成城石井(神奈川県)はわずか2店舗の時代から、自社で貿易部門や食品工場を持ち、他社にないオリジナル商品で差別化を図ってきた。店舗数は2013年10月1日現在、108店舗、年商は500億円を超える。「高質スーパー」の多い首都圏の中でも独自のポジションを築いてきた同社は、どのような企業なのか。就任から丸3年を迎えた原社長に聞いた。
基本の徹底がリピート客つくる
──9月に入って「成城石井アトレヴィ大塚店」(東京都豊島区)、「成城石井ペリエ海浜幕張店」(千葉県千葉市)等を相次いで開業しています。足元の状況はいかがですか?
原 昭彦(はら・あきひこ)
1967年生まれ。90年4月成城石井入社。2006年営業本部商品部部長、07年執行役員営業本部本部長兼商品部部長、08年執行役員営業本部本部長兼店舗運営部部長を経て、10年5月取締役執行役員営業本部本部長に就任。10年9月から現職。東京都出身、46歳。
原 2013年度は1月、2月の業績が厳しかったものの、3月以降は売上が回復し、7~9月の3カ月間は予想以上に好調に推移しています。客数、客単価ともに上昇しており、シャンパンやコーヒー、紅茶など嗜好性の強いカテゴリーがよく売れていることが、全体の売上高をけん引しているかたちです。
お客さまの消費動向については、ここ数カ月間で潮目が変わったような印象がありますね。9月前半も好調で、通年でも予算を上回る見通しです。
──前任の大久保恒夫氏から社長をバトンタッチされたのが10年9月。丸3年が経ちましたが、この間、どのようなことに注力してきましたか。
原 私は大学卒業後の1990年4月に当社に入社して以来、常に「お客さまに満足していただける商品を提供していく」という課題に取り組んできました。そうした当社の軸となる考え方は、大久保さんの時代も現在も、ずっと変わっていません。こうした理念を大きく変えることなく、4つの基本──売場やレジでのあいさつといった接客、クレンリネス、欠品の防止、鮮度管理──を徹底することを、大きな軸に据えています。それがきちんとできていれば、お客さまにはリピーターになっていただけると考えているからです。それに加えて、商品力と販売力、それを支える人材教育に力を入れています。
商品力を支える仕組みが最大の差別化要素
──成城石井は以前から商品開発に力を入れ、独自のマーチャンダイジング(MD)に取り組んできました。そのなかでも原社長がとくに注力しているのはどのような点ですか?
原 「お客さまにおいしいものを提供する」という大きな軸は変わっていませんが、商品調達の方法は少しずつ変化してきています。とくに商品力を支える仕組みは、少しずつ進化を続けています。
当社の商品力を支える仕組みとして、社内に貿易部門があること、セントラルキッチンを持っていること、倉庫や物流を自社で管理していることの3つの大きな特徴が挙げられます。これらを活用しながら、商品力を強化しています。
貿易については、海外から商品を輸入するための貿易部門と、子会社の東京ヨーロッパ貿易を持っています。もちろん商社や卸売業からも商品を買いますが、自社で直接輸入する商品も多数あります。
自社輸入商品のほかに、メーカーに委託して当社のスペックで商品を製造してもらうOEM(Original Equipment Manufacturer)のオリジナル商品、セントラルキッチンで製造する自家製商品があり、こうしたオリジナル商品の総アイテム数は2000以上になります。
セントラルキッチンでは、和洋中等の総菜、デザート、パン、ハム・ソーセージなどを自社で調理人を抱えてつくっています。
店舗で取り扱う総アイテム数は40坪程度の小型店で4000アイテム弱、100~200坪の店舗で8000~1万2000アイテムほどですが、オリジナル商品の売上高構成比は3割強となっています。
──貿易会社を自社で持つメリットは、どこにあるのでしょうか。
原 当社が強みとする“尖った商品”は、大量に仕入れて大量に売るというよりは、少量でも大切に持ってきて売るカテゴリーです。そうなると規模のメリットが出ないため、商社や卸売業は扱いません。本当においしいものを、現地の味を再現できるかたちでお客さまに提供するためには、自社で貿易会社をつくり、物流を組み立てる必要があるのです。
以前はヨーロッパを中心に商品を調達していましたが、ここ数年はアメリカ、カナダの北米、南米、オセアニア、一部アジア、南アフリカ、ヨーロッパと、かなりグローバルになっています。為替の影響もありますので、ヨーロッパに頼るとユーロ高になった際にリスクを伴います。また経済成長の著しいアジア諸国がヨーロッパでの商品調達を増やしていますので、買い負けることもある。そうしたなかで、現在は調達する市場を広げています。
──ふたつめの特徴として挙げられたセントラルキッチンは、どのような特徴がありますか。
原 当社のセントラルキッチンは、できる限り安全・安心な商品をお客さまに提供しようと合成着色料、合成保存料、合成甘味料を使わずに商品をつくっています。これ以外にもさまざまな調味料がありますが、なるべく自然な味に近づけたいと考えています。それができるのは、自社で仕組みをつくり、自社工場を持っているからです。
セントラルキッチンをつくったのは1996年、当時の石井良明社長の時代です。「成城石井アトレ恵比寿店」(東京都渋谷区)のオープン前年。今でいう「駅ナカ」ビジネスを始めるタイミングで、総菜の需要が広がると考えてつくりました。
駅や都心で差別化を図るためには、総菜やワイン、コーヒー、紅茶といった嗜好性の高い商品の品揃えを充実させることが重要です。そうしたニーズに対応できる仕組みをつくり続けることが、商品力につながると考えています。
──12年4月に神奈川県高座郡寒川町の新物流センターを稼働させ、ワインの品質管理を強化しました。このセンターはどのような特徴があるのでしょうか。
原 新物流センターを稼働させることで、従来は複数あった物流倉庫を集約化し、効率化を図りました。物流センターの運営自体は取引先に委託していますが、商品の調達から在庫管理などのオペレーション、配送のスケジュールまで自社で管理しています。
この新センターの特徴はドライ、チルド、冷凍、定温定湿の4温度帯に対応していることです。とくに定温定湿の倉庫はワインを保管するための施設で、24時間コンピュータで管理し、倉庫内の温度と湿度を一定に保っています。倉庫内の温度を15度前後、湿度を60~70%に保つことで、直輸入ワインなどの商品をより高い品質を保って保管できるようになりました。
ワインは、輸入した商品がすぐに店頭に並ぶわけではありません。飲み頃になったタイミングで店頭に並べるため、いったんストックすることになります。ただ、日本の夏の温度、湿度にワインをさらすと、現地で飲むのとは味が変わってしまいますから、適温に保ってワインをストックできる環境が必要なのです。
店舗評価は売上より基本の徹底
──商品力の強化と両輪で、販売力の向上にも力を入れています。具体的にどのような取り組みがありますか?
原 販売力を強化するための取り組みとして、店舗における接客力を定点観測しながら数値化し、人事評価に組み込むというものがあります。
当社は06年から外部のミステリーショッパーを活用し、毎月1回、店舗のクレンリネス、あいさつ、欠品状況をチェックして点数化する仕組みを導入しました。基本を徹底することがリピート客の獲得につながると考えているため、人事評価上もこうした項目の優先順位を高くしています。
業績低迷が続く店舗を見ると、やはり基本項目の評価が低い傾向があります。店長のコミュニケーション力やリーダーシップが、売場にも表れるのでしょう。逆にチームが一丸となって取り組んでいれば、最終的には売場にも反映されます。そのため毎月、数値化して確認できるようにしています。
──人事評価制度では、何を重視していますか?
原 当社の人事評価においては、店舗の売上高は評価項目に含まれていません。競合店ができた、もしくは競合店が撤退した、といった外部要因の影響を受けることもありますので、売上高は一概に店舗の取り組みを反映したものではないと考えるからです。
一方で、本部が指定する「売り込み集中商品」の販売実績は、重要な指標です。毎月128前後のアイテムを選び、その商品を店舗で集中して売ります。こうした商品を決めるのは、その時々に何を売ればいいのか迷わないようにするのがねらいです。商品部が毎月商品を選び、店舗ごとに予算を組み、その販売実績によって店をランク分けし、それに応じて人事評価をしています。
──接客力を高めるために、どのような教育をしていますか?
原 ひとつは、新日本スーパーマーケット協会が主催するレジ検定に積極的に参加しています。レジ検定1級の合格実績は、25人(退職者を含む)。そもそも1級合格者自体が250人程度ですので、10%は当社が占めている計算になります。2級が68人(退職者を含む)、3級が278人(退職者を含む)と、日本の食品スーパー(SM)の中でもトップクラスだと自負しています。レジはお客さまと従業員が最後に会話を交わす場所で、買物体験の印象を決める重要な場ですから、力を入れています。
もうひとつ力を入れている検定が「食品表示検定」です。当社は自社でメーカー機能を持ち、輸入も手掛けていますので、食品表示をメーカー任せにはできません。これも上級取得者が17人、中級が53人、初級が190人。上位の資格取得者には、資格手当を付けて評価しています。
そのほか社内研修にも力を入れており、チーズやワイン、コーヒー、紅茶については外部講師を招いた研修を実施しています。たとえばワインは全部で約80種類を飲み比べますが、その中ではワインの違いを理解するだけでなく、温度管理のできたワインとそれ以外の違いを比較するなど専門知識を身に着けます。そのうえで部門担当者になったり、店長になったりすると、接客の仕方が変わりますね。
こうした研修に加えて、Eラーニングや海外研修などを含めると、年間数千万円を教育費に投資していることになります。
当社が教育に力を入れるのは、商品の価値をきちんとお客さまに伝えられる従業員の存在も、他社との差別化を図ることにつながると考えているからです。食の分野が好きな人が成城石井の商品を知ると、商品がもっと好きになります。自社で見つけた商品を、お求めやすい価格で販売するための仕組みを考え、品揃えして店頭に並べる──という当社のビジネスモデルを理解することで、自社の商品に誇りを持てるようになるはずです。
今秋冬に新業態を開業へ
──今年の秋冬、東京・大手町に女性をメーンターゲットとした食料品店「EPICERIE BONHEUR 成城石井」を、12月には東京・麻布十番にワインバー「Le Bar a Vin 52」を開業します。出店戦略について教えてください。
原 ここ数年は、年間10~15店舗程度を出店してきました。
当社の店舗の中で最も小さいのは「グランゲート東京駅店」(東京都千代田区)の売場面積20坪、最大店舗は「東京ドームラクーア店」(東京都文京区)の190坪です。出店パターンは大きく分けて4つ。フルラインで生鮮食品を揃える店、青果や精肉の一部を扱う店、センターでパックした限られた生鮮食品を扱うグロサリー中心の店、そして30坪前後の小型店です。
ただ、厳密には決まったパターンはないとも言えます。都市部で出店する場合には、さまざまな制約が重なります。たとえば百貨店などではほかに生鮮を扱う店があったり、酒販免許が取れたり取れなかったりする。さまざまな条件がありますので、それぞれのケースに柔軟に対応できることが必要です。フォーマットを固定してしまうと、出店機会が限られてしまうからです。
新業態については、大手町の「EPICERIE BONHEUR 成城石井」は、嗜好性を追求した店舗です。麻布十番のワインバー「Le Bar a Vin 52」は店舗1階部分がSMで、2階部分をワインバーにしました。1階で購入した商品を2階のワインバーで試せるようにして、当社の商品を手軽に食べて、体験していただきたいと考えています。
──関東だけでなく、近年は中部や関西にも出店しています。今後、エリアや立地で注目しているのはどのような物件でしょうか。
原 今期、来期も駅ビルや商業施設内への出店が多い見通しです。中部と関西には、年間1~2店舗ずつは出店したいと考えています。大阪まではセントラルキッチンでつくった総菜を毎日配送しています。エリアは、基本的に当社の物流網でカバーできる範囲内で出店していきます。