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小売発想の編集力に磨きをかけ「ライフデザインデベロッパー」に=イオンモール 吉田昭夫 社長

イオンモール(千葉県)の業績が好調だ。2011年2月期以降、経常最高益を更新し続けている。140カ所(14年度末)のショッピングセンター(SC)を運営し、日本のSC市場を牽引するイオンモール。国内SC市場が成熟化するなか、イオングループのデベロッパー事業の中核企業として、どのような成長戦略を描くのか。15年2月に同社の代表取締役社長に就任した吉田昭夫氏に聞いた。

SC成熟期に必要な差別化

──国内SC市場の現状をどのように見ていますか。

イオンモール 代表取締役社長 吉田昭夫(よしだ・あきお) 1960年5月26日生まれ。83年4月ジャスコ(現イオン)入社。2005年9月東北開発部長。08年3月関東第一開発部長。09年9月イオンリテール関東開発部長。11年2月イオンモール国際企画部統括部長。11年3月イオングループ中国本社取締役、イオンモール中国本部中国開発統括部長。12年3月イオンモール中国本部長。14年4月営業本部長兼中国担当。14年5月常務取締役営業本部長兼中国担当。15年2月代表取締役社長(現任)

吉田 14年度は、国内で7SCを新規開業し、計140SCとなりました。少子高齢化・人口減少で国内消費市場が大きく成長しないなかで、SC市場は成長期から成熟期に入ってきています。2000年代はじめ頃はSCという業態自体に「鮮度」があり、お客さまにとっては非常に新鮮でした。しかし、イオンモールだけでなく多くのSCが開設された結果、お客さまにとっては新鮮味が薄れ、同時にSCの同質化が進みました。その結果、同質化したSCが競合し、1SC当たりの商圏は小さくなり、売上を取り合うことになりました。

 こうした状況を見ると、SCの次の成長のステップとしては、個々のSCの差別化戦略が重要になります。そこでわれわれは、新設するSCのコンセプトをはっきりさせて、その特色を打ち出すことに力を入れ始めました。13年3月に開業した「イオンモールつくば」がコンセプトを明確にした最初のSCです。

 14年12月に開業した「イオンモール岡山」は、ハード面を含めて、今までのイオンモールとは異なるSCに仕上がったと自負しています。「haremachi(わたしのみらいをつくるまち)」をコンセプトにした駅前立地のイオンモール岡山は、地元テレビ局のスタジオを誘致したほか、地元文化の情報発信をする特区をつくったり、デジタルサイネージを多用したりするなど、さまざまな取り組みにチャレンジしています。

 15年春に沖縄県に出店する「イオンモール沖縄ライカム」は、「リゾート」をキーワードにした特色のあるSCです。沖縄県の伝統的な赤瓦を使用するなど外観も特徴的で、国際色の強いテナントを誘致するほか、コンセプトに合った各種イベントを実施する計画です。また、15年秋に愛知県の中部国際空港・セントレア近くに開業予定の「イオンモール常滑」は、拡大するインバウンド消費を取り込むという目的をもったモールです。こうしたSCごとの特徴については、コンセプトを練り上げる企画、テナントリーシング、運営を担当する営業の各部門と役員が参加する合同会議で検討を重ねています。

 新規SCで成功した試みは、既存SCに生かすことができます。新規SCは、われわれがめざす姿をゼロから描けるため、新しいチャレンジを実験する場としては最適です。ですから、新規SCの開業は既存SC活性化のための投資の1つという考え方もできます。

──既存SCの活性化については、どのように取り組んでいますか。

吉田 SC数の少ない時代は新規SCを開設することで成長できましたが、SC数が増えて全社の売上規模が大きくなると、新規SCの成長への貢献度は相対的に低くなっていきます。

 また、いくらSCを新設しても既存SCの売上を維持できなければ、収益の伸びは確保できません。現在の消費環境では、何も手を打たなければ売上は減少してしまいます。ですから、既存SCの活性化による収益改善が新規SC開設以上にわれわれの成長戦略の大きな柱となり、事業の大きなウエートを占めることになります。

 既存SCでは、お客さまの足が遠のくのを防ぎつつ、来店されたことのないお客さまに来店していただけるようにしなければなりません。そのために、「飲食店を増やして欲しい」といったお客さまの要望を反映したり、競合SCにあってわれわれのSCにないテナントを誘致するといった対応が必要になってきます。

 SC活性化ではたとえば、増床した部分に新しいテナントを誘致するだけではなく、増床していない部分も含めてSC全体を編集し直すことが大きなポイントです。実際、岐阜県の「イオンモール各務原」はそうした改装によって売上が飛躍的に伸びています。また、愛知県名古屋市の「イオンモール大高」は、増床をせずに専門店の大幅な入れ替えを実施し、売上を2ケタ伸ばすことができました。

 15年は、当社のフラグシップSCの1つである、埼玉県越谷市の「イオンレイクタウン」を大幅に刷新します。春と秋の2段階でSCの約半分、400区画以上をリニューアルしますから、お客さまにはまったく新しいSCに来たような印象を持っていただけるでしょう。

 14年度は、既存8SCをリニューアルしました。15年度は12SCをリニューアルする計画です。

SC出店計画 海外が国内を上回る

──海外での事業展開については、どのように考えていますか。

吉田 14年度は中国、ベトナム、カンボジアへ計4カ所のSCを出店し、単年度では最大出店数となりました。その結果、海外のSCは中国とアセアン諸国で9カ所となりました。15年度はさらに海外出店を加速させます。国内5SCに対して、中国・ベトナム・インドネシアに計10SCを出店する計画ですから、海外出店数が国内を上回ることになります。イオングループの中期経営戦略の4つの柱の1つであるアジアシフトを象徴する年になるでしょう。

 国内市場がシュリンクするなか、経済成長を続ける中国やアセアンでの出店は、われわれにとって大きな成長ドライバーになることは間違いありません。海外出店は、差別化された新規SC出店、既存SCの活性化と並ぶ、われわれの成長戦略の第三の柱になります。

 ただ、中国やアセアン各国では競争が厳しいのも事実です。たとえば中国では、年間に何百もの大型SCが出店する状況下で戦っていかなければなりません。厳しい競争のなかで、われわれが勝ち残るために必要だと考えているのは、ハードとソフトの両面からの差別化です。

 たとえば、駐車台数があります。海外のデベロッパーは単位面積当たりの収益性を重視するため、直接的に収益を生まない駐車場のスペースをとりたがらない傾向があります。しかしわれわれは、モータリゼーションが急速に進んでいるため、駐車場台数をしっかりと確保することにこだわっています。通常、駐車台数は2000台以上としています。その結果、クルマを持つ富裕者層の集客に成功しています。

 このほか、日系企業のテナントを誘致することで特色を出していますし、外食機会の多い食習慣に合わせて、飲食店のテナント構成比率を高めたりしています。インドネシアでは飲食店の構成比は50%に達するほどです。

──海外での運営方法で競争相手との違いはありますか。

吉田 われわれの成功例は競争相手にすぐに取り込まれてしまいます。競争相手に簡単に真似のできない差別化ポイントは、SC開店後のオペレーションです。テナントと定期的なミーティングを行い、相互の協力体制を築きながら、トイレの清掃や従業員の接客といった基本のオペレーションの品質維持を徹底しています。また、年間をとおして季節行事に合わせた各種のイベントを実施していることも、ほかのSCとの差別化ポイントの1つです。海外のデベロッパーが決して手がけない、日本でのSC運営で培ったノウハウを生かすことができるのは、われわれの大きな強みです。

 イオンモールが初めて海外に進出したのは08年、中国の「イオンモール北京国際商城」が1号店ですが、手探りだった当時から比べるとSCの仕上がりは非常によくなっています。実際、昨年出店した中国江蘇省蘇州市1号店となる「イオンモール蘇州呉中」は大きな成果を上げました。このSCは、11万4000平方メートルの敷地面積に7万5000平方メートルの賃貸エリア、約3000台の駐車場を備え、約200店舗のテナントを誘致した本格的なリージョナルSCです。

 イオンモールの知名度が低い海外では、地域1号店を成功させることは非常に重要です。初めて進出するときはイオンモールの会社説明から始めなければいけませんが、お客さまを集められるデベロッパーだという評価が定着すれば、次に出店するときからは有力テナントが自然と集まってきます。地域でブランドを確立できれば、複数出店も可能となるのです。今年、蘇州市に2号店を出店できるのも1号店の蘇州呉中が好調だからです。

 海外展開にあたっては、地域の自治体や政府としっかりコミュニケーションをとっていくことも大事です。イオングループ全体でも、万里の長城の植樹活動を北京市と協働して実施したり、グループ優良企業が税引前利益の1%を拠出して活動する「イオン1%クラブ」で子供同士の国際交流に力を入れたりするなど、さまざまな取り組みをしています。このような地道な草の根の活動は、海外でスムーズに受け入れてもらうためにも非常に大切です。

イオングループとしてシナジーをどう発揮するか

──イオングループの中でのイオンモールの位置づけや役割をどのように考えていますか。

吉田 グループの中核企業として、収益面での貢献はもちろんですが、財政状態の健全性を保つことも大事なミッションです。不動産リートの活用もそのための1つの方法です。リートの活用は不動産を持たずにリース料を払う形態ですから、損益計算書上の利益を削る一方で、貸借対照表上の資産を軽くできます。また、グループ各社が開発した新業態のチャレンジの場を提供するなど、イオンモールはグループのプラットフォームとしての役割も担っています。

 イオンはグループシナジーを最大化するために機能を集約してきました。14年度から、イオンリテールの69SCの運営を当社が受託しているのもその1つです。イオングループに出店しているテナントで構成されるイオン同友店会の加盟社数は8000社に達します。このイオン同友店会とはイオングループとしてかかわっています。

 グループ内にSCの核店舗となる総合スーパー(GMS)のイオンリテールがあることも非常に重要です。品揃えの面まで細かな連携がとれることは、当社にとって大きな強みです。たとえば、15年に出店する沖縄ライカムでは、GMSで観光客が喜んでもらえるようなお土産のほか、「かりゆし」を揃えるようにしています。リゾートというSCコンセプトに合った店づくりを期待しています。

──今後の経営課題は何ですか。

吉田 東北の復興やオリンピック需要による建築人員不足は深刻で、新規SCを出店する時期を一部見直しました。新規SC数の変更はありませんが、工期は伸びる傾向にありますから、既存SCの活性化が重要になってきます。

 また、人材育成も大きな課題です。今後、SCの個性を出していくうえでは、現場対応が大事になるからです。本部で決めたことを各SCが実行するのではなく、各SCがそれぞれの状況に合わせて対応していかなくてはなりません。

 当社には年商300億円規模のSCの責任者に、30代の若くて優秀な社員がいます。ただ、経験が浅いのは事実で、社員の能力の底上げが必要です。そのためにも、本部からエリア事業部への権限移譲を進め、現場で判断し、それを迅速に実行できる体制を整えていきたいと考えています。

──今後、どんなSCデベロッパーをめざしますか。

吉田 われわれは、これまで「輝きのあるまちづくり」を経営理念に掲げて、イオンモール周辺の町を活性化させることをめざしてきました。次のステップとして、「ライフデザインデベロッパー」になることをめざしています。

 イオンモールの周辺に住むお客さまに、必要な生活の機能のすべてを揃えていきたいと考えています。たとえば、「キッズ」というテーマに、子供服などを扱う物販店舗を集めました。しかし、ライフデザインの観点からすると、学習塾など子供の生活に関連する機能も必要になるでしょう。お客さまの生活を軸にSC全体を編集していくというのは、場所貸しの不動産業ではなく、小売業ならではの発想だと考えています。小売業出身のわれわれだからこそ、ライフデザインデベロッパーをめざすことができると思っています。