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2025年度売上高1兆円に向け、店舗を地域の中心核にする=アークス 横山 清 社長

北海道・東北を地盤とする食品スーパー(SM)大手のアークス(北海道)。M&A(合併・買収)を活用し同業を仲間に入れ成長に結びつけてきた。2015年度(16年2月期)に売上高5000億円を突破したアークスは、2025年度に売上高1兆円をめざしている。事業エリアでの存在感を増すアークスはどんなSM像を描いているのか。横山清社長に聞いた。

5年間で100億円を投資 グループのシステムを統合

よこやま・きよし●1935年生まれ。北海道出身。60年北海道大学水産学部卒業後、野原産業入社。61年大丸スーパー入社。85年同社代表取締役社長。89年ラルズ代表取締役社長。2002年アークス代表取締役社長に就任。07年ラルズ代表取締役会長に就任。

──2016年をどのように振り返りますか。

横山 毎年、グループの役員合宿研修会を開き、現状を分析すると同時に、これからの課題を検討しています。昨年は、長期目標として定めている、食品小売を中心に2025年度(26年2月期)連結売上高1兆円を達成するための道筋はどうあるべきかを議論しました。アークスは15年度に売上高5000億円を超えました。事業を展開しているのは全国ではなく、北海道と東北という限定地域です。これまで、各地域の食品小売市場で少なくとも30%のシェアを確保しようという目標を掲げてきました。現在、この目標はおおむね達成しています。16年度は1兆円のための1年目を踏み出し、17年度は2年目に入るわけです。

 各事業会社は共通の課題も抱えています。規模の問題もあるし、地域で抱える課題もあります。こうした課題を改めて分析し、検証しました。その結論は、われわれが標榜する、各事業会社の自主性を重んじる「八ヶ岳連峰経営」という方向性に間違い はないということでした。

 景気のよしあしに関係なく、人間が住んでいるところにはライフラインが必要です。「食」の提供というのは、電力や水道などと並ぶライフラインだと考えています。SMはライフラインの1つとして非常に重要な役割を担っています。気障な言い方かもしれませんが、喜びと使命感を持てる仕事だということを再確認したところです。

──昨年3月、子会社を合併しました。

横山 昨年2月までは10社の事業会社がありましたが、合併で8社になりました。篠原商店と道東ラルズが統合し、商号を道東アークスとしました。東北もそうです。岩手県盛岡市に本部を置くベルプラスとジョイスの2社が統合し、ベルジョイスとなりました。リボーン、生まれ変わりとわれわれは言っています。それぞれ合併によって経営効率を高めて、お客さまに喜ばれるサービスを提供できる体制にしたところです。

──6月には、ドラッグストア(DgS)大手のサンドラッグと合弁会社サンドラッグエースを設立しました。

横山 ドラッグストア市場は、これからまだまだ伸びるという見方もあれば、もう伸びないという見方もあります。ドラッグストアは今、食品を強化してSMを侵食してきています。われわれの場合は、食品と医薬品を扱うフード&ドラッグの展開を考えています。SMのわれわれがドラッグストアもどきの店をつくっても勝てるわけがありません。ですからサンドラッグと手を組んだのです。

──大規模なシステム投資をすることを発表しました。何を実現しますか。

横山 5年間で100億円を投資してグループの情報システムを全面刷新することを機関決定しました。グループのシステムを一本化し、最も効率のいい、お客さまに喜ばれる組織をつくっていきたいと考えています。現在、「システム統合基盤構築プロジェクト」では具体的な計画を策定し動き始めたところです。SAPジャパンという非常に高いスキルを持ったソフトウエア会社のシステムで、国内食品小売業ではほとんど導入実績がありません。しかし、これを何とか完成させて、これからわれわれのグループに入る同業に安心して仲間になってもらえるようにしたいと思っています。

 各事業会社を画一的に管理しようとするとどうしても無理が出ます。これまでは、店のサイズや品揃えなどを規格化・標準化して、それにお客さまが反応してくだされば効率がよく、大小さまざまなタイプの店を持っているのは効率が悪いと言われてきました。標準化すれば管理しやすくなるし、収益も上がります。けれども今は、標準的な店舗をつくるだけの土地がなくなってきています。ですから、小型店舗に来られるお客さまであっても、大型店舗に来られるお客さまであっても、それらを束ねて購買履歴データ処理・分析することによって、次のマーチャンダイジングに備えられるシステムをつくり上げたいと考えています。

 SMは情報システム活用でコンビニエンスストア(CVS)に遅れを取っています。CVSは情報システムを活用することで高い生産性を実現しています。われわれもデータを処理・分析し、経営に生かしていきたいと考えています。

全員参加経営で地域創成につなげる

──17年度はどのような方針で経営に臨みますか。

2017年、アークスは全員参加経営をめざす。グループの情報システム統合も本格化させる

横山 今年の年頭所感は「全員参加経営 システム統合を軸に地域創成の中心核となりWIN6を推進する」としました。まず、事業会社はそれぞれ置かれた環境は異なりますが、全員参加の経営をめざそうということです。そして、SM経営においては、会社としての信用もさることながら、何と言っても店舗が非常に重要です。システム基盤を整えながら、店舗が地域社会の真ん中にあって、食品の販売だけでなく地域住民に対するサービスを提供する。それが地域創成にもつながるという意味を込めています。

 われわれは共同仕入れ機構のCGCと組んで、「お料理する人を応援します」というキャンペーンを展開しています。人間は自分で料理して食べたいという願望を持っています。ですから、人間らしい生き方をするための提案をする必要があります。「そんな生活をしていたらまずいんじゃないですか」とお客さまに問いかける。「余計なことを言うな」と言われるかもしれませんが、そういう提案をどんどん出していく。衣食住を充足させて精神的にも肉体的にも健康な生をまっとうしてもらえるようなお手伝いをする。それも地域創成につながるはずです。ある意味では、新しく生まれ変わっていくような生き方ですね。その中心核になるのが店舗なのです。

店舗が地域の中心的存在となるべく、住民へのサービス強化も検討している

 50年ほど前に米国の地方SMに行ったところ、店長がその地域の有名人になっていました。お客さまと店長がニックネームで呼び合っている。ああいうものがこれからは大事になります。「地域行事には忙しくて出られない。コストもかかる」というのではダメなのです。

 米ホールフーズ・マーケット創業者のジョン・マッキーは著書『世界でいちばん大切にしたい会社』の中で、一方が儲かれば、もう一方は損をするのではなくて、お客さま、従業員、取引先、投資家、地域社会、会社というステークホルダー6者が利益を得るような関係を築くのが重要だと説いています。これを実現するのは簡単なことではありませんが、着実に推進させていきたいと思っています。その元年が17年です。

──店舗が地域の拠点になるのは、経営効率の点でデメリットではありませんか。

地域貢献の1つとして、レジ袋を有料化し北海道の高校生への奨学金給付事業を開始した

横山 経済的にも環境的にも厳しい時代ですから、確かにそういう面があるでしょう。ただ、われわれの仕事は、少しでも世の中の役に立ちたいということです。われわれは地道に豆腐1丁を売ってきました。これからもやっていかなくてはなりません。それによってお客さまの暮らしを豊かにするお手伝いをするのです。

 CGC北海道は、レジ袋を有料化して一般社団法人みどりとこころの基金に寄付しています。これを原資にした、月5000円の給付型奨学金を始めました。現在対象者は120人です。地域の中心核になるというのはそういうことです。今後はSM店舗に行って登録すれば、いろいろなサービスや相談が受けられるようにすることも検討しています。われわれは今まさに地域創成のスタートラインに立ったところです。

規模やシステムのメリットをM&Aでどう生み出すか

──いわゆる個店経営については、どのように捉えていますか。

売れ筋でなくてもリピート客がいれば、その商品を揃えることが店舗の個性につながる。アークスの新システムはそれを可能にする

横山 1店1店が個人商店のように経営すると誤解されがちですが、そうではなく個店経営というのは個性を発揮できる店舗をつくっていくことだと認識しています。

 新しく導入するシステムもそれに寄与するでしょう。これまでは規格化・標準化が高効率であるという観点から、たとえば豆腐を20種類扱うよりも5種類に絞ったほうがいいと考えてきました。けれども、1日1丁しか売れないような豆腐でも、必ずこの豆腐が欲しいというお客さまがいるとすれば、その商品があるかないかでお客さまの来店動機は変わります。このようなデータを人が管理するのはとてもできませんが、システムなら可能になります。3日に1回、このお客さまが必ず購入するということがわかれば、ちょうど購入されるタイミングに合わせて陳列する。このようなデータ管理をシステムでサポートすることで、お客さま満足度が高くなります。

──SMでは人手不足問題が深刻化しています。取り組んでいることはありますか。

強化部門である総菜では、センターの活用も推進する。外国人技能実習生も今年から受け入れ始めた

横山 まずは定年を引き上げなくてはいけません。働きたいと思っている人はたくさんいます。そういう人たちが働きたいと思うような職場をつくることが必要です。ただ人手が足りないところは補うしかありません。そこで、取り組み始めたのが、生鮮センターや総菜センターでの外国人技能実習生の受け入れです。現在、ミャンマーから実習生を受け入れており、総勢88人になっています。そのほかにも、生鮮センターや総菜センターの増強があります。昨年12月に、事業会社のラルズと東光ストアが共同で使用する「ラルズ 東光生鮮流通センター」(石狩市)が完成しました。両社は競合する店舗もあるのですが、共同でできるものを増やし効率を高めていこうと考えています。

──総合商社が小売業との関係を深めています。

横山 商社が主導して話を進めれば、小売業は旗幟鮮明にして特定の商社との関係を持つことになります。小売大手2社に商社が関わっていますが、商社が主導しているわけではありません。食品卸売業にはすでに商社色がついていますが、小売業との攻防戦が始まるのはこれからです。商社の傘下に入ったり、商社への依存度を高めたりする企業が増えるのは間違いありませんが、一方で自主路線でそれらの企業を凌駕するような高い経営能力をもった企業も残っていくでしょう。

 当社も三菱商事から2人、三井物産から1人の人材を受け入れています。特定の商社の“色”がつくと、その系列の食品卸だけと取引をしなければならなくなります。これからわれわれの仲間に入ろうとしている企業にもいろいろな事情があります。旗幟を鮮明にすることによって自らの行動範囲を狭くしかねない、非常に難しい時代ですが、5年もすればこうした状況はクリアになっていくと見ています。

──売上高1兆円に向けてM&Aが重要なカギを握ります。今後どのように事業エリアを広げますか。

横山 北関東に進出するのではないかと言われていますが、全国からお話をいただいています。ただ、事業会社としてアークスにぶら下がっているだけでは意味がありません。エリアを徐々に拡大し、規模やシステムのメリットを生み出せるようにすることが必要です。

 単に値段を安くして売上を増やすという方法は通じない時代です。規模は利益を生み出す力を持っているわけですが、大手が苦境に陥った歴史を見れば、それだけでは足りないことが明らかです。たしかに規模拡大の必要性はあります。ただ、それは少なくとも、われわれの場合は東京以北においてです。すでに北海道と北東北のシェアが30%近くに達しています。そういうエリアを拡大していけば、さらに西へ行くかもしれません。

 もう1つ重要なのは信頼関係です。相互信頼こそが成功の基になります。しっかりとした関係をつくりあげることが大事になります。

──後継者についてはどのように考えていますか。

横山 これはアークスグループで最大の課題です。会長は私の4歳下、副会長は私と同い年です。後継者は、事業会社の中から登用するか、商社、卸売業、銀行などから招くかです。どちらがいいとも言えませんが、アークスは純粋持ち株会社ですから、事業会社の中から人材が出てくるのが望ましいでしょう。

 「ワイガヤ」(ワイワイガヤガヤ)という会議の手法があります。われわれもワイガヤです。電話やレポート1枚で営業報告をすることも可能でしょうが、各事業会社の経営者が一堂に会することによって各社にどういったことが起きたか、どのように対処したのか、お客さまはそれをどう見たのかということを共有する。経営会議そのものが教育機関です。3年、5年のレンジでいけば、必ず世代交代があります。そういう面では、こうした場こそが後継者の養成所だと思っています。