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ZHD戦略分析 PayPayによる電子決済軸にグループ経済圏拡大、国内ECの「覇権」を奪う

「ヤフー」「LINE」を中核企業にもつZホールディングス(HD)が4月28日に発表した2021年3月期決算(IFRS)は、売上高にあたる売上収益は15%増の1兆2058億円で2期連続の2ケタ成長となった。連結営業利益は同6.5%増の1621億円、当期利益は同14.1%減の701億円だった。新型コロナウイルスによる巣ごもり需要とスマートフォン決済「ペイペイ」の一大キャンペーンが奏功し、EC売上高が伸長。取扱高は初めて3兆円を超えた。

コロナ禍で業績堅調

 ネット企業にとって、新型コロナウイルスは生活のオンライン化を一気に加速する追い風となった。就任3年目となる川邊健太郎社長兼CEOは決算説明会の場で、「25年も経つ大きなネットのサービスのヤフーだが、インターネットのポテンシャル、また Z ホールディングス全体の組織のケイパビリティから申し上げるとまだまだ成長することができる」と力強く語った。

 実際、同社が2020年度に開発提供した生活に寄り添った機能やサービスは100を超える。日本のポータルサイトを四半世紀けん引し続ける同社は、現状に満足せず、環境の変化を敏感に捉えながらその適応のために常に進化を続けてきた。

 3月にはLINEとの経営統合が完了。これによって、同社は日本最大のポータルサイト「ヤフージャパン」による情報発信、約8600万人の会員数を誇る「LINE」によるコミュニケーション、「PayPay」による決済を手にすることになり、独自の経済圏を構築するのに十分な体制が整ったといえる。

「PayPay」 による金融サービスの活性化でめざす経済圏拡大

 キーとなるのは「PayPay」 による金融サービスの有効活用だ。川邊CEOは「サービス開始からわずか2年半だが、決済回数では(Suicaなど)交通系ICカードに匹敵するまでに成長した。 今後、PayPay を起点としたグループ経済圏を一層拡大していく」と述べた。

 大々的なキャンペーンで認知度・利用者が増大したPayPay 。一方で、グループ内での名称の違いが利用を阻害する側面もあった。そこで、決済系のネーミングを「PayPay 」で統一することで、さらなる活用促進を図っている。4月5日には傘下のジャパンネット銀行を「PayPay銀行」に社名変更している。

 ヤフーで検索し、調べ、購入を検討し予約、PayPayで決済する――。こうしたプロセスが浸透し、ワンストップで決済まで完了出来れば利便性は高まり、なにより、購入までがシームレスになることで購買率の向上にもつながる。

「シナリオ金融」を重点強化し全体の底上げ

 同社はこうした情報収集からのシームレスな購買体験を「シナリオ金融」とネーミングし、特に金融サービスの提供でその拡充に力を入れている。

 実際、Yahoo!ショッピング、PayPayモールにおいて「あんしん修理保険」の契約件数は、「超PayPay祭」1日で4万3357件と過去最高を記録。これは、商品購入時に3年、5年など任意に保険を付与できる金融商品で、「キャンペーンやユーザーインセンティブといった従来のマーケティング手法を全く使わずに獲得した実績であることが非常に特徴的だ」と川邊CEOも手ごたえを実感しているという。

 商品購入時、そのタイミングであると便利と思われる関連商品が提案され、その場で決済できる。押し付けるわけでもない、自然な流れの中での商品訴求と決済の手間を最小化した購買体験だからこそ実現できた数字といえるだろう。

 ヤフーショッピング、PayPayモールにおいても、年平均成長率がプラス25.6%と高い成長を記録する中で、PayPayやYahoo!カードによるインハウス決済比率が過去最高水準の68.2%に到達。川邊CEOも「 PayPay を起点としたグループ経済圏のユーザーの囲い込みが進んでいる」と明かし、電子決済がさらなら成長のキーと連動することを強く認識している。

 情報を提供することでは圧倒的な強さがあったヤフーにとって、支払いまでをワンストップで完結できることで、顧客の囲い込みが可能になる。逆にいえば、これまでは日本最大のポータルサイトとして膨大な数の見込み客とアプローチしながら、みすみす他のECモールへ顧客を流していたともいえる。

国内「2強」にどう立ち向かうのか

 こうした部分に長けているのがライバルの楽天だ。ECモール「楽天市場」では金融とポイントの2段構えで顧客ガッチリと囲い込み、「楽天経済圏」を構築。日本のECではアマゾンに次ぐポジションを強固なものにしている。

 同社が2強と並び、「日本市場におけるECナンバーに躍り出る」ためには、「当グループの最強セットである情報、コミュニケーション、決済」(川邊CEO)のシナジーを最大化することが必須となる。

 そのための施策として同社は「短期的には重複する事業領域の再編や新サービスの開始」を挙げ、まずはLINEとの経営統合による効果を最大化させるための事業やサービスの整理・整備に重点を置くことを明かした。

 並行して、セキュリティ面・ガバナンス強化を推進しつつ、「売場としての質の向上をできるよう物流やロイヤリティプログラムの改善 、LINE のコミュニケーション機能を最大限活用したソーシャルコマースの展開。また、各金融サ―ビスのリブランディングを皮切りにマネタイズ基盤となる会員数銀行口座数の拡大を目指す」と各アセットを磨き上げながら地盤固めを進めていく。

 その上で中長期には「 Yahoo JAPAN、 LINE、 PayPay の日本最強アセットを横断的に活用し事業シナジーを実現できるよう取り組んでいく」と述べた。

 デジタル化が標準となるニューノーマルの時代の覇権争いは、単なる顧客の奪い合いに留まらない。むしろ、いかに顧客を囲い込み、そこからどれだけデータを抱え込めるかが焦点といえる。だからこそ入り口と出口を抑え、顧客情報をデータとして吸い上げ、AIなどで解析し、いかにマーケティングにつなげられるかが肝となる。

 情報、コミュニケーション、決済を押さえ、さらなる飛躍への盤石の体制を整えたZHD。だが、グローバルではGAFA、BATがはるか先を行く。国内ではアマゾン、楽天が立ちはだかる。

 金融領域の動きは激しく流動的で、変化のスピードも速い。同社は結果を出すひとつの目安として「2020年前半」を設定する。その時までにPayPay、LINEが電子決済領域でどれだけの影響力を持っているのか。まずはそこに注目だ。