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ドラッグストアの針路 #9 インバウンド消滅で鮮明になるチェーン間格差

ドラッグストア企業の業績に格差がつき始めている。インバウンドを取り込んできたチェーンが停滞する一方、食品拡充型のチェーンが急成長中だ。「(インバウンドがコロナ禍以前の状態に戻るには)数年の時間がかかる」と観測されており、不透明な状況が続く。ドラッグストアの“最強”フォーマットは「食品拡充型」か、それとも「全方位型」か。岐路を迎えている。

「インバウンド頼み」のチェーンは大打撃

 北海道を地盤とするサツドラホールディングス(以下、サツドラHD)は、地域に密着したドラッグストアチェーンとして、コロナ禍以前まで順調に業績を伸ばしていた。北海道は訪日客の人気スポットとして支持されていることもあって、サツドラHDもインバウンド向けの店舗、商品政策などに力を注いできた

 しかしこれが裏目に出た。コロナ禍でインバウンドが雲散霧消し、同社の21年5月期業績予想では、売上高は対前期比4.8%減、営業利益は同39.1%減の減収・営業減益を見込む。インバウンド対応型の店舗を急ピッチで閉鎖するなどの対応をしているものの、業績への影響は避けられない見通しだ。

 そのほかインバウンドを追いかけてきたドラッグストアチェーンとしてはマツモトキヨシホールディングス(千葉県:以下、マツキヨHD)が代表格だが、マツキヨHDも21年3月期の業績予想では、売上高が同3.5%減、営業利益が同6.8%減とこちらも減収・営業減益となる見通しだ。

 マツキヨHDはココカラファイン(神奈川県)との経営統合で相乗効果を引き出し、この情勢を乗り切ろうとしているが、「マツキヨの“インバウンド仕様”の商品政策、“化粧品主導型”ともいえるフォーマットの転換はそう簡単ではないのでは」という指摘もある。

 このようにインバウンド激減の後遺症がドラッグストア各社に大きな爪痕を残している。

 従来のように、人々が世界各地を旅行できるようになるまでには時間がかかりそうだ。国連世界観光機関は2021年1月、世界の観光市場の予測を発表し、世界の国際観光客到着数が19年の水準に戻るのは早くても2年半から4年かかると予測している。

「フード&ドラッグ」は軒並み好調

 インバウンド需要の苦戦が続く一方で、業績を伸ばしているのが食品を強化したドラッグストアフォーマット、いわゆる「フード&ドラッグ」を展開する企業だ。

 いまや食品強化型ドラッグストアの代名詞的存在となっているコスモス薬品(福岡県)の21年5月期第2四半期の売上高は、対前期比12.0%増の3641億円、営業利益は同52.9%増の182億円だった。コスモス薬品ばかりではなく、クスリのアオキホールディングス(石川県)、「ゲンキー」運営のGenky DrugStores(福井県)なども業績を伸ばしている。

 こうしたフード&ドラッグ業態の伸びを横目で見ていた大手も動き出しており、ツルハホールディングス(北海道)は今期(21年5月期)中に全約2400店のうち700店に生鮮食品の売場を設置し、来期(22年5月期)中にはさらに200店を上乗せする計画を打ち出している。業界トップのウエルシアホールディングス(東京都)も店舗数はそれほど多くないとみられるが、生鮮食品の導入を進めている。

 コスモス薬品は生鮮食品を扱わず、加工食品や冷凍食品、チルド食品といったカテゴリーに絞った形で食品売場を展開してきたが、大手チェーンの生鮮食品への相次ぐ導入拡大などもあってか、本拠地である九州地区などで生鮮食品の取り扱いを開始。じわじわと扱いを増やしている。

 と言っても、ドラッグストアの生鮮食品売場の多くはコンセッショナリー(委託販売)であり、今後本格的に力を入れてくかどうかは不透明だが、医薬品や日用品があり、食品も買える便利な店であれば消費者の支持が集まるのは間違いないだろう。今後もドラッグストア業界では、商品政策を柔軟に変化させたチェーンと、そうでないチェーンの格差が拡大していくのか――。