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規模の利益を生み出すため、機能と人材を強化する=原信ナルスHD 原 和彦 社長

今年10月にフレッセイホールディングス(群馬県/植木威行社長)と経営統合することを発表した原信ナルスホールディングス(新潟県/原和彦社長)。経営統合により、売上規模2000億円の食品スーパー(SM)が誕生する。アクシアルリテイリングに社名も変更し、新たなスタートを切る。経営統合で、どんな企業をめざすのか。原社長に聞いた。

統合準備委員会で、互いの現状を把握

──今年10月の経営統合に向けた準備作業の進捗状況はいかがですか。

原信ナルスホールディングス 代表取締役社長 原 和彦(はら・かずひこ)1967年生まれ。89年、日本大学農獣医学部卒業、西友フーズ入社。94年、原信入社。2000年、常務取締役。2007年、原信ナルスホールディングス専務取締役執行役員商品統括担当。08年代表取締役社長

 この経営統合は、互いの独自性を尊重しながらも、両社でメリットを追求していくこと。そして、それを行うにあたっての経営の根幹にTQM(トータル・クオリティ・マネジメント)を据えることを植木社長と確認し合いました。それに基づいて今、統合の準備作業を進めているところです。

 「統合準備委員会」を5月の連休前に立ち上げ、これまでに4回ほど会合を持ちました。経営統合でメリットは生み出していきますけれども、メリットありきで進めてしまうと、あとあと綻びが出てこないともかぎりません。ですから、まずは互いをしっかり知ろうということで、現状把握を行っているところです。

──統合準備委員会では、どのような活動をしているのですか。

 おもに執行役員や部長クラスが、両社それぞれ20人前後、総勢40~50人集まっています。商品、財務、人事などいくつか部会を持ち、情報交換をしています。

 これから、経営統合のメリットを生み出していくにあたって、それぞれの部署単位では判断できない問題があります。会社としての考え方はどうなのか、あるいは将来を考えた場合にどう判断したらいいのかといったことが、部署単位で出てきます。それをきちんと判断するというのも統合準備委員会の機能になります。

──互いに現状を把握して、どのような印象を持ちましたか。

 やっていることは両社とも、大体同じなのですが、細かい部分になるといろいろ違ってきます。たとえば、マスターの持ち方一つとっても違います。商品の原価の突き合せをしようとしても、リベートなどの条件があったりしますから、単純にマスター上の原価だけ突き合わせても、正確に比較することは難しいのです。

 独自性を尊重しながら、メリットを生み出していくというのは、じつは非常に難しい。合併の場合は、どちらかの会社の仕組みに一本化すればいいでしょう。

 しかし、われわれの場合は、合併とは違います。純粋持ち株会社の下に各事業会社がぶら下がる形です。それぞれの持ち味や考え方を尊重しながらも、メリットを生み出していこうというものです。合併のほうが、作業としてはラクかもしれません。合併と勘違いする人も多いのですが、合併とはまったく違うものです。

利益生むため川上へ最低でも200店舗が必要

──経営統合によるメリットは、具体的にどのようなことを考えていますか。

 やはり、商品面でのメリットが一番大きいしょう。ただ、これは最終的な話です。

 流通先進国の米国で、消費者が豊かな暮らしを享受できているのは、SMがスケールメリットを生かし、消費者に利益を提供しているからでしょう。米国の経験則からすると、スケールメリットを生み出すには、最低でも200店舗という規模が必要なります。

 ただし、規模さえあればいいわけではなくて、そこには機能が必要になってきます。物流やITなどの機能を持って、規模を生かしきる。さらに、人材も必要になります。

 われわれは、卸さんやメーカーさんから商品を仕入れて、それを売るだけの機能しかありませんが、米国のように、SMがお客さまに利益を提供できるようになるには、川上の原材料の調達までさかのぼれるようになっていかなくてはなりません。

 ところが、その原材料や製造などの知識を持っている人材は、今のチェーンストア業界にはほとんどいません。垂直統合までいかなくても、それに関する知識や技術を持っている人材をもっと育てていく必要があります。

 スケールメリットを生み出すのは、70店舗、1000億円の売上ではとてもできません。200店舗という規模をめざすための経営統合なのです。

現在、建設中の在庫型の物流センター(新潟県長岡市)。今秋の稼動を予定する。物流の整備に伴い、店舗での作業体系も変更する予定だ

──今回の経営統合に、生き残りのためという目的はあったのですか。

 業界内での競争が激しくなっていますから、生き残りのための経営統合というのは、わかりやすいかもしれません。

 確かに、そういう危機感もないわけではありません。けれども、今回の経営統合はただ生き残るだけではなくて、何よりもチェーンストア産業に従事している人間として、社会に貢献したい。「この会社のおかげで、地域の暮らしが豊かになった」と地域のお客さまから言っていただけるような存在になりたいのです。

 端的な例を挙げると、「ユニクロ」さんに「ヒートテック」という商品があります。あのような防寒機能を持つウエアは、今までありませんでした。この商品のおかげで、わたしも冬を快適に暮らせるようになって、ありがたいなと思っています。そう思っている消費者は少なくないでしょう。これは、企業にそれだけの規模があり、機能があり、そこに人材が揃っているからこそできるのです。

 われわれには、SMとしてそこにチャレンジしていきたいという思いがあります。原材料の調達から店頭までをプロデュースできる機能を持つグループにしていかなければならないと考えています。

──経営統合には、メーカーに対する交渉力が高まるというメリットもありますか。

 今まで売上規模が1000億円だったのが、2000億円になりますから、条件面でメリットは出てくるでしょう。けれども、それはある意味では小手先のメリットにすぎません。もちろん1つのステップではありますけれども、それだけが目的ではありません。世の中に貢献していくためには、そこで終わっては何にもなりません。

──川上まで手がけるSM企業は、まだ少ないのではないでしょうか。

 いえ、そんなことはありません。すでに、メリットを生み出している企業があります。むしろ、われわれは周回遅れだと思います。だからといって、慌てているわけではありませんが、先を行っている企業が出てきている事実は認識しなければいけません。

 もはや、取引先からどれだけ安く仕入れたかといったことに終始する時代ではないと思います。これからは、規模や機能や人材をしっかり持ったチェーンストアが生き残ることができますし、そうでないかぎり、世の中には貢献できないのではないでしょうか。

──川上の知識や技術を持つ人材はどのように育成していきますか。

 われわれが30年来取り組んでいるTQMがあります。さまざまなサービスや商品をよくしようという活動です。これを通じて、徹底的に人材を育成していこうと考えています。

 ただ、われわれが携わっていない分野もありますから、すべて自前で人材を育成できるとは思っていません。場合によっては、別の業種から人材を確保していくこともあると思います。今のところ、具体的な話はまったくないですけれども、将来的には別の業種と統合していくという選択肢もあるかもしれません。

600チームのQCサークル 年間2000件以上の改善活動

──経営の根幹に据えるというTQMはいわゆるQC活動のことですか。

春と秋の2回、TQM発表大会を開催している。フレッセイホールディングスとの経営統合においても、経営の根幹にTQMを据える

 われわれはTQMを組織的、継続的なお客さまサービス向上のための経営活動と位置づけています。現場も含めて、わたしたち小売業には、日々いろいろな問題が発生します。それを組織として改善をしていかなくてはいけません。その改善活動を、会社をあげて徹底的に行っています。製造業では一般的かもしれませんが、小売業では少ないと思います。

 1998年から始めた独自のサービスに、レジの袋詰めサービスがあります。これがわかりやすい例でしょう。

 当時、日本ではお客さまが袋に詰めるのが一般的でしたが、米国をはじめ世界各国では店舗側が詰めるのが常識でした。そこで、米国のSMで使われていたレジを真似てつくったレジを1台導入して実験をしたところ、これが非常に好評でした。それで、実験店舗のすべてのレジを切り替えました。ところが、変更したとたんに、お客さまからクレームが殺到したのです。

 調査をしたところ、「レジ台に載せるのが面倒」とか、「ほかの買物客に見られるのが嫌だ」といった声が多く寄せられました。そんなお客さまの不満を解消するため、レジを改良した結果、今のレジの原型が出来上がりました。そのあとも、改良を続けていき、特許を取ったものもあります。そのくらいノウハウに仕上がったのです。

 袋詰めサービスは、他社には真似のできない、差別化できるサービスになりました。なぜノウハウにまで仕上がったかというと、PDCA(仮説・実行・検証・改善)をもとにした改善活動を、地道にやり続けたからなのです。

 当社には今、QCサークルが各店舗に8チーム、全店で600チームくらいあります。取り組む改善活動は多岐にわたりますが、1チームで年間4件くらいですから、全体では年間2000件以上になります。

──そういう活動を今後、両社でさらに強めていくわけですね。

 フレッセイさんも一部、数年前から取り組まれています。当社では、TQMの発表大会を春と秋の2回、新潟市・長岡市・上越市の3会場で開催しています。この春の発表大会には、フレッセイさんからも110人ほどの従業員に参加してもらいました。

在庫型の物流センター稼動 店舗の作業割当の再構築へ

──ところで今年、開設を予定している物流センターは、どんな機能を担うのですか。

 今回の経営統合前から計画していたものですが、現在長岡市内に建設中の在庫型の物流センターを、今秋から稼動させる予定です。

 今は、通過型の物流センターが2拠点あります。このセンターから生鮮食品やドライグロサリーを一緒に、全店舗に2時間以内で届けられる体制をとっています。

 ただ今後、店舗展開エリアが広域になっていくことを考えると、それに応じて物流センターを立ち上げていくのは、合理的ではありません。生鮮食品はそれでもいいのですが、ドライグロサリーを2時間以内の配送にこだわる必要はないからです。

 また、ドライグロサリーは、設備機器などにかかる投資負担が重くなります。店舗展開エリアが広がっても、生鮮食品だけに機能を絞れば、通過型の物流センターの投資負担は軽くなります。ドライグロサリーについては、一括で在庫を持つ形にしますから、卸さんにとっては、2カ所に納品していたのが1ヵ所になるというメリットが生まれます。また現在、倉庫を借りて保管しているPBの在庫も持てるようにします。

──既存の2カ所の通過型の物流センターはどうするのですか。

 機能を変えます。生鮮食品と日配品にほぼ特化しますので、今の通過型の物流センターには余力が生まれます。そこを活用して、数年以内にプロセスセンター(PC)を設けようと考えています。現在もPCはあるのですが、手狭で老朽化してきているため、全面的に見直すつもりです。

 PCによって店舗の作業も変わりますが、それに加えて、ドライグロサリーでは自動発注の導入を予定していますので、これによっても店舗の作業が変わることになります。

 そのため、今の作業体系のままでは、作業がなくなっただけということになりかねません。より付加価値のある作業ができるようにするために、今年は作業に人を割り当てるLSP(レイバー・スケジューリング・プログラム)を構築し直す活動を進めています。物流センター新設というハードの変更の効果を生み出すためにも、LSPの再構築が最大の肝になると思います。

 経営統合で物流をどうするかは、これからですが、共有化できる部分があるかもしれないので、統合準備委員会の中で、今後検討していくことになるでしょう。

──今後のM&A(合併・買収)は、関東のSMが対象になるのでしょうか。

 とくに、関東に絞っているわけではありません。いいお話があれば、前向きに検討させていただきますが、メリットを出しやすいのは近接地域で物流などがつなぎやすいところでしょう。持ち込まれる案件もないわけではありませんが、こればかりはそう簡単に決められることではありません。

──同じ純粋持ち株会社のアークス(北海道/横山清社長)もM&Aを通じて規模を拡大しています。

 もともと、われわれは原信とナルスが経営統合によって純粋持ち株会社を設立して生まれた会社です。アークスさんをモデルとしており、運営方式なども教えていただきました。

 世の中に貢献するために、規模と機能と人材が必要であるわけですが、それを実現するためには、飛び地ではやりにくいだろうと感じています。多少は離れていてもいいかもしれませんが、物流をつなげやすい企業同士がいっしょになったほうがメリットを出しやすいのではないでしょうか。

 それから、TQMを経営の根幹に据えていることが、われわれの最大の特徴と言ってもいいでしょう。そうした経営の考え方を共有できることが重要になります。