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卸売業から価値創造卸への脱却図る、低温物流でダントツめざす=日本アクセス 田中 茂治 社長

逆風吹き荒れる環境のなか、食品卸各社の改革が始まった。何をめざし、どのように変わるか。改革の成否が企業の存続を左右する──食品卸各社はそのような改革競争のただなかにある。食品卸業界第2位で、低温カテゴリーに強みを持つ日本アクセス(東京都/田中茂治社長)は、同社にしか提供できない価値の創造をめざす。

「卸売業」はモノを売る物販業

──大手食品卸の2013年度決算は、多くが減益でした。この事実からも、業界を取り巻く経営環境は一層厳しさを増しているように感じます。

日本アクセス代表取締役社長 田中茂治 たなか・しげはる ●1952年3月7日生まれ。74年4月伊藤忠商事入社。2002年6月執行役員就任。05年4月常務執行役員就任、食料カンパニーエグゼクティブバイスプレジデント兼食品流通部門長。06年4月食料カンパニープレジデント。06年6月代表取締役常務就任。09年4月日本アクセス顧問就任。09年6月日本アクセス代表取締役社長就任。

田中 当社の14年3月期(13年度)の連結売上高は1兆7140億円と、対前期比5.7%の増収でしたが、経常利益は189億円で同3.2%の減益となりました。

 ご指摘のとおり、消費税増税、円安基調、そして物流費の高騰など、どれをとっても、われわれを取り巻く経営環境には明るい材料はありません。

 食品卸売業は、大きな転換期に入ったと実感しています。ですから、当社はそれを見越して数年前から改革を推進しています。これは、社内の風土や価値観をも変える大改革です。今、変わらなければ、明日はありません。社員一人ひとりが危機意識を持ち、自分たちの力で会社を変えるという意志で臨まないと、この改革は成功しません。

──13年度からの「第5次中期経営計画」に、新ビジョン「日本アクセスは3つの市場分野におけるACCESS VALUE実現を通じて『卸売』の枠を超えた『卸』企業を目指します」を掲げています。具体的には、どのような企業に生まれ変わることで、現状を打破し成長に転じようとしているのですか。

田中 フィリップ・コトラー教授が著書『コトラーのマーケティング3.0 ソーシャル・メディア時代の新法則』の中で説いているとおり、製造者主導の時代から消費者主導の時代に移り、さらに価値主導の時代になりました。これを流通に照らしてみると、製造者主導の時代の覇者だった「問屋」は、消費者主導の時代に衰退していき、「卸売業」が生き残りました。このように、時代に適合しなければ市場から退場を余儀なくされてしまうのです。

 一般的に、「卸売業」はモノを売る物販業です。しかし、価値主導の時代となった今、従来どおりの物販業のままでは生き残れません。価値を創造し、お客さまに提供できる「価値創造卸」へ転換しなければ生き残れないのです。それがビジョンに掲げた「『卸売』の枠を超えた『卸』企業」の意味するところです。簡単な言い方をすれば、物販業を卒業し、流通サービス業になろうとしているのです。

日本アクセス独自の価値を提供

──めざす「流通サービス業」は具体的にどのような企業なのですか。

田中 「卸」という軸はぶらしません。「卸」である日本アクセスでなければ提供できない価値があるはずだからです。

 では、当社が提供しようとする価値は何か? それは第5次中期経営計画のなかの、3つの企業変革の1つで、強化すべき機能改革として挙げたものになります。社内では「“核”帳合」「“発”帳合」「“脱”帳合」機能と呼んでいます。

 「“核”帳合」機能とは、事業の核となる卸売機能、つまり、ロジスティクスとマーチャンダイジング(MD)機能のことです。これを強化し、競争優位な体制をつくり上げていきたいと考えています。

 「“発”帳合」機能とは、従来の卸売機能の延長線上で提供できる当社独自に創造する価値のことです。

 「“脱”帳合」機能とは、従来のビジネスモデルに立脚した事業のターゲットとは異なるターゲットへ提供する価値を指します。本来、卸売業に期待されてきたのは、移転価値機能です。各地のよい商品を発掘し調達すること、そして商品を効率よく店舗に運ぶことの2つです。当社では、これ以外の機能、すなわちサービスの取り込みを図っていきます。

──「“発”帳合」機能とは具体的にどのようなことを意味するのですか。

田中 「“発”帳合」機能にはいろいろな事例があります。

 たとえば、当社は国内に453の物流センターを持ち、1万社以上のメーカーから納品された商品を、1日当たり8500台超の契約車両によって全国10万店を超える店舗に納めています。全国に張り巡らしたこの物流網は当社の強みです。

 現在、メーカーのなかには物流の確保に苦労されているところが少なくありません。そこで、店舗に商品を降ろした当社のトラックが、物流ルート上にあるメーカーの工場・倉庫に立ち寄り、センター納品の商品を積んでくれば、メーカーにとっても物流費削減につながり、当社にとっても調達物流業務の拡大ができます。13年度は、67件の委託を新たに受けました。

 また、「ジョイントフォースDCM」も「“発”帳合」機能の提供価値の1つです。これは、当社が開発した独自の需要予測システムで、お客さまである小売業にとっては、需要予測に基づく自動発注で発注時間の短縮や在庫の最適化ができるほか、店舗での作業の効率化ができるメリットがあります。すでに4社に採用いただき、さらなる導入促進を図っています。

 メーカーも卸も小売業も、解決したい課題は共通しています。人時生産性の改善とコスト削減です。先ほどの調達物流も「ジョイントフォースDCM」も、これら課題の解決につながります。卸である日本アクセスが仲立ちして流通3層全体の最適化を実現することは、当社だからこそ提供できる価値だと考えます。

 そして、「“発”帳合」機能の1つとして、マーケティング機能も強化しています。たとえば、13年、当社は設立20周年を記念して、「フローズン・アワード」(正式名称「10万人が選ぶフローズン・アワード2013 最強の冷凍食品・アイスクリームはどれだ!?」)を実施しました。消費者の投票、全国の食品スーパー(SM)のバイヤーの投票、食のプロとマスコミ関係者の投票を経て最強の冷凍食品とアイスクリームを決めました。消費者の投票数は当初予想の10万人を大幅に超えて約26万人にのぼりました。

 「フローズン・アワード」のようなメーカー横断型の全国的なプロモーションは、中間流通だからこそできるのです。この種の企画は、消費者の購買意欲を刺激します。価格訴求に頼らずとも商品購入してもらえるので、メーカー、小売業への価値提供につながります。

──「流通加工」にも力を入れているそうですね。

田中 流通過程で付加価値を高める流通加工は、すでにいくつか実施しています。

 たとえば、青いバナナを当社の設備で熟成させます。黄色く追熟させ、すぐに販売できるようにすることが付加価値です。

 マグロもそうです。マグロを1船買いし、1本1本、ブロックやサクに加工します。これも流通加工による付加価値です。

 お肉も同様です。当社では小売業のプロセスセンター(PC)に代わって肉を在庫、解凍し、必要な時間に必要な量を届けています。あるいは、市販用のスイーツなども発注に合わせて冷凍から冷蔵へ温度帯変更し、チルド食品として小売業の店頭に納品しています。冷凍品を必要数量だけ温度帯変更してチルド食品とすることにより無駄が出ず、ロスが減ります。これも流通全体最適化を担う「“発”帳合」機能です。

製造機能の保持も視野に入れる

──もうひとつ、「“脱”帳合」機能とは何ですか。

田中 「“脱”帳合」機能としては、たとえば製造機能を自社内に持つことです。ただし、当社はあくまでもナショナルブランド(NB)商品の販売代理店です。当社がやらねばならないのは、NBメーカーの商品をたくさん売ることです。ですから、NBメーカーと競合、対立するのではなく、NBメーカーと協業して潜在市場を掘り起こして顕在化できるような商品開発を主目的としています。

 また、なぜ製造機能を持つのかといえば、商品をつくる機能がないと卸にとって重要な経営指標であるマーケットシェアが拡大できないからです。

 現在、マーケットシェアを拡大するには、NBメーカーの代理店としてシェア競争をするだけでは不十分な市場環境になってきています。今後、少子高齢化でマーケットが縮小し、競争はさらに激化するでしょう。一方で、小売業のプライベートブランド(PB)商品が急増しています。この分野で、現時点において、卸の機能はロジスティクスを除いてあまり期待されていないでしょう。もしもイギリスのように小売業のPB商品の市場占有率が高まれば、卸の生きる道はなくなります。ですから、独自に小売業のPB商品も開発、提案し、供給できる機能を持つことが必要なのです。

 当社には長年展開している独自の「アクセス」ブランドの商品があります。メーカーと協業しOEM(相手先ブランドによる製造)でつくってもらっています。その売上高は13年度で約200億円になりました。しかし、正直に言うと、「アクセス」ブランド商品の当社とメーカーの契約は、売買基本契約に基づいています。つまり帳合取引の延長線上で仕入れているのです。今後はこれをすべて委託生産契約に切り替えていくつもりです。もとからすべてつくり直すことになりますが、製造において真の製造者リスクをとらない限りは適切なリターンを期待できません。将来的には自社で製造機能を持ち、自社生産した商品を小売業に供給することはあり得ると思います。しかし、それには製造技術はもとより、NBメーカーと同様にマーケティング機能も持たなければなりません。

組織、管理会計を変更

──日本アクセスの強みは低温物流です。13年度の実績でも、商品売上高1兆5551億円のうち、チルドとフローズンを合わせた低温商品の売上高は9297億円と6割近くを占めます。

田中 チルドとフローズン以外で、たとえば酒類など当社の販売力が弱いカテゴリーもあります。MD戦略においてフルラインで提供すべきという意見もありますが、弱みを補完する戦略は採りません。

 それよりも、今はチルドとフローズン、あるいは乾物・乾麺という強みをより強くすることに専念すべきだと思います。そして、低温カテゴリーにおける業界ナンバーワンの地位を堅持することをめざしています。しかも、単なるナンバーワンではなく、2位以下が諦めるぐらいのダントツのナンバーワンになることが目標です。

 食品卸は、食料品小売市場のうち、酒類加工食品の31兆円の市場を巡ってしのぎを削っています。この市場は、非常に競争が厳しいマーケットです。そこで、当社の強みを生かし成長するために着目したのが、同じ食料品小売市場のなかの、生鮮食品市場と中食市場なのです。生鮮食品は14兆円、中食は8兆円もあります。また、外食市場23兆円も当然ターゲットに据えています。

 生鮮、中食、外食市場での販売シェア拡大が可能になったのは、伊藤忠フレッシュと11年10月に事業統合し、生鮮事業を譲り受けたためです。

 これにより、たとえばSMに生鮮食品売場の口座が持てるようになりました。これは大きな戦略的意味があります。なぜなら、生鮮食品の販売には、加工食品、チルド、フローズンなどとのシナジーがあるからです。今までできなかったクロスマーチャンダイジング(関連販売)の提案ができます。たとえば、鮮魚売場で「マグロのやまかけ」をメニュー提案してマグロの売上を伸ばそうと、カップ入りのとろろを商品化しました。マグロの横に関連陳列できるようになったのは水産売場の口座が持てたからです。このほかにも、加熱処理しない生の焼き肉のたれなど、NBメーカーと共同でお客さまの生鮮売場を活性化できる商品開発をしていくつもりです。

 生鮮食品は、中食と外食企業にとっても必須な商品です。生鮮食品の13年度の売上高は対前年度比16.8%増の1161億円になり、今も大きく伸びています。

──一般的に、改革するうえで最も難しいのが社内の意識改革といわれます。どのように意識づけをしていますか。

田中 先ほど申し上げたとおり、当社は物販業からお客さま第一主義の流通サービス業へ転身しようとしています。いわば、企業の体質を変える大変革を起こそうとしています。そこで、着手したのが、組織と管理会計の改革です。

 組織については、これまではモノを売る組織らしく、営業部隊はフローズン食品課、チルド食品課というように商品カテゴリー別に編成されていました。これを、お客さまとの取引全体を1つの部署で把握できるよう15年度より変更していきます。お客さまのことを組織としてより深く理解することはサービス向上につながります。よく、かゆい所に手が届くサービスといいますが、まずはお客さまのかゆい所がどこか知らなければならないのです。

 同様に、これまでの管理会計も商品カテゴリー別でした。お客さま第一主義の企業にとって必要なお客さま別収支管理会計に、来年度、変更しようとしています。こうすれば、赤字が出ていたら、どこで赤字が出ているのかがわかり、どの分野が低収益でテコ入れしなければならないかがわかります。収支を“見える化”すれば、出血を止めたり傷を治したりする手を早く打つことができます。ただし、管理会計システムを変えるだけで100億円ほどの費用がかかります。第5次中計の3カ年で、このシステム費用を含めた改革のための総投資額は350億円を計画しています。環境が厳しくなったからといって改革の手を緩めるわけにはいきません。今改革しなければ日本アクセスの将来はありません。むしろ、180億円レベルの利益を出させていただいている今のうちにこそやらねばならないことなのです。