福岡県と佐賀県で事業を展開する西鉄ストア(福岡県)。西日本鉄道(福岡県/倉富純男社長)傘下の食品スーパー(SM)で、現在、経営基盤の強化をテーマに掲げ、中期経営計画を推進。総菜を中心とした商品力の強化や店舗の営業力の向上に取り組む。競争の厳しい九州でどう戦うのか。今年6月社長に就任した玉木浩氏に聞いた。
群雄割拠の北部九州 さらなる差別化に注力
──7年前の2009年に西鉄ストアに入社されています。
玉木 福岡県北九州市にあった百貨店のそごうを経て、新日本製鐵(現・新日鐵住金)の子会社で福岡県北九州市を地盤とするSM、スピナに入社しました。スピナは06年に西日本鉄道の子会社となり、09年に西鉄ストアと合併しました。西鉄ストアでは、店舗を管轄するブロック長、販売本部長、営業統括本部長兼販売本部長などおもに営業畑を歩いてきました。
今年6月30日付で社長に就きましたが、歴代社長はこれまで西日本鉄道の出身者でしたから、西鉄ストアで西日本鉄道出身ではない初めての社長となります。
──西鉄ストアは北部九州を商勢圏としています。競争環境をどう見ていますか。
玉木 食品小売市場は、イオン九州(福岡県/柴田祐司社長)さん、イズミ(広島県/山西泰明社長)さんの2社が大きな存在感を示しています。そのほかは中小規模のSMが多く、まさに群雄割拠の状態にあると言えます。当社を含め、年商600億~800億円規模の企業が数社あるほかは、200億円に満たない比較的小さな規模のSMが大半を占めています。
また九州は、同業のSMだけでなく、ディスカウントストア(DS)や食品の取り扱いが多いドラッグストア(DgS)が勢力を拡大しており、業態の垣根を越えた競争が激しさを増しています。
──そうした競争環境のなかで、どのように戦う考えですか。
玉木 当社は西日本鉄道というブランドのもと、お客さまから強い信頼を寄せていただいていると感じています。いち早く「安全・安心」に取り組み、鮮度が高く、品質のよい商品の品揃えに力を入れてきました。しかし近年は、競争が激化するなかで、さらなる差別化策が必要だと考えています。
当社は現在、16年度(17年4月期)を初年度とする3カ年の第14次中期経営計画(中計)を推進しています。第13次中計では「構造改革」をテーマに掲げ、積極的に店舗改装を進めました。第14次中計では、「安定的経営基盤の確立」をテーマに、引き続き店舗改装を進めるとともに、MD(マーチャンダイジング)改革に取り組む方針です。
都市型の小型SM「レガネットキュート」も展開
──「レガネット」を屋号とする店舗を増やしています。どのような店舗政策を考えていますか。
玉木 当社の店舗は、西日本鉄道沿線の駅前や郊外にあり、店舗規模はさまざまです。現在、力を入れているSMの主力フォーマットが「レガネット」です。当社が展開する59店のうち、14店が「レガネット」の名を冠しています。売場面積400坪を標準として、生鮮食品を強化するほか、鮮度、品質にこだわった商品を随所に差し込んでいます。即食商品の総菜を充実させているのも特徴で、当社で最も競争力があるタイプのSMです。全店を「レガネット」に転換するつもりはありませんが、現在、新規出店や既存店改装のタイミングで店舗数を徐々に増やしてきています。
売場面積200~300坪タイプが「レガネットマルシェ」です。本来は400坪の「レガネット」を増やしたいところですが、適地が少なくなっているため、やや小ぶりのSMとして開発しました。このサイズの店舗には従来、プロセスセンター(PC)から生鮮食品を届けていました。そのため、生鮮食品の売場には従業員を配置していませんでしたが、「レガネットマルシェ」には従業員を配置して鮮度管理を強化し、商品を提供するようにしています。
そして、新しいタイプのSMとして出店しているのが「レガネットキュート」で、現在5店舗あります。売場面積100坪の都市型小型店舗で、キャッチフレーズは「大きなコンビニ、小さなスーパー」です。生鮮食品は使い切りの少量パックを充実させ、半調理品、総菜を強化しています。とくに総菜の揚げ物は店内加工し、出来立ての商品を提供しているのが特徴です。
──今後の出店はどのように計画していますか。
玉木 第13次中計では、3店舗を新規出店し、建て替え3店を含め14店舗を改装しました。今年度からスタートした第14次中計では、3年間で新店を6店舗出店する計画です。今年すでに、6月に「レガネットマルシェ三苫」(福岡県福岡市)、7月に「レガネットキュートリバーウォーク店」(同北九州市)、8月に「レガネットマルシェ岡垣」(同遠賀郡岡垣町)の3店舗をオープンしました。既存店の改装も第13次中計から引き続き積極的に行っていく予定です。
3年後をメドに加工センターを稼働へ
──商品面で力を入れているのはどんなことですか。
玉木 即食商品、とくに総菜の強化です。小型SM「レガネットキュート」では、総菜のうち揚げ物を店内加工することでコンビニエンスストア(CVS)との差別化を図っています。また、サンドイッチやこれまで弱かった洋総菜にもチャレンジし、品揃えの幅を広げています。
「地域密着」をキーワードとした商品開発にも取り組んでいます。たとえば、地元の女子大学の栄養学科とコラボレーションした弁当があります。昨年、販売した「愛情たっぷり弁当」はお客さまから好評をいただき、SM向けの展示会で特別賞を受賞した商品です。
また、西鉄グループならではの強みを生かした商品もあります。福岡県でグレードの高いホテルとして知られている西鉄グランドホテルのシェフが監修したソースを販売しています。また、福岡県が発祥のイチゴのブランドである「あまおう」を使って、「あまおうプレミアムスパークリングワイン」を西日本鉄道と共同開発しました。このほか、福岡県太宰府市の名産である梅を使用した「太宰府梅サイダー」も販売しています。
──総菜の強化に合わせてPCの活用は考えていますか。
玉木 総菜と肉を加工するPCの新設を検討しています。取引先様の協力を得て一部PC機能を有していますが、各地に点在しているため、これを1カ所に集約する考えです。現在、準備を進めており、3年後をメドに稼働させる計画です。
競争が激化していますから、PCを活用することによって、SPA(製造小売業)化を進め、味の独自化を図り商品力を強化したいと考えています。とくに総菜については、自社でつくることで地域ニーズに応え、また当社ならではの味を追求できます。人手不足に対応するためにも、店舗運営を効率化できるPCは力を発揮します。
「ディストリビューター」を新設店舗の販売力を向上へ
──既存店売上高はどのように推移していますか。
玉木 15年度の既存店ベースの売上高は対前年度比1%増と堅調でした。16年度に入ってからは客単価が低下傾向にありましたが、前年度実績をクリアしています。8月は天候不順でやや厳しい状況です。
──営業面で力を入れているのはどんなことですか。
玉木 店舗の販売力をつけるため、16年7月から本部に「ディストリビューター」2人を新たに配置しました。商品部は仕入れた商品を各店舗に配分しますが、店舗規模や地域ニーズなどの要因により、積極的に売る店舗もあれば、そうでない店舗もあります。本来もっと売れるはずなのに、十分に商品を店舗に送り込んでいないということもあります。「ディストリビューター」は、商品部やバイヤーの意図を十分に理解しつつ、店舗側の声も聞きながら、実際に販売する方法を店舗に提案していきます。個店の実情に合わせた売り方を追求することにより、「量販力」のある店舗を実現したいと考えています。
「ディストリビューター」だけでなく、「ゼネラルトレーナー」も新たに配置しました。従来、刺身の盛り付けや肉の加工などを指導する「トレーナー」とは違い、店舗と密に情報をやり取りし、つくるアイテム、商品の量目、陳列方法などを指導するのがゼネラルトレーナーの仕事です。「ゼネラルトレーナー」により、売れる商品、売場づくりを徹底します。当社のSMには売場面積が100坪や200坪の店舗もあれば、600坪の店舗もあります。店舗に応じた売場をつくり、販売力をアップしていきたいと考えています。
──顧客との接点で取り組んでいることはありますか。
玉木 3年前に、新しく「コンシェルジュ」を店舗に配置しました。お客さまとコミュニケーションしたり、買物の手伝いをしたりするのが役割です。現在、10人いて、専任9店、兼任2店の計11店をサポートしています。
当社のお客さまは比較的年配の方が多いため、マンツーマンで声をかけながら丁寧に接客することを基本としています。ときには、おいしい食べ方、おすすめ商品なども提案することもあります。お客さまからうかがった要望や困っていることなどは、店長や本部とも情報共有することで、問題点の改善を図るようにしています。お客さまから支持されるSMにするのが大きな目的です。「コンシェルジュ」については今後、さらに人員を増やすかどうか検討していきます。
強固な経営体質に向け営業利益率1.5%をめざす
──西日本鉄道の子会社、あんくるふじや(佐賀県/秦直己社長)と来春、合併することを発表しました。
玉木 あんくるふじやは佐賀県と福岡県で酒販店26店、SM8店の計34店を展開している、年商規模135億円の企業です。合併後、仕入れや管理部門を統合することにより、西鉄グループにおけるストア事業全体のさらなる効率化と経営基盤の強化を図るのが目的です。現在、統合準備委員会を設け、システムや物流などをどのように統合していくか、具体的な話し合いを進めているところです。企業文化の違う会社が一緒になるわけですが、それを理解しつつ、互いのいい部分を合わせられればと考えています。
M&A(合併・買収)は、親会社の西日本鉄道が手がけることになりますが、今後もありえるでしょう。資金力がありますし、鉄道会社であるため何より安全・安心が第一の企業です。その信用力は、M&Aにも大きな力を発揮するはずです。
──今後の経営課題は何ですか。
玉木 電鉄系のSMはどこも同様の悩みを持っていると聞きますが、高コスト体質の改善です。そのため、たとえばパートタイマーの技能の認証制度を整備しました。合格者には時給を上げるなどして、パートタイマーを戦力化していきたいと考えています。あんくるふじやとの来春の合併もありますから、できるだけ強固な経営体質に移行できればと考えています。現状1%台前半の営業利益率を1.5%にまで引き上げるのが当面の目標です。
SMのステークホルダーには、非常に多くのお客さま、従業員、サプライヤーがいます。その意味では影響力の大きい産業です。まずは地域のお客さまに喜んでいただける店でなければなりません。営業成績を伸ばし、従業員の賃金を上げ、サプライヤーには多くの商品を納品していただきたい。そのために、第14次中計を通じて成長戦略を推進し、併せて高コスト体質を改善しながら、強い経営基盤を確立したいと考えています。