不採算事業である百貨店事業・専門店ないしスーパーストア事業の切り出しを、来るべき新中期計画でコミットすることです(この新中計発表は、Speedway買収承認に障害が出たため、順延されています)。

  2021年5月12日にバリューアクト・キャピタルが同社の株主になったことが報じられました。コンビニ事業に特化すべきと主張している模様です。興味深いことに、この報道が出たあと一旦株価は上昇したものの2日後には下落に転じ、5月末までを通算すると株価に大きな変動はありませんでした。これは、株式市場が「すでに同社の脱コングロマリットを織り込んでいる」というのが筆者の見立てです(バリューアクトが登場しても脱コングロマリット化は実現しないと株式市場が考えているのかもしれませんが)。

脱コングロマリットの必然

  筆者は同社がコンビニ事業に特化し、これに対して今後シナジーが乏しい事業は切り出すべきだと考えます。

  具体的には、百貨店事業、専門店事業に含まれるデニーズとニッセンが切り出しの対象になるでしょう。これらは低収益、低資産効率でキャッシュフローも芳しくなく、しかもコロナ禍でこれらの事業が、国内コンビニ事業が苦しいときに全体の事業の下支えにならなかったことを露呈してしまいました。

  各社の不動産の含み損益の状況について精査ができておりませんので、これをひとまず除外して考えた場合、これらの子会社株を譲渡してもこれまでの損益推移からみて多くのキャッシュインは見込めないかもしれません。ただし、百貨店の負債は一定程度引き渡すことは可能だと思いますし、百貨店と専門店で想定されるマイナスのフリーキャッシュフローを止めることができるはずです。

新中計は期待を超えるか?

  以上のように、筆者は最近のセブン&アイの株式時価総額の「上乗せ」部分にはSpeedway買収効果と脱コングロマリット化コミットの2つの要素が働いているとみています。

  したがって、来る新中計ではこの2点それぞれに有効回答を期待したいと思いますし、そうでなければ株主は黙っていないと思います。確かにこれまで百貨店事業では不採算店舗の閉鎖・譲渡を進めるなど事業効率の改善に努めてきたことは間違いありませんが、不採算事業の止血が完了し成長軌道に回帰する道筋が描けたとは残念ながら言えません。価格の問題を別にすれば、切り出すべき事業の買い手が全くいないとも考えられません。

  さらに、セブン銀行との親子上場問題を解消するのか、コロナ禍で売上がいまひとつに終わったイトーヨーカ堂をどうするのかという点も重要論点です。

 1日も早い新中計の発表を心待ちにしています。