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酒類宅配を積極展開、業務用市場でシェア50%をめざす=カクヤス 佐藤順一 社長

“家飲み”をメーンとした一般向け需要、飲食店向けの業務用需要を掘り起こし、酒類の宅配で売上を伸ばしているのがカクヤス(東京都)だ。東京23区をカバーする宅配ネットワークを自社で構築していることが同社の強みとなっている。2016年3月期は、好調な業務用の営業活動をさらに強化し、顧客開拓を進めている。

業務用売上が2ケタの伸び

フジ 代表取締役社長
佐藤順一(さとう・じゅんいち)
1959年東京都生まれ。81年、筑波大学第一学群社会学類を卒業。同年カクヤス本店(現カクヤス)入社。93年、同社代表取締役社長に就任。

──2016年3月期の上半期決算はいかがでしたか。

佐藤 売上高は対前期比で約4%増、営業利益は同約30%増となりました。前年同期は消費税増税後の反動減で、売上高、利益ともに苦戦しましたので、この上半期が必ずしも好調というわけではありません。

 当社は宅配機能を持つメーンフォーマット「なんでも酒やカクヤス」を東京23区中心に127店舗展開しており、「ビール1本から送料無料・1時間枠でお届け」の宅配サービスを提供しています。業務用から一般向けまで幅広いお客さまをターゲットにしており、現在、売上高の6割が業務用、4割が一般向けです。

 14年4月の消費税増税後、一般向けの売上高が伸び悩んでおり、この上半期は前年同期を若干下回りました。増税後の客単価を見ると、税込の客単価はほとんど変わりませんが、税抜きで見ると下がっている状況が続いています。お客さまは、おそらく増税分を節約されているのでしょう。

 一方で、飲食店向けの業務用の売上高は堅調に推移しており、同12%増となりました。飲食店は仕入れ時の消費税控除が適用されるので、増税の影響をあまり受けなかったようです。

──業務用の売上が好調な要因をどのようにとらえていますか。

佐藤 これまで業務用と一般向けで営業部隊を分けていましたが、今年3月から、これを改めエリア制にしました。地域密着の度合いを強めて、エリア内の業務用と一般向けの需要をさらに掘り起こそうという考えです。

 以前は飲食店のお客さまが店舗に来店されても、従業員は業務用の営業担当ではないため積極的には営業活動をしていませんでした。これをエリア別の営業体制にすることによって、店舗において、業務用のお客さまにも営業活動ができるようにしたのです。この取り組みにより、これまで手付かずだった店舗周辺の業務用市場の開拓が進んでいます。

 業務用が好調なもう1つの理由として挙げられるのが、競合する業務用酒販店の人手不足によるものです。

 景気回復によって、飲食店向けの酒類の需要は拡大していますが、人手不足のため業務用酒販店が対応しきれない状況になっています。

 当社は人員が潤沢とはいえませんが、毎年、大卒だけでなく高卒の採用活動も積極的に行うなど、人材獲得に力を入れています。そのため、現在は飲食店のお客さまを新規獲得できる絶好のチャンスが続いています。当社は業務用の営業活動を強化して、顧客開拓を進めているところです。

──業務用の宅配で、大手卸と競合することはありませんか。

佐藤 一部の大手飲食チェーンが大手卸と取引をしていますが、ほとんどの中小飲食店は取引条件により、地場の業務用酒販店から仕入れるのが一般的です。

 地場の業務用酒販店と中小飲食店との取引は掛け売りが多く、飲食店への売掛金を回収できることが大事なポイントになってきます。われわれは長年にわたって中小飲食店に対して掛け売りをしてきたので、店を見る“目利き”のノウハウがあります。

 中小飲食店の取引先が増えると、営業担当や宅配担当の従業員がいろいろな取引先から情報を得ることができます。従業員がお客さまのところに直接営業したり、お届けしたりする宅配モデルだからこそそれが可能なのです。

 また、中小飲食店との取引では、条件が1件1件異なってきます。取引内容によって、価格やお届け方法、支払いの方法も異なります。本部一括で仕入れを行うチェーン企業との取引とはまったく違い、営業担当が細かくフォローしないと対応しきれません。そのため、大手卸は中小飲食店との取引に積極的ではありません。

──業務用の酒類宅配の市場をどのように見ていますか。

佐藤 業務用と一般向けを合わせた東京都の酒類市場が6000億円で、そのうち半分が業務用といわれています。当社は業務用の売上高が約650億円あるので、すでに20%強のシェアがあります。将来的には業務用市場で50%のシェアを獲得したいと考えています。

 

受注から配達までの仕組みを自前で構築

──一般向けの市場については、どのように見ていますか。

佐藤 東京都内の一般向けの酒類市場は約3000億円で、そのうち宅配が約15%、約450億円を占めるとみています。当社の東京都内の一般向け宅配の売上高は約200億円なので、すでに約45%のシェアがあります。

 しかし、食品スーパーや総合スーパーがネットスーパーのサービス提供地域を広げたり、アマゾン ジャパン(東京都/ジャスパー・チャン社長)や楽天(東京都/三木谷浩史会長兼社長)をはじめとするEコマース(ネット通販)企業が台頭したりするなど、競争がこれまで以上に厳しくなっています。そのため、これ以上のシェアアップを図ることは難しくなるでしょう。

──Eコマース企業などの競合とはどのように差別化を図りますか。

佐藤 宅配のネックとなるのは、コストがかかることです。しかし、受注から配送に至るまでの業務をアウトソーシングせず、自社でその仕組みを構築してきたことが最大の差別化要因になっています。

 当社の強みは、自社の従業員が1時間枠で、ビール1本からお届けできることにあります。電話やファックス、パソコンなどさまざまなチャネルからの注文を迅速に処理する必要があるため、04年には自社のコールセンターを設置しました。これにより、配送拠点となる店舗へ素早く受注データを伝えることが可能になりました。

 また、お届け時にお客さまから「いつもこれ買っているけど、なにか新しい商品ある?」と聞かれた際、新商品をお勧めしたり、サンプルを提供できたりするのは酒類販売の世界においても当社だけでしょう。当社にとっては、お客さまの玄関はお届け先ではなく、売場そのものです。

 お客さまの要望に応じた商品をお勧めすることで、宅配サービスをさらに充実させることができます。

 そして、自前で商品を届けることができるのが、宅配業者などが商品を届けるネットスーパーやEコマース企業の通販と決定的に異なる点だと思います。

──今後の出店戦略については、どのように考えていますか。

佐藤 宅配機能を持つ「なんでも酒やカクヤス」は、店舗から半径1.2kmの範囲内に商品をお届けしています。07年までに、ほぼ東京23区内全域で無料宅配をする体制が整いました。

 しかしながら、東京23区から少し離れると飲食店の数が格段に少なくなります。ですから、「なんでも酒やカクヤス」を展開するとすれば、あとは神奈川県の横浜市と川崎市、大阪府くらいでしょう。大阪府内にはすでに8店舗を展開しており、売上規模が100億円に達しました。

 当社は「なんでも酒やカクヤス」のほかにも、宅配機能を持たない「KYリカー」を神奈川県を中心に展開しています。KYリカーは豊富な品揃えを特徴としており、約6000SKUを扱っています。これまでKYリカーの出店地域は一般のお客さまの多い住宅街が多かったのですが、業務用の需要を取り込むために飲食店の多い繁華街への出店にシフトしていきます。埼玉県や千葉県にも店舗網を広げたいと考えています。

──物流インフラの整備についてはどのように取り組みますか。

佐藤 15年11月1日には、東京都板橋区の物流センターを稼働させました。現在、東京都内には8カ所の物流センターがあるのですが、宅配の売上が10%増えるごとに、新たなセンターが1つ必要になると考えています。

 われわれは基本的に、物流センターを東京23区内に構えるようにしています。一般論としては、土地代が安い郊外に、巨大なセンターをつくるのが定石なのですが、当社は必要最低限の大きさや機能を持ったセンターを東京23区内に開設しています。

 なぜなら、お客さまからの距離の近い都心部にあったほうが、機動的なデリバリーサービスを提供できるからです。センターから池袋や新宿といった繁華街までの距離を短くすることで、こうした繁華街に立地する得意先を午前と午後の1日2回訪問できるようにしています。

 

──宅配ビジネスを収益化するポイントは何ですか。

佐藤 宅配ビジネスは客単価を高めるとともに、配達件数を増やしていかないと黒字化は難しいでしょう。当社の場合、客単価5000円で、1日2万件を配達しないと利益が出ません。黒字化するまでには苦労の連続でした。

 当社が酒類販売制度の規制緩和による競争激化を見越して、一般向けの宅配事業を強化し始めたのが2000年のことです。店舗を拠点に、東京23区内であれば、どこでも、何本からでも、2時間以内に無料で配達する体制の構築に乗り出しました。03年には東京23区内のほぼ全域に商品をお届けできるようになりました。

 その後、業務用の宅配に力を入れ始めました。現在、一般向けの1日の配達件数は1万4000件、業務用は2万5000件です。一般向けの宅配事業のみであれば、現在も黒字化していなかったかもしれません。これまで業務用のマーケットを積極的に取り込んできたことが、現在の成長につながっています。

M&Aを加速させて、「専門店街」をつくる

──業務用食品のカタログ通販を行うミクリード(東京都/片山礼子社長)を07年9月に買収しました。食品宅配の現状はいかがですか。

佐藤 業務用食品ならば、酒類と一緒に宅配すればすぐにでも物流面で効果が出るだろうと期待したのですが、実際はそれほど効果はありませんでした。

 酒類は常温で管理しますが、食品は冷凍、チルド、常温の3温度帯で管理する必要があるため、単純に統合することができません。また、食品はアイテム数が多いために、これまでよりも広い売場面積や物流センターの在庫スペースが必要となります。こうしたことからカクヤスとの物流統合ができませんでした。

 しかしながら、受注システムをカクヤスと統合することによって収益が大幅に改善されました。

──今後も酒類以外の企業のM&A(合併・買収)を推進していくのですか。

佐藤 そのつもりです。今考えているのは、専門店が扱う商品をわれわれのプラットフォームに乗せてお届けする「専門店街」をつくることです。

 すでに生花小売のリンクフローリスト(東京都/河野恵美社長)、オフィス用品販売のオフィス・デポ・ジャパン(東京都/野田智裕社長)をグループ企業に加えました。当社と統合することによって収益改善の可能性がある企業のM&Aを積極的に進めていきたいと考えています。

 その準備のため基幹システムに約30億円を投資して、グループ化した企業の受注システムをすぐに統合できるようにしました。これにより統合にかかる時間とコストを大幅に削減することができます。

 また当社は、16年1月にSKYグループホールディングス(東京都/佐藤順一社長)を持ち株会社とする体制に移行することで、M&Aなどの企業提携を推進しやすくします。

 M&Aだけでなく、新しい事業にもチャレンジしたいと考えています。一般のお客さまと、飲食店のお客さまをつなぐことです。具体的には、ある地域の飲食店の情報を、同地域の一般のお客さまにお知らせするといったマッチングサービスの提供です。当社は東京都内、約130万世帯の一般のお客さまに商品をお届けしています。業務用では、都内の飲食店10?11万軒のうち約4万5000軒と取引がありますので、これらを結び付けることができれば、飲食店にとっては大きなメリットになるでしょう。当社にしか提供できないサービスを実現し、さらなる差別化につなげていきたいと考えています。