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年間2ケタ以上のNSCを開業!地域密着の商業集積めざす=イオンタウン 大門 淳 社長

イオン(千葉県/岡田元也社長)グループの近隣型ショッピングセンター(NSC)の開発を担うイオンタウン(千葉県)。同社はグループの食品スーパー(SM)やディスカウントストア(DS)を核店舗としたNSCを年間10施設以上開発することを目標に掲げる。大門淳社長に経営戦略を聞いた。

「こころはずむ出会い、いっぱい」がコンセプト

──2011年9月に商号をロック開発からイオンタウンへと変更。同時に大和ハウス工業(大阪府/大野直竹社長)所有の株式をイオンが取得し同社の100%子会社となりました。旧ロック開発からイオンタウンへと至る経緯を教えてください。

イオンタウン代表取締役社長 大門 淳(だいもん・あつし) 1952年、秋田県生まれ。76年、ジャスコ(現イオン)入社。97年東北開発部長、99年5月北陸開発部長。2000年9月マックスバリュ東北開発部長、01年取締役就任。02年5月、常務取締役開発本部長兼開発統括部長、04年9月開発本部長兼経営企画担当。09年5月ロック開発(現イオンタウン)専務取締役。10年5月、代表取締役就任。

大門 イオンタウンの前身となる旧ロック開発は、1992年に旧ジャスコ(現イオン)と大和ハウス工業の折半出資によってイオングループの近隣型ショッピングセンター(NSC)専業デベロッパーとして設立されました。

 当時は大規模小売店舗法(旧大店法)によって大型商業施設の出店が規制されていましたが、食品スーパー(SM)の大型化や郊外立地のNSCが増えていくという予測のもとスタートしました。旧ジャスコが持つグループ小売企業やショッピングセンター(SC)運営ノウハウと、大和ハウス工業が持つ専門店の情報やリーシング、開発のノウハウを持ち寄り、NSCの開発に専心してきました。

 95年3月には旧ロック開発が手掛けたNSCの1号店「ロックタウン酒田SC」(山形県酒田市:現・イオンタウン酒田)がオープンしています。その頃は日本に売場面積2000平方メートル超の大型SM(SSM)はほぼ存在せず、当時の核店舗であるマックスバリュ酒田北店(現ザ ビッグ酒田北店)はSMのスーパーストア化の走りでした。

 そして11年8月、グループのNSC事業で培われたノウハウを集約し、さらなる進化を図ることを目的に、イオンの100%子会社となったのです。それに合わせて商号をイオンタウンへと変更しました。当社は13年10月時点で全国119カ所のNSCを運営しています。

──11年11月にはイオンリテール(千葉県/梅本和典社長)ほかより61カ所のNSCの運営がイオンタウンへ移管されました。

大門 イオングループは、12年2月期を初年度とする3カ年の中期経営計画において、グループ内の重複機能の解消を進めています。イオンリテールから当社へのNSCの運営移管はその一環になります。当社は、グループ内のNSC事業を担う専業デベロッパーですので、今後、グループ内のほかのNSCを当社が運営することも検討しています。

──イオンタウンのスタートに当たっては、買物だけではなく、サービスやコミュニティの場づくりを通し、「地域の皆さまにご満足いただける“潤いあるSC”創り」を大きな目標に掲げました。

大門 そうです。それに合わせて、イオンタウンのNSCのキャッチフレーズを「こころはずむ出会い、いっぱい」にしました。

 これはプロジェクトを編成して、「どんなSCが求められているか」「どんなお店をつくりたいか」を数カ月間話し合った結果、生まれた言葉です。

 イオンタウンには、旧ロック開発の社員や、イオンリテールやほかのグループ企業出身のスタッフがいます。同じ方向をめざしてよい会社にしていこうという思いは誰もが持っていましたが、具体的にどのようなNSCなのかが見えにくかったのです。そこでプロジェクトチームを結成し、誰もがわかりやすい言葉で当社のNSCを表現しました。

来期以降は2ケタ出店を継続

──さて、イオンタウンのNSCにはどのようなタイプがありますか。

大門 大きく、「クローズドモール」「オープンエアモール」「オープンモール」の3つに分けることができます。

 「クローズドモール」は、すべての施設が屋内に収まっている形態のSCです。SMやDSを核店舗にし、専門店も同じ建物の中にあるタイプです。全天候型の屋根付きですから、気候に左右されず利用できることがメリットです。

 「オープンエアモール」は、専門店が軒を並べる商店街風の屋外エリアに、SMやDSなどの核店舗を合わせた複合タイプの施設です。これは、よりテーマ性を持たせた商業施設の実現が可能になることがメリットです。

 そして「オープンモール」は、各専門店の建物が独立していて、駐車場を囲むように核店舗や専門店が並ぶタイプのSCです。お客さまは目当てのお店近くに駐車し、買物を楽しむことができます。

 核店舗は、基本的にはグループのSMやDSが中心で、ホームセンターやドラッグストアと共同で出店するケースもあります。

──敷地や店舗規模、専門店数などのモデルはあるのですか。

大門 とくに標準モデルはありません。広さもまちまちで、入居専門店数も30から100以上までとさまざまです。敷地面積は3万坪のものもあれば2000坪のものまであります。都市部に近いほど敷地は狭くなります。

──イオンタウンは14年2月期に、7カ所のNSCを新規に開業しています。SC開発はさらに加速させていくのですか。

大門 はい。改正まちづくり3法の施行や08年9月のリーマン・ショックによる影響で、これまでの数年間は全国的にSCの開発が停滞していました。

 しかし最近はその状況が大きく変わっています。製造業の工場の海外移転や集約化により、全国に遊休地が増えてきているからです。これからはNSC開発に足るような物件がもっと増えてくるとみています。実際、当社は多くの案件を抱えており、来期以降はNSCの2ケタ開設を継続できると思います。

来店動機となる「何か」が必要

──日本では少子高齢化や人口減少が進み、小売業の商環境は厳しさを増しています。人口減少が顕著な地方の事業環境をどのようにみていますか。

大門 人口減少や高齢化にどう対応するのかは当社にとって大きな課題です。

 ほとんどの地方都市はこの2つの問題を抱えています。

 地方では毎年数%ずつ人口が減っていくわけですから、極端なことをいえば数十年後には人口は半分になってしまうかもしれません。とくに県庁所在地以外の都市の人口減少が進んでいます。それに加えて高齢化も進んでいます。高齢者の方は今後、広い商業施設内を隅々まで歩いて買物することができなくなったり、自らクルマを運転して買物に出かけることが困難になってしまう可能性があります。

 その結果、地方のSM企業のなかには営業の継続が困難になる店舗も出てくるでしょう。じわりと人口減少が進み、ハッと気がついた時にはもう遅いという状況になっているかもしれません。

 では、少子高齢化や人口減少にどう対応していくのか。より広域から集客を図るのか、商圏内のシェアを高めていくのか、敷地を拡大するのか、それとも建物をスクラップ&ビルドするのか、ほかの場所へ移転するのか、当社としてもさまざまな対策を想定することができます。高齢化についても、シニア層のニーズを汲み取ったテナント構成が求められます。

 その意味から、今後、5年、10年、20年先まで存続できるのかという視点で、全NSCを根底から見直すことをここ数年でやっていく必要があると考えています。

──NSCの核店舗であるSMやDSはオーバーストア化が進んでいます。NSCとして競合と差別化を図らなければ集客力が低下してしまいます。

大門 そうです。SMやDSのオーバーストア化に加えて、インターネット通販をはじめとした無店舗小売業の市場が急拡大しています。ですから、来店動機となる「何か」がNSCにないと客数の伸びは望めません。

 基本的には、その地域で必要とされる魅力的な専門店を集める《店揃え》が重要になります。そのうえで「お店に行く価値とは何か?」「来店する目的は何なのか?」を突き詰めて考え、NSCに盛り込んでいかなければなりません。それは《癒やし》だったり《集い》なのかもしれません。はっきりいえるのは、従来型の単なる物販やサービスの提供だけでは今後は生き残ることが難しいということです。

イベントとハッピーレター運動が差別化の柱

──では具体的にイオンタウンはどのようなことに力を入れているのですか。

大門 2つあります。

 1つは地域密着型のイベントの実施です。これは一般的な「キャラクターショー」や「ヒーローショー」、芸能人や歌手によるイベントではなくて、NSCの手づくりの企画です。地元の中学校や高校の吹奏楽部による演奏会、調理師の専門学校生による料理教室など、地元の人が参画する内容のイベントです。NSCに入居する専門店が独自に商品選びのポイントなどをお客さまにレクチャーするイベントもあったりします。実際、現在、一部のNSCで年間数百回のイベントを行っています。

イオンタウンはグループのSMやDSを核店舗にしたNSCの開発を手掛ける。写真は13年10月に開業した「イオンタウン彦根」(滋賀県彦根市)。核店舗はイオンビッグ(愛知県/鈴木新樹社長)のDS「ザ・ビッグエクストラ彦根店」

 数あるイベントのなかでも吹奏楽部による演奏会は定番になっていて、それを楽しみにNSCへ来場するお客さまも少なくありません。イベントの企画についても、NPOや学校の関係者から一緒にやらせて欲しいという要望をたくさんいただけるようになってきています。

 大きなSCならばイベント開催のための予算がありますが、NSCはあまりお金をかけられません。ですからイオンタウンや専門店のスタッフ、そしてパートタイマーやアルバイトがアイデアを出し合い、企画を練っているのです。この地域密着型のイベントは旧ロック開発の時代から取り組んでいて、だいぶ定着してきました。

──地元の住民や学校、そしてテナントのスタッフも巻き込んでいるのですね。

13年4月開業の「イオンタウン新船橋」(千葉県船橋市)の屋上にはレンタル菜園を設置。地域住民に貸し出している。屋上には地域住民に開放するイベントスペースもある

大門 そうです。

 NSCのパートタイマーやアルバイトは地元雇用の方が大半ですから、以前からイオンタウンを利用していた方が多くいます。そのスタッフの方からもイベントのアイデアを出してもらいます。自分が考えた企画が実際のイベントとして開催されると、大きな励みになります。NSCのスタッフもお客さまも楽しめる、双方にとってメリットがある取り組みといえます。最終的には、地元の方々とNSCのスタッフによってイベントが主体的に企画・運営されるようにしたい。そうなればお客さまにとっては「私の街のSC」になります。

 そしてもう1つは「ハッピーレター運動」になります。

 これは「すべてはお客さまのために! お客さまが喜ばれることならなんでもしよう!!」をスローガンに、各イオンタウンの全スタッフが、お客さまに喜んでいただいたこと、お褒めいただいたことなどを「ハッピーレター」にしてイオンタウンに提出する取り組みです。専門店、清掃業者、警備の方も対象です。これは3~4年ほど前から開始し、今では1カ所のイオンタウンから年間100通以上の報告があります。

 取り組み内容はそれで終わりではありません。提出された「ハッピーレター」のなかで、とくに心に残る対応をされたスタッフ10人程度を、当社で年に1回行われる政策発表会へお招きし、表彰させていただいています。また、その方々の所属会社の経営トップにもお礼状をお送りし、感謝の気持ちを伝えるようにしています。

13年11月開業の「イオンタウン稲毛長沼」(千葉県千葉市)には、グループの「イオンフィットネススタジオ」と「イオン新体操スクール」が入居する

 「ハッピーレター」の内容は、その対応をしたスタッフにとってはほんの些細なことかもしれません。しかし「お客さまに喜んでいただいた」という事実をイオンタウンが大切にし、さらに表彰もされるとなれば、そのスタッフはより笑顔で接客できるようになると思います。

 スタッフが自らの職場であるSCに愛着を持ち、お客さまにも「私の街のSC」と感じていただけるようになれば、それがイオンタウンの存在意義になるのだと思います。

 当社は、日本や中国、アセアン地域におけるナンバーワンのNSCデベロッパーをめざしています。事業の規模や内容はもちろん、お客さまや地域、そしてSCで働くすべてのスタッフとその家族から高く評価されてこそ「ナンバーワンNSCデベロッパー」になれると考えています。