ソフトブレーン・フィールド(東京都/木名瀬博社長)は、全国に約50万人の協力モニターを擁し、日本初のレシートによる購買証明付き・購買理由データベース「マルチプルID-POS購買理由データPoint of Buy(ポイント・オブ・バイ:以下、POBデータ)」を有している。月間300万枚のレシートを収集し(提携サイト含む)、リアル消費者購買データベースとしては国内最大級の規模となる。
このPOBデータと協力モニター(以下、POB会員)へのアンケート調査を活用すれば、消費者から見た小売りチェーンの実態を明らかにすることができる。本連載では毎回、業界で関心の高いテーマを設定して独自調査を実施し、その結果をレポートする。
連載第2回の今回は、イオン傘下のまいばすけっと(神奈川県/岩下欽哉社長)が展開する都市型小型スーパー「まいばすけっと」にクローズアップ。新型コロナウイルス(コロナ)感染拡大下では「近場で買物を済ませたい」ニーズが高まり、小商圏型の小型スーパーの利用はとりわけ拡大していると想定される。そうしたなか、同社の利用実態を明らかにする。
コロナ禍で増えたのは
20代以下の若年層!
まずは、コロナ感染拡大前後での「まいばすけっと」の利用動向の変化をみてみよう。
図表1は、コロナ流行前の1月と、緊急事態宣言中の3月、再び感染が拡大した9月、そして12月における、利用世代構成比(男女計)を集計したものだ。ここでは、比較・参考として全国で展開する総合スーパー「イオン」の集計結果も掲示する。
調査結果を見ると、POB会員は全体的に年齢層が高いという特性もあって、利用者層の中心は、「まいばすけっと」「イオン」ともに40~50代となっている。
しかし1月と12月の利用者層の変化に注目すると、「まいばすけっと」は~20代が、4.9%から6.9%(2.0ポイント<pt>増)、60代以上の利用者が7.3%から10.0%(2.7pt増)と利用者層の割合が拡大。なかでも~20代については「イオン」は4.1%から4.4%(0.3pt増)とほぼ横ばいであったのに対し、大きく伸長している。
「まいばすけっと」はコロナ禍で~20代の若年層と60代以上のシニア層の利用を獲得できていると言えるだろう。
スーパーとコンビニの
中間的な存在に!?
では、「まいばすけっと」は具体的にどのように利用されているのだろうか。総合スーパーの「イオン」、食品スーパーの「ライフ」、コンビニエンスストアの「セブン-イレブン」と比較し、その特徴をみてみよう。
図2は、各チェーンのレシート1枚あたりの平均購入点数・平均購入金額・1点あたりの単価を比較したものだ(19年と20年比較)。
「まいばすけっと」では、買物1回当たりの平均購入金額は618円、購入点数4点、1点あたり単価は150円だった。とくに目をひくのは1点当たり単価の安さだ。20年は150円で、3チェーンとは50円以上の差がある。
利用特性を3チェーンとの比較で分析すると、「イオン」「ライフ」は平均購入点数が2点ほど多く、1点単価も高い。結果、平均購金額は2倍以上となっている。「イオン」「ライフ」の方が、日常の食をまとめて購入される傾向が見てとれる。
1月に実施した会員アンケートにおいて、直近半年のうちに「まいばすけっと」で買物経験のある人(N=332人)に利用する理由について問うたところ、「早朝から深夜まで営業時間が長いため利用しやすい」、「毎日食べる食品(パン・牛乳・卵など)や、足りなくなった食材を購入するために利用する」など、気軽に立ち寄れる利便性に対するコメントが多かった。このことから「まいばすけっと」は「日常の食材を買い揃える」のではなく、「食材を買い足す」利便性の高いスーパーと位置付けられていると考えられる。
では、同じく利便性を強みとするコンビ二との比較ではどうか。「セブン-イレブン」とは平均購入金額は大きく変わらないものの、「まいばすけっと」の方が1点単価は安く、平均購入点数は多いのが特徴だ。
そのうち平均購入金額の安さについては、「まいばすけっと」はエブリデー・ロープラスの価格戦略をとり、またイオンのプライベートブランド「トップバリュ」の商品を多く差し込んでいることが要因の1つと考えられそうだ。会員のアンケート結果では、とくに「菓子」「パン」「アルコール飲料」などはコンビニと比べて安いため、それを目当てに利用するという声が少なくなった。
これらの傾向から「まいばすけっと」はその低価格を武器に、コンビニより日常の食品を多く購入する店となっていると想定される。
コロナ禍で高まる
スーパーとしての存在感
最後に、「まいばすけっと」の購入カテゴリーから利用動向を深掘りしてみよう。
図表3は、「まいばすけっと」のレシート全体でのカテゴリー出現率を表したものだ。(19年と20年の比較)。
2020年の結果を見ると、購入率が高い順に、野菜などの「農産」が25.8%、「パン・シリアル」が21.2%、「総菜類」が20.2%で、いずれも2割を越えている。
19年との比較では、「農産」は2.5pt増、「畜産(卵や肉)」が0.6増の10.1%となり、コロナ禍において自宅で料理をする機会が増えたことにより、コロナ前よりも食材を購入する食品スーパーとしての存在感が高まっていると言える。
また「総菜類」の内訳をみると、弁当やおにぎりではなく、手軽に食卓の1品を増やせるような「5品目ミックスサラダ」や「オニオンとレタスのミックスサラダ」などが多く購入されていた。コンビニとは異なり自宅で料理をする人が利用する傾向にあると考えられるだろう。
このようにPOBデータでは、各チェーンの利用動向や、他チェーンとの比較による傾向・実態を捉えることができる。コロナ禍で消費動向が激変する今だからこそ、こうしたデータに基づいた戦略の立案・実行を行いたい。
【調査概要】
調査対象:全国のPOB会員アンケートモニター
調査日時:2021年1月25~26日
調査方法:インターネットリサーチ
調査機関:ソフトブレーン・フィールド
【データ詳細】
図表①:POBデータより算出。まいばすけっと・イオンの購入レシート会員の年代。
まいばすけっと:20年1月2,735枚、3月3,189枚、9月4,825枚、12月3,664枚
イオン:20年1月9,779枚、3月11,003枚、9月14,515枚、12月11,981枚
図表②POBデータより算出。19年1月~12月、20年1月~12月の各チェーンの購入レシート分析。各チェーンのレシート枚数は以下。
まいばすけっと:19年26,506枚、20年 46,318枚、イオン:19年107,129枚、20年143,480枚
ライフ:19年55,594枚、20年90,330枚、セブンイレブン:19年238,448枚、20年574,586枚
図表③POBデータより算出。19年および20年のまいばすけっとレシート枚数は図表②参照。
【執筆者】
山室直経(やまむろ・なおつね)
神奈川大学経営工学科卒業。パソコンメーカーを経て、米リサーチ会社にてコンサルティング業務を学ぶ。その後、大手家電量販店子会社のパソコンメーカーで経営企画室に従事。計数管理とERP導入による業務改善などのプロジェクトを経験した後、2012年3月ソフトブレーン・フィールド入社、消費者購買データ事業の新規立ち上げを行う。
現在はデータを軸とした事業開発と当社の基幹システムのDX戦略を担う