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「働きがいある企業風土育てたい」=エブリイ 岡﨑浩樹 社長

広島県、岡山県で33店(直営)の食品スーパー(SM)を展開するエブリイ(広島県)。エブリイホーミイホールディングスの中核企業であり、鮮度を追求した品揃え、売場づくりにより着実に業績を伸ばしている。快進撃を続ける同社の新社長に就任した岡﨑浩樹氏に、今後の事業展望や抱負を聞いた。

2年以上、既存店が成長


エブリイ 代表取締役社長 おかざき・ひろき 1979年広島県生まれ。 関西学院大学を卒業後、 2001年コンサルティング会社に入社。 2007年ホーミイダイニングに入社、 外食事業部本部長として ビュッフェレストラン「ワールドビュッフェ」業態を 立ち上げるなど外食事業の基盤を構築。 2013年エブリイ本庄店店長・ 商品第三部業務統括バイヤー、 2014年常務取締役経営企画部部長、 2016年代表取締役社長に就任(現職)

──今年1月1日付でエブリイの新社長に就任されました。

岡﨑 前社長の岡﨑雅廣は、持ち株会社のエブリイホーミイホールディングス(広島県)の社長に就き、グループ戦略の陣頭指揮を執ります。私はその傘下にあるSMを展開する事業会社の長として采配を振るうことになりました。気を引き締め経営に臨む所存です。

──ここ数年、エブリイは業績を大幅に伸長させ好調です。

岡﨑 おかげさまで2015年6月期は、消費増税後の反動も予想されましたが、売上高は606億円(対前期比26.4%増)で15期連続での増収を達成したほか、経常利益も8期連続の増益でした。既存店ベースの売上高も同9.2%増と順調です。16年6月期に入っても業績は同様のペースで拡大傾向にあり、15年12月までの全店売上高は累計で同15.5%増、既存店では同3.5%増。なお既存店は13年11月以来、26カ月連続で前年実績をクリアしています。最終的な売上高は680億円(同12.2%増)、グループ売上高は740億円での着地を見込んでいます。

────今後の中期目標はありますか?

岡﨑 「19年6月期に売上高1000億円」です。目標達成のため近年は出店ペースを上げており15年6月期は過去最高の5店舗を出しました。16年6月期以降も同水準で店舗網を拡充する方針でこのまま計画を進めればクリアできると考えています。

────ここ数年、グループでは将来を見越した体制の再構築、また独自色の強いビジネスモデルの構築にも努めています。

岡﨑 14年9月には、持ち株会社制に移行しました。「エブリイホーミイホールディングス」を設立、傘下にエブリイのほか、夕食材料宅配の「ヨシケイ福山」、通信販売事業の「けんこう応援団」、外食・給食事業の「ホーミイダイニング」、グループの人財教育研修を担う「YPYエデュケーション」など合計9社の事業会社を抱える体制にシフトしました。この体制のもと、農場経営や「漁船丸ごと一艘買い」もスタート、「六次産業化」をテーマとして差別化をねらった取り組みを強化しています。

────グループで第一次産業への進出も果たし、SMはその販路という面でも役割はより重要になりそうです。今後の抱負を教えてください。

岡﨑 生産者さま、メーカーさま、ベンダーさまの知恵をお借りしながらつくり手の立場に立った店づくり(=「六次産業化」)を進め、お互いに「WIN-WIN関係」を構築していきたい。またSM業界にはヤオコー(埼玉県/川野澄人社長)さんや阪食(大阪府/河村隆一社長)さんなど素晴らしい企業がたくさんあります。そういった企業から勉強させていただきながら、仕事に携わる従業員が生きがいを持ち、働ける企業風土を育てることで、ヒト、ひいては組織の可能性を最大限に引き出したいと考えています。

「鮮Do!エブリイ」が好調

エブリイが主力フォーマットとして展開する「鮮Do!エブリイ」は、徹底して鮮度を追求しているのが特徴。青果部門では、「地縁マルシェ」コーナーを特設、産直野菜や地場野菜を販売している
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──現在、「鮮Do!エブリイ」というSMの独自フォーマットを主力に店舗網を広げています。

岡﨑 14年10月、広島県安芸郡にオープンした海田店が1号店で、その後、新店のほか既存店をリニューアルするタイミングで徐々に店舗数を増やしています。展開する直営33店のうち、広島県10店、岡山県4店の合計14店が、同フォーマットによるものです。いずれも多くのお客さまにご利用いただいており、好評を得ています。

──競争の激しい環境にあるなかでも強い集客力を発揮しています。あらためてフォーマットの特徴を教えてください。

岡﨑 徹底的に鮮度を追求している点です。「超鮮度」「専門店化」「独自固有化」という3つのキーワードを設定しており、それらを具現化するような品揃えや売場づくりを行っています。

 「超鮮度」では、青果部門に「地縁マルシェ」コーナーを特設、地場生産者による青果物のほか、全国の契約農家から直送した「安全・安心」な旬の商品を豊富に扱っています。鮮魚部門では、長崎魚市場などから24時間以内に届く直送鮮魚を販売、また生ネタを使用した「一心太助の男前寿司」コーナーを設けています。

 「専門店化」は、精肉部門で和牛を強化するほか、希少部位も豊富に扱う「肉匠たなか本舗」という屋号で専門店のような売場を展開。鮮魚と同様、対面コーナーを導入することでにぎわいのある売場の演出にも工夫を凝らしています。

 「独自固有化」では、産地との連携により仕入れた高鮮度の素材を加工した総菜をはじめ、競合店には並ばない商品、またコーナーを展開しています。

(左)鮮魚部門では対面コーナーを設け、長崎や境港といった漁港からの直送鮮魚をはじめ、丸物の魚を充実させている
(右)精肉部門では、その日の朝にさばいた鶏肉「吉備高原どり」を販売。鮮度を追求する商品は「超鮮Do!」と記した専用POPを添え、目立たせている

──他店にはない品揃え、コーナー展開が強い支持を獲得する理由なのですね。そういった店づくりを強めたのは、いつからですか。

岡﨑 14年春ぐらいからです。実は以前から鮮度が重要なテーマでしたが、店舗数が増えるにつれ当初の方針が弱まってきた面がありました。棚割りを前提に品揃えする発想が生まれてきたのが原因ですが、これを改め、鮮度第一の方針を徹底することで原点回帰を図ろうと考えました。そうして展開を始めたのが、「鮮Do!エブリイ」というフォーマットです。

新たなターゲットは外食

ベーカリーは売場から従業員がパンを製造している姿を見ることができる。来店客の視覚にも、できたて、つくりたてをアピールしている

──鮮度を追求したSMで消費者の支持を獲得していますが、今後もこのフォーマットで店舗網を拡大する方針ですか。

岡﨑 鮮度を追求するという点は今後も変わりませんが、実は今年初夏頃、広島県福山市に開業する店舗は、従来とは異なるコンセプトによる店づくりにチャレンジする計画です、屋号はまだ決まっておらず、現在、検討中です。

 新フォーマットがターゲットとするのは、外食マーケット。ある調査によれば、SMが販売する総菜の市場規模は約3兆円といわれています。近年、女性の社会進出や高齢化の影響で需要が拡大していますが、SM各社も総菜の品揃えを強化、競争が激化しているのが現状です。これに対し、外食マーケットは約24兆円と推計され、SMが対象とする総菜市場に比べ約8倍も大きい。

 小売業で今、この市場に入り込んでいるのはコンビニエンスストアです。昼時、駐車場には多くのクルマが止まっており、車内で弁当を食べている姿が見られます。当社の新店では、品揃えを工夫して、外食市場から少しでも売上高を獲得することができればと考えています。

──勝算はありますか。

岡﨑 十分あるとみています。というのも外食では、商品の原価率はせいぜい30%程度しかかけられません。飲食店の営業面積、席数は限られており、そこに人件費、家賃が乗るからです。しかし当社のSMでは、その倍の約60%もの原価率をかけています。SMが本気になってマーケットをとりにいけば、きっとお客さまの要望に応えられるだろうと思います。すでに当社グループでは料亭や居酒屋といった飲食店も展開しており、ノウハウもあります。昨年9月には広島市内に、イタリア料理店「太陽と大地のイタリアンベジ LASORA(ラソラ)」を新たにオープンしています。

──初夏オープン予定のSMはどのような店になりそうですか。

岡﨑 生鮮素材を加工した総菜を強化する予定です。総菜部門でも、生鮮素材を使ったさまざまな商品を計画しているところです。そのうえで、「イートインコーナー」をしっかり確保し、店内で食事をしてもらえるような店にしたいと考えています。

 一方、現在、全国各地で開拓している生産者の方々と来店者が交流したり独自の生鮮商品をおいしく食べていただくレシピを提案するという構想もあります。また、生産者さまとの取り組みを強化する一方、メーカーさまのノウハウも勉強して売場づくりに反映したい。カテゴリーを深掘りしていくには、メーカーさまのお力をお借りしなければいけません。たとえば、メーカーさまからお客さまにおいしく食べてもらいたい商品を教えてもらい、一緒に提案をしていきたいと考えています。まだ準備段階で、今後、議論を重ねてお客さまに喜んでいただけるSMになればと思います。

ユニークな人事政策

人材育成プログラムの「人間塾」は、月1回、本部研修室で開いている。店長やバイヤー、チーフなど多様なポジション、役職者が集まる

──鮮度を追求するSMのフォーマットもさることながら、独自の教育にも力を入れているのも御社のユニークな点です。

岡﨑 当社では、ヒトを「オランウータン」「ゴリラ」「チンパンジー」「ボノボ」という4タイプの類人猿に分類し、それぞれの長所や行動パターンなどの特徴を知ったうえで、職場での人間関係に生かす「類人猿セミナー」、また、幹部向けのコミュニケーション講座「人間塾」という独自の人材研修を行っています。

 人間塾のプログラムは本部研修室において月1回の頻度で開き、全8回で修了するコース。参加するのは店舗部長、商品部長のほか、店長、バイヤー、チーフといったメンバーで、毎回、約20人単位で行います。13年から企業の研修に取り入れました。

────職場での人間関係に生かすというのは、具体的にはどのようなことですか。

岡﨑 たとえば、あるレジ統括のチーフはプログラムを受講後、部下への指示の仕方を工夫しているそうです。効率化を考える時には「オランウータン」タイプの人へ、仕事の最終チェックには、用意周到で慎重な「ゴリラ」タイプの人へといった具合です。

 

エブリイホーミイホールディングスにはSMのほか、外食、夕食材料宅配など多様なグループ企業がある。定期的に各企業の担当者が集まって「グループ商品会議」を開く。原材料や加工ノウハウを共有することで、グループ全体の収益力向上をねらっている

──人のいい面に着目した仕事のやり方をしているのですね。

岡﨑 そうです。仕事の効率が上がったほか、離職率も低水準で推移しています。昨春、当社に入社した新卒者は54人でしたが、このうち退職したのは、海外留学する目的の1人のみ。離職率が高いといわれるSM企業としては、誇れる数字です。また毎年、多くのパートタイマーが新たに入ってきますが、全体の30%は既存従業員からの紹介。全国的に人材確保難といわれますが、当社にとってはそれほど深刻な問題にはなっていません。


──教育、従業員の管理法が好業績にもつながっている

岡﨑 人材教育プログラムを取り入れたのと、業績が上向いた時期は重なっており、そう言ってもいいと思います。

────さて、19年6月期に売上高を1000億円に拡大するのを視野に、多数の新規採用も予定していると聞きます。やはり人材教育は大きなテーマになりそうですね。

岡﨑 今春には120人の新卒者が入社する見込みで、人材をいかに育てるかは戦略上、重要なテーマです。今年4月をめどに、広島県福山市に人材研修センターを新設する計画で、成長戦略を支えるインフラとして活用していきます。

 今後、当社の事業規模は拡大していきます。これに対し、私の抱負としては従業員が仕事のやりがいを感じてもらえる職場環境づくりに力を入れ、ヒト、組織のポテンシャルを最大限に引き出す経営に取り組んでいきたいと考えています。

グループ企業と協業推進

──今後、積極的に事業規模を拡大する手段として、M&A(合併・買収)を選択する可能性はありますか。

岡﨑 まったくないわけではありませんが、規模拡大を目的とするM&Aは今のところ考えていません。ただ食に対し、SM、飲食店、お弁当店といったように多くの販路、チャネルを持っているのが、当社グループの特徴であり、強みだと考えています。そのなか従来にないスタイルの飲食店と手を結ぶことは考えられます。また「六次産業化」を掲げていますので、食品関連の工場が入ってくることは十分あり得るでしょう。

──グループには、それぞれ独自のビジネスを展開する多様な企業がありますが、それらとSMとのコラボレーションも考えられます。

岡﨑 今、準備を進めているのは、事業者向けのお弁当の宅配を手掛けるグループ企業との協業です。昨秋、5000万円を投資してSMの総菜を製造できる体制を整えました。当社向けの、煮炊きした総菜を製造、各店へ供給してもらうのです。工場では毎日、5000食の弁当をつくっていますが、今後は原材料の調達はSMと協力することで質を上げる一方、原価率を下げる取り組みも行います。このようにグループ各社で、収益を上げる手法を磨いていく方針です。