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商品、個店経営、開発、財務……業界屈指の高収益チェーン ヤオコーが最強の理由

ヤオコー大

業界への影響力は絶大!安定性抜群の財務

 食品スーパー(SM)業界に少しでも関わる仕事をしていれば、ヤオコー(埼玉県/川野澄人社長)の名を聞かないことはないだろう。

 1890年に埼玉県・小川町に開業した青果店から始まり、今や総店舗数168店舗(※ヤオコー単体、2021年1月末時点)のSMチェーンに成長したヤオコー。同社が業界に与える影響力は絶大で、「商品政策や売場づくりはヤオコーさんをベンチマークしている」というSM関係者も多く、旗艦店をオープンすれば全国から同業者が視察に訪れる。

 その影響力は同業者だけにとどまらず、食品メーカーや卸といった仕入れ先にも及んでおり、「自社商品をヤオコーで力を入れて扱ってもらえるということは、仕入れ先にとって大きなインパクトとなる。『ヤオコーに育ててもらった』と話すベンダー担当者も少なくない」(業界関係者)という。

 なぜ、ヤオコーはこれほどまでに業界で注目されるのか。同社の強さはどこにあるのだろうか。

 「堅実」──。本特集を実施するにあたり、SM業界の専門家やアナリストに「ヤオコーはいったいどんな企業なのか」という質問をぶつけると、このような言葉が返ってくることが多かった。

 ヤオコーの“堅実さ”は、同社の財務を見れば明らかだ。営業収益、営業利益はともに成長し続けており、20年3月期決算でSM企業としては前人未到となる31期連続の増収増益を達成。コロナ禍に伴う“巣ごもり特需”も手伝って、21年3月期も業績は絶好調で、中間決算(連結)では営業収益が対前年同期比14.7%、営業利益が同45.6%増と驚異的な伸び率を叩き出している。通期も記録的な好決算となるのは確実で、増収増益記録は「32」に伸びる見通しだ。

 また、総資産経常利益率( R O A )8.4%、売上高営業利益率4.6%(いずれも20年3月期実績)と、収益性を示す経営指標もSMトップクラスの水準を維持しており、財務の安定性・健全性は抜群だ。ヤオコーが優良チェーンと評価される背景には、こうした財務面の強さがある。

将来の成長を見据えてインフラ整備に積極投資

 そうした“堅実さ”を持つ一方、将来を見据えた投資を積極的に行っている点にも注目したい。

 「チェーンとしての個店経営」を掲げるヤオコーは、1990年代から個店をサポートするためのインフラ整備を着実に進めてきた。近年では、2014年6月に「デリカ・生鮮センター」(埼玉県東松山市)、17年10月に「熊谷物流センター」(埼玉県熊谷市)、20年1月に「松戸チルドセンター」(千葉県松戸市)を開設するなど、インフラ投資に余念がない。これら強固なインフラがヤオコーの強さを下支えしている。

 また、ヤオコーは新規出店にも積極的で、ここ数年は年間6~7店をコンスタントに出店。17年には13年開業の旗艦店「川越南古谷店」を大規模リニューアルし、新たな旗艦店モデルの実験を開始、20年11月には「所沢北原店」を「次なる旗艦店の布石」として増床リニューアルするなど、かねて取り組んでいる旗艦店モデルの進化にも積極的に挑戦している。

20年11月には「所沢北原店」を「次なる旗艦店の布石」として増床リニューアル。

 そして、取材を進めていくと、出店政策にもヤオコーの強さがあることがわかってきた。20年8月に行われた、千葉県松戸市にある病院跡地の活用事業者の公募において、ヤオコーは次点団体の倍以上の提案価格を提示し、同物件を取得している。詳しくは今後の記事で解説するが(電子書籍P.70)、出店地として魅力があるといったん判断したら、同業他社が手を出さない地代でも取得に動くことができる組織体制と、巨額な投資をしても回収できる不動産活用のノウハウをヤオコーは持っているのだ。

 このように、“堅実さ”だけではなく、積極性を持ち合わせているのもヤオコーの強さといえる。

「チェーンとしての個店経営」とは

 ここで忘れてはならないのは、「チェーンとしての」と枕詞がつくものの、ヤオコーは「個店経営」の企業であるという点だ。

 ヤオコーが「個店経営」のSMチェーンであるという事実は、意外と知られていない。ヤオコーは01年3月期を初年度とする3カ年の第3次中期経営計画(中経)の中で「個店経営の推進」を初めて掲げ、川野清巳前社長のもと、個店経営への転換を図ってきたという経緯がある。ヤオコー個店経営の礎を築いた名コンサルタントの島田陽介氏は「地域に密着する店舗が、商圏の特性や消費者の需要に柔軟に対応し、店づくりを主体的に実践するのが『個店経営』だ」と説明する。

 ただ、店舗調査でも明らかにしているが(電子書籍P.58)、ヤオコーの商品づくりや売場づくり、価格政策のほどんどは標準化されている。仕入れや販促の権限の大部分を個店に委譲する、オオゼキ(東京都/石原坂寿美江会長兼社長)のような個店経営とは一線を画する。ヤオコーの個店経営のベースとなっているのはあくまで「チェーンストアの基本」であり、前述のインフラ整備を含めたローコストオペレーションに向けた仕組み化と、個店経営を両立させることで、ヤオコーは高い収益性を実現している。

 もう1つ、ヤオコーを語るうえで欠かせないのが、同社の“提案型”の商品政策(MD)である。ヤオコーが創業時から商勢圏としてきた埼玉県は、東京方面につながる縦の道路はあるものの、県内を横断する道路が少なく、広域型の大型店が成立しにくいという特徴がある。狭商圏、あるいは面積は広くても人口が少ない限定小商圏で生き残るため、ヤオコーは商圏内のあらゆる客層の需要を取り込むことを迫られる。

 そうしたなかで生まれたのが、「ソリューション」の発想だ。「この商品を使ってこんなメニューができます」「こんな食生活はいかがですか」──。顧客の満足を追求し、売場の競争力を高めることで差別化を図る、それがヤオコーの提案型のM Dというわけだ。ソリューション提案の発想は、時代の流れとともに「食生活提案型スーパーマーケット」という名称に変わり、現在はヤオコーの代名詞となっている。

ヤオコーに死角なし!?
増収増益記録の更新なるか

 では、ヤオコーに弱点や課題はないのか。クレディ・スイス証券の風早隆弘氏は「現時点において、ヤオコーにこれといった弱みや死角は見当たらない」と話すが、ここであえて1つ挙げるとすれば、これまでも行ってきた連続的なイノベーションを今後も続けていくことができるのか、という点である。

 すると本特集の取材中にあるニュースが飛び込んできた。ヤオコーが21年2月1日付で、新会社フーコット(埼玉県/新井紀明社長)を設立するという。ヤオコー広報に確認したところ、「現時点で詳細は公表できない」との回答だったが、発表リリースには新会社の資本金は4億円、事業内容は「スーパーマーケット事業」と記されており、「新業態」との文言もあった。

 「ヤオコーの新業態」と聞いて連想されるのは、同社が17年に出店した都市型小型フォーマットの「八百幸成城店」(東京都調布市)だ。初の「八百幸」屋号の出店で業界中の注目を集めたものの、オープンから3年以上が経った現在も2号店は出店されていない。

 「八百幸」とは異なり、別会社を立ち上げてまで挑戦する新業態とはどのような店なのか。ヤオコーはどのようなイノベーションを見せてくれるのか。続報が待たれる。

 前述のとおり、ヤオコーの21年3月期決算は記録的な好決算になる見通しで、来期(22年3月期)に増収増益記録を更新するハードルはこれまでにないほどに高くなると見込まれる。それでも、ヤオコーの川野澄人社長は記録更新に意欲をみせており、22年3月期は例年よりも多い9店舗を新規出店し(21年3月期は6店舗を新規出店)、大型店の改装も増やすとしている。また、SM各社が“コロナ特需”に沸くなか、20年6月から客数アップをねらったEDLP(エブリデイ・ロープライス)政策をスタートするなど、記録更新に向けた布石はすでに打たれている。

 21年3月に3カ年の第9次中経が終了し、22年3月期からは第10次中経がスタートする。第10次中経の詳細はまだ明らかにされていないが、川野社長がこの先3年でどのような成長の絵姿を示すか注目だ。

ヤオコー会社概要

本部所在地 埼玉県川越市新宿町1-10-1
設立 1957年7月(1890年創業)
代表者 川野澄人
資本金 41億9900万円
営業収益 4604億7600万円(2020年3月期実績 ※連結)
店舗数 168店(2021年1月末時点、※単体)

 

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