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消費者の「食事」の変化に対応!3年で既存店50店舗をリニューアル=サミット田尻 一 社長

首都圏に食品スーパー(SM)を展開するサミット(東京都/田尻一社長)は2013年、創業50周年を迎えた。1963年、米国型の本格的なSMの1号店を日本に初出店した。それから50年──。消費者の生活様式はめまぐるしく変化し、SMは現在、変化対応力を問われている。これまでSM業態の発展を牽引してきたサミットはどのような将来像を描くのか。田尻社長に聞いた。

高付加価値商品を提供して客単価をアップさせる

──まず、2013年3月期連結業績について聞きます。営業収益は対前期比2.4%増の2488億100万円、営業利益は同22.7%減の27億3100万円、経常利益は同25.8%減の24億800万円、当期純利益は同38.7%減の10億8100万円でした。既存店の客数は2.2%減ながら、客単価は同0.5%増になりました。

サミット代表取締役社長
田尻 一(たじり・はじめ)
1956年生まれ。79年、日本大学芸術学部卒業。同年、サミットストア(現・サミット)入社。2001年、取締役就任。03年常務取締役、06年専務取締役を経て、07年6月、代表取締役社長就任。

田尻 既存店の客数が前年割れになったのは、ひとえに競争が厳しさを増しているからです。同業他社の過度の「安売り」や小型SMの出店に加え、コンビニエンスストア(CVS)や食品の販売を強化するドラッグストア(DgS)、そしてネットスーパーや食品宅配に代表されるEコマース企業など、当社の商勢圏内にはさまざまな競合が存在し、日々その存在感を増しています。SMやCVSといった業態の垣根は急速になくなりつつあります。食品を扱う競合がこれだけ増えれば、客数が減ってしまうのは仕方がありません。

 そこで13年3月期は、とくに下期以降、当社の店舗に来店するお客さまに対し、付加価値を高めた商品や関連販売商品を提案する戦術を取りました。それが客単価の同0.5%増につながりました。

──首都圏では低価格競争がより激しくなっています。ナショナルブランド(NB)をはじめとしたコモディティ商品の価格政策についての考え方を教えてください。

田尻 当社から「安売り」を仕掛けることはありません。競合の過度な「安売り」に引きずられてしまう側面は否めませんが、これまでどおり、地域の相場に合わせるのが当社の価格政策の基本です。

 実は、当社には地域の相場に合わせるため、売価設定が十数パターンあります。わかりやすくいうと「1物10価」もあり得るということです。お客さまのマインドに刷り込まれやすいNB商品の価格は、どうしてもエリアの相場や競合店に合わせなければなりません。となると、きめ細かな売価設定が必要になります。それが十数パターンもあるのです。価格に敏感なお客さまは一定数いらっしゃいますので、価格を合わせることは致し方ないことです。これは今後も継続します。

新MD導入の改装で売上が10~15%伸びる

──利益を確保するためには客単価をある程度高めていかなければならなくなります。そのために「サミットストア成城店」(11年10月開業)から始めた新しい商品政策(MD)を既存店に水平展開しているのですね。

田尻 そうです。新MDは、生鮮3部門がそれぞれ半加工品や総菜を手掛けたり、関連する商品を同じ売場に陳列したり、グロサリーを中心に試食を通じて提案する「おためし下さい」などがそれに当たります。成城店のオープン以降、新規出店や既存店の改装のタイミングで取り組み内容を微修正しながら継続していて、ある程度手応えを得ています。

 新しいMDを取り入れた新店は概ね好調で、改装店舗もリニューアル前と比べて売上が10~15%伸びています。

 各取り組み内容については、たとえば店内加工のサラダやカットフルーツを販売する「フレッシュサラダ&カットフルーツ」コーナーの商品の売上は、青果部門全体の売上の7~8%を占めるまで伸びてきています。同じく精肉部門が手掛けるミートデリカ「グリルキッチン」コーナーの商品は部門全体の8~9%、鮮魚の「煮魚・焼魚」も同6%を占めるまでになりました。これらのコーナーは総菜売場のように1カ所にまとめるのではなく、各生鮮売場に分散配置していますから、お客さまも購入しやすいのだと思います。

──今期から改装を通じて新しいMDを既存店に次々と導入しています。

田尻 次の3年で既存店50店舗を改装する計画です。今期は14店舗、来期は20店舗です。現在、1カ月に2店舗のペースで改装を実施していて、担当チームは大忙しです。

 改装には投資がかかるので、今後1~2年は減益決算になるかもしれません。しかし、新MDを導入した店舗は売上が10~15%伸びますから、3年後の数字をとても楽しみにしています。

──新規出店を抑制して、既存の店舗展開エリアのマーケットをしっかりと防衛していくということですね。

田尻 あまり出店エリアを広げては非効率です。せっかく人口の厚い好環境にたくさんの店舗があるのですから、再度、需要を深掘りしたほうがいいという判断です。

 当社は1963年に出店した1号店(現サミットストア野沢店)が現存しています。創業から50年を経て、多くの店の店舗年齢が高くなっています。しかも東京23区内には売場面積150坪から600坪までさまざまな規模の店舗があります。古くて規模の小さい店舗は総菜のアイテム数が少なかったりします。そのような古い店舗を中心に、バックヤードまで含めて大改装し、新しいMDを可能な限り導入していきます。当社のお客さまの中には、「サミットの店舗は古いし総菜も少ない」と思われている方も少なからずいらっしゃいますから、そのイメージをがらりと変えていきたいと考えています。

SMは個性を競う時代へ

──SM企業の多くが苦戦しています。現状の「食」のマーケットについてどのようにとらえていますか。

田尻 総合スーパーやDgS、CVSなど、食品を扱う店舗が多くなりすぎて、供給過剰になっています。どの業態も、ほかの業態からどのようにして食品の需要を奪うかという似たような戦略です。

 日本の消費者の支出総額は、1978年と比べると今は1.5倍に増えています。しかし、78年の食料品支出を100とすると、今は94ぐらいまで減っています。メーカーや卸売業、そしてわれわれ小売業の血のにじむ努力によって商品の単価は下がってきました。日本の消費者は「食」に対してあまりお金を使わなくて済むようになった一方で、ほかへの支出は増やせるようになったのです。消費者の生活の中で、「食」の優先順位は下がってきているのではないでしょうか。

 今、その「食」のマーケットをめがけてDgSやCVSなどが進攻してきています。CVSをはじめとして、SMと同じ価格のNB商品を扱っているのであれば、消費者は自宅から近い店舗に行くはずです。物理的な距離はどうすることもできません。多くのSMが客数減に苦しんでいますが、コモディティ商品を扱っている以上、それはしょうがないことだと思います。

──とすると、大きな売上の拡大が見込めない中では、既存店の戦略がポイントになりますね。

田尻 もちろん新規にファンを増やしていくことは大切ですが、一方で、現在お店に来ていただいているお客さまにも引き続きご利用してもらわなくてはなりません。単身世帯や多人数世帯、若者や高齢者、有職主婦や専業主婦など、食事の事情はそれぞれ異なると思います。ですが、せっかく当社の店舗にご来店いただいたのですから、お客さまの「食」に関するあらゆるニーズに対応し、食料品の買物はすべて当社の店舗でしていただくようにフリクエントなファンになっていただきたい。

──すべての顧客の維持・深耕に力を入れるとなると、打つ手は複雑になります。

田尻 そうです。

 SMにとって、エリアごと、時間帯ごとのマーチャンダイジングがさらに重要になると考えています。価格政策でもそうですが、商圏内の特性は千差万別です。それにきめ細かく対応する必要があります。これからは、MDのベースの7割は共通で、残り3割はエリアの特性に対応しなければだめだと思います。

 また、他店に浮気されないような魅力や個性も必要になります。その個性は企業によってさまざまな考え方があるでしょう。低価格、商品の品質、接客、サービスも個性になります。今は、その個性をお客さまにどのように認識してもらえるかという勝負になっています。

 新しいMDの取り組みを始めて、当社の個性の方向性はある程度見えてきました。ただし、当社の方向性で個性を出すためには人時がかかるので、販売管理費はどうしても増えます。当社の場合は付加価値の高い商品やサービスを提供することで、販売管理費の増加をカバーしていくしかないと考えています。だから売上規模は拡大しても利益率は低くとどまると思います。

消費者の日々の「食事」に急激な変化

──一方で、消費者の「食」の変化への対応はどのように行っているのですか?

田尻 当社は「日々の食事の材料提供業者」と自らを定義していますが、最近、少しだけ変更を加えました。「食事」を、食事の材料、食事そのもの、その中間の半加工品の3つに整理したのです。

 SMの社会的な機能は変わっていませんが、消費者の食事の変化には対応していかなければなりません。先のMDと同じで、7割は変わりませんが、残り3割は常に変えていかなければならないと思っています。

 消費者の生活や食事、購買行動は日々少しずつ変化しています。われわれ小売業は常にアンテナを張って、変化をとらえてそれを売場に打ち出す。これがとても重要で難しい。

 最近、明らかに感じる大きな変化は、消費者の調理時間が短くなっていることです。今、われわれが考える以上に急激な変化が起きています。

 たとえばこの7月前半は猛暑で気温が高い日が続きました。一昔前ならばそうめんや冷麦が飛ぶように売れましたが、今年は気温が高い日でもさっぱりでした。消費者は「鍋で茹でる」ということもしなくなっているのです。代わりに売れたのは、水で洗うだけで食べられるチルドの生麺です。そこにどのような価値を付加して単価を高めていくか。これがポイントになります。

──サミットは「消費者モニター制度」を通じてお客の生の声を聞いたり、「サミットポイントカード」を通じてお客の購買履歴データを取得しています。変化に対応するための武器になりますね。

田尻 モニター制度は、20~50代の主婦層に集まってもらい、話を聞いています。ただ、こちら側に「質問力」がなければ本音は見えてきません。ポイントカードについては、ID-POS(※)ではデータが膨大なので、顧客単位で分析しようがないのが現状です。ですからモニター制度を活用して仮説を立て、購買履歴データで検証するようなかたちで変化対応策を練っています。

 もう1つ、女性社員の活用が武器になると考えています。SMがターゲットにしているのは主婦層ですから、社内にいる400人の女性社員をマーケッターとして活用しない手はありません。一部の部署で女性社員にアドバイザー的な役割を与えています。それがうまくいけばどんどんマーケッターとして活用していきたいと考えています。

──さて、今年は創業50周年。さまざまな仕掛けやイベントを企画しているそうですね。

田尻 11月中旬、当社1号店の野沢店を隣接地に移転新築します。この新しい野沢龍雲寺店は、これまで取り組んできた新しいMDの集大成の位置づけです。当社の現状の変化対応力をすべて売場に表現したいと考えています。

 また、旧野沢店を活用し、期間限定で「スーパーマーケット・ミュージアム」を開設します。SMの歴史を単に振り返るためのものではなく、これからの日本を支える子供達を対象に、SMを知ってもらう場と位置づけています。旧野沢店を「学習館」、野沢龍雲寺店を「体験館」として店舗見学ツアーを企画しています。

 当社は創業50周年の節目を迎えました。今後の50年を見据えてお客さまの変化にしっかりと対応していきたいと考えています。

※ID-POS:顧客ID(identification:顧客を識別するための符号のこと)の付いたPOSデータのこと